09 レイナード

ディアナ「ふひひっ。

     見ろ、レイナード!」


 ディアナの弾む声で顔を上げると、そこには見事な雪の家が出来ていた。


レイナード「こんなに早く、

      ひとりでできるものなのか」


 雪で作ったその家は、大人が何人も入れるほど大きなサイズだった。スピナーが入るぶん、大きく開いた入り口のため、人間用にはまだ未完成である。


ディアナ「スピナーと、よく入ったもんだ。

     天竜の私にかかれば、

     こんなもの昼ごはん前だ」


 そう言って腹の虫を盛大に鳴らす。


ディアナ「スピナーの肉は固くてあまり

     美味しくなかったが、鶏肉はよい。

     それに干し葡萄ぶどうのパンもあるぞ」


 ディアナの提案の通り、昼食を済ます。薪になる木の枝は集まらなかったが、スピナーの積んだ薪はもしものときのために、多めに用意されていた。


レイナード「ディアナ…明日、国に戻ろう」


ディアナ「うむ。一日で着くかわからんが。

     どうなったかは私も気になる」


 ディアナは、スピナーを雇っていた竜屋の仲間の竜たちと、世話になったあの主人を思い浮かべたが、生きている可能性は低い。


レイナード「復興ふっこうができればいいが、

      約束をまだ果たしてない」


ディアナ「約束ぅ? ふぁーあ…」


 鶏肉のもも肉で空腹を満たしたので、スピナーの毛皮を敷いてくつろぐディアナ。


 スピナーの大きな尻尾が雪の家の入り口を支配し、風を防ぐと午睡ごすいを誘い、大きなあくびをした。


レイナード「したぞ! 忘れたのか」


ディアナ「なら私が忘れるはずなかろうが!

     約束になってないに決まってる」


レイナード「俺を案内するって言っただろ」


ディアナ「それは成人したらの話で、

     金も払えんのなら成立もしない。

     条件が整ってないもんを

     約束とは言わん」


 寝そべったまま頬杖をついて、思いつきに笑う。


ディアナ「ははぁ、わかったぞ?

     私の死に際を勘違いして、

     勝手に盛り上がっとったな。

     俺をひとりにするなーって」


 彼女に言われてあの夜を思い出し、レイナードは恥ずかしさに赤面する。


ディアナ「ふひひっ。

     レイナードはそういうとこが、

     面白いから私は結構好きだぞ」


 その言葉に、レイナードは反射的に口を開いた。


レイナード「なら、結婚しよう!」


ディアナ「…はぁ? なぜそうなる」


レイナード「えっ…いや…いいだろ!」


 理由がすぐに思い浮かばず、逆ギレする。


ディアナ「愚息ぐそく愚息ぐそくは頭まで愚息ぐそくか!

     いや、いまじゃただの愚息ぐそくか!」


レイナード「愚息ぐそく愚息ぐそくって言うな!」


ディアナ「ならば証明してやる!」


レイナード「えっ? なにを…」


ディアナ「愚息ぐそくじゃないんだろ?」


 未だに下着姿のディアナが雪の家からい出る。彼女の不敵な笑みに、レイナードは恐れおののく。


レイナード「いや、待って、

      こころの準備が…」


ディアナ「愚息ぐそくが言い訳するんじゃない!」


 初対面のころの威勢の良さはどこへやら。レイナードはディアナの細腕からでも生じる怪力で両足を引っ張られ、雪の家に引きずり込まれた。

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