10 敵の竜

 天竜の滝からの帰路、降雪に阻まれたが、3日かけて国まで戻ってきた。しかし、記憶にある国の姿はもうそこにはなかった。


 木造家屋は焼け落ち、石造りの古い家も使役竜によって破壊され、あたりは煤で汚れている。


 国の象徴であった城の尖塔せんとうはどれも破壊され、崩壊している。


 道端に死体が転がり、燃えた人間は炭化し中から腐敗する。刺し殺された母親の横では、幼い子供が指を加えて凍死とうししている。


 生きた人間も、生きた竜もいない。


 ディアナは竜屋の大きな看板を拾い上げたものの、炭化しており自重で崩壊する。


ディアナ「竜は連れ去ったか…」


 連れされた足跡を見ると、やはり南方面へと伸びている。


レイナード「ダメだ…誰も」


ディアナ「火竜だな」


レイナード「火竜?」


ディアナ「気性の荒い大型竜だ。

     旦那いわく、使役が難しいらしい。

     中央の希少種だが、

     これは1頭2頭の仕業ではない」


レイナード「繁殖させたのか?

      国を襲うために」


ディアナ「可能性はある。

     気性が荒いやつは元来、

     性欲旺盛おうせいだからな」


レイナード「それなら、そいつらがかたきの国か」


ディアナ「まだかたき討ちとか考えてるのか…」


 ディアナが挑発的に息を吹きかけた。


レイナード「ちが…おかげで手がかりが、

      わかったってだけで」


ディアナ「手がかり…まあそうだ。

     火竜の肉は食ってみたい」


レイナード「はぁ?」


ディアナ「地竜はもう食べたからな。

     それに希少種というのだから、

     火竜はさぞ珍味なんだろう」


レイナード「美味しくはないと思う。

      だからひとの手で

      繁殖させなかったんだろ」


ディアナ「そういう考えもあるか。

     ならばあの飛竜も、試しに

     食ってみればよかったな。

     しかし鶏肉には勝てまい…」


 竜舎は燃えて、ディアナの私物も残ってはいない。残ったのは背負っている同胞はらからの毛皮だけ。しかしここには彼女にとって、それよりも大事なものがあった。あるはずだった。


ディアナ「あーっ! なんで!

     私の鶏小屋が壊されてるぞ!」


 当然ではあったが、地竜たちと同じく鶏はすべて奪われて、それどころか小屋も火をつけて破壊されていた。


ディアナ「許さん…っ!

     おい、レイナード!

     これやった犯人を見つけてやる!」


レイナード「ディアナにも執着しゅうちゃくがあるのか」


ディアナ「当然だろっ!

     天竜の宝を踏みにじった罪だ。

     私がこれを許すわけがない!」


 人間同士の戦争には無関心だった天竜、ディアナはいつになくやる気をあらわにした。



 (序章『天竜』終わり)

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竜を撫でる 下之森茂 @UTF

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