第18話 後日談3

 ヘンリーとその元取り巻きのクズ三人衆は、毎日のように落盤事故の伴う危険な鉱山労働に従事していた。


 最初の方こそ「貴様のせいだ!」「お前らのせいだ!」と互いに罵り合っていたが、半年も過ぎれば次第にそんな元気もなくなって来た。


 毎日毎日...来る日も来る日も...看守にムチ打たれ、暗い坑道でひたすらスコップを振っていれば自ずとそうなってしまうのだろう。


 いつ終わるとも知れない試練に心を砕かれつつある、そんなある日のことだった。今までにない程の大規模な落盤事故が発生し、罪人含め看守も何人かが犠牲になった。


 ヘンリーとクズ三人衆は奇跡的に無傷で済んだ。そんな彼らの目の前には、明るい日の光が差し込む場所が広がっていた。


 落盤により坑道に新しい出口が出来ていたのだ。しかも看守の姿はどこにもない。


「チャンスだ! 逃げるぞ!」


 ヘンリーとクズ三人衆はまんまと逃げ出した。


「ひゃっほーい! 自由だぜい!」


「やったな! まずなにから行く?」


「そりゃ当然女だろ!」


「あぁ、違いねぇ! もうずっと女を抱いてねぇからな! 溜まりに溜まり捲ってんぜ!」


 全く懲りていない面々である。そんな連中の目の前を運悪く通り掛かった馬車があった。


「おい、見ろ! あの馬車、チラッと中が見えたけど若い女が乗ってやがんぞ!」


「本当か!? やりてぇ!」


「襲っちまおうぜ!」


「ひゃはっー! 久し振りの女だぜい!」


 ケダモノと化した四人は馬車の前に踊り出て道を塞いだ。


「へへへっ! おうおう、さっさと止まりやがれ!」


「女が乗ってんのは分かってんだ! 大人しく出て来やがれ! そうすりゃ命までは取らねぇぜい!」


「ヒヒヒッ! 覚悟しやがれ! たっぷり可愛がってやんぜい!」


 すると馬車の中から屈強な騎士が一人、抜剣しながら出て来た。そして御者を務めていた男も剣を抜いて降りて来た。どうやらボディーガードらしい。


「あ、あれぇ!?」


 当然ながらケダモノ共は徒手空拳である。勝負になる訳がない。


「ちょ、ちょっと待て! 俺は」


 王子だぞと言う暇もなく、ヘンリーとそのケダモノ共はあっという間に斬り伏せられた。


「お嬢様、コイツらどうします?」


「まだ息があるの?」


「えぇ、かろうじて」


「この服って鉱山労働を課せられた罪人のものよね?」


「そうですね。大方脱走でもしたんでしょう」


「そんなクズに用はないわ。トドメを刺しなさい」


「畏まりました」


 それがヘンリーの聞いたこの世で最後の人の声だった。

 

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処刑される未来をなんとか回避したい公爵令嬢と、その公爵令嬢を絶対に処刑したい男爵令嬢のお話 真理亜 @maria-mina

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