プロローグ・2/4

空は晴天、風は東。…多分南南東。

絶好の洗濯日和だけど、今日はお洗濯は無し。


メノーマの大森林にある、小さな森の村。

住民はみんないい人なんだけど…なにせ辺境中の辺境の村だから、過疎化が進んでいて…10代なのは僕とテムだけ。


僕の両親…母さんは僕が物心が付く前に病気で、冒険者だった父さんもある日、遠い場所から報せが来て。そうして身寄りのなくなった僕を、弟さんが父さんと知り合いらしい村長が快く引き取ってくれた。


村に来てからはテムのお母さん…おばさんが良くしてくれたな。10才まではテムの家で一緒に暮らしていたけれど、それじゃ悪いから…自立したかった僕はそのことを村長に相談してみた。そうしたら、村の使ってない家を無償で貸してくれて…それからもう5年も経つんだ。


だからかな。ずっと一緒に時間を過ごしてきたテムに、僕が冒険者になりたいこと、旅に出ることを告げたら、即答で「オレも行く!」って答えたっけ。

旅立つのは村のみんなにちょっと悪い気もしたけれど、でも今は色々な手段ですぐに村に戻ってこれるから、そこは少し安心なんだけれど。


ユウ「行ってくるね、父さん、母さん」


家の裏手にある二人のお墓に手を合わせてから、僕は村の門を目指した───。




門の方を見てみると、テムと村長を含む数人の姿が見えた。───あれが手紙に書いてあったひと達かな?

その中でテムはいち早く僕に気づくと、こちらに尻尾と手をぶんぶんと振り回す。


テム「おい、ユウーーゥ!!

まったくもう、おせーよー!!」


…ちょっと恥ずかしいし、やめて欲しいので、彼らの元へ足早に駆け寄った。


ユウ「もう、大声で呼ぶの恥ずかしいからやめてよ…」


テム「だってよぉ、みんなでお前のこと待ってたんだぞー!!」


???「お前が…本当に…」


テムへの抗議の言葉を発しようとしたところで、女性の…少し驚きの混じったような声が僕の耳に入り、僕の興味はテムより声の方に向かう。


カッチュウ?というのだろうか。

和風の軽鎧に身を包み、大斧を携えた赤いポニーテールの龍人の女性戦士だ。そして、その横には…


????「………」


黒髪に花の髪飾りを付けた犬獣人の少女が。

その手には花飾りのような小さめの杖らしき棒が握られており、彼女は目を輝かせながら僕を真っ直ぐに見据えていた。まるで、それは僕を───懐かしむかのように…?


????「ユウ……」


ユウ「えっ………?」


ふつうに考えるのであれば、彼女達は僕らの護衛に当たる人物なのだろうから、護衛対象の名前を事前に知っていても、何ら不思議ではない。

でも僕が思わずえっ、と口をついて出したのは、会ったことのない僕の名前を感慨深そうに呼んだからだ。更に、僕の方に近づいて来て───


????「ユウ!ユウー!!

やっと…やっと会えたぁ!

わたしが誰だか分かる?

ルピナスだよ!」


???「駄目だルピナスっ!」


と、そこに雌龍人が慌てて少女───ルピナスを手で静止する。


ルピナス「で、でも!アカネ……!」


食い下がるルピナスに対し、雌龍人───アカネは手を退かさないまま首を横に振る。


アカネ「ルピナス…。今はまだ、まだ駄目だ。…信託まで抑えるんだ。いいね?」 


ルピナス「わ、分かったわ、アカネ……。

ごめんなさい…」


アカネ「いいんだ……。アタシだってその気持ちは同じだよ、ルピナス。だから、ね」


…?

二人の会話はかなり不可解だった。まるで…


だが、


テム「お、おいユウ…お前いつの間にこんな…女性お二人と!?

お知り合いになってたんだよ…!?」


なぜか、というか。たぶん、ともいうべきか。

おそらく一番関係のないはずのテムが、血相を変えてひどく動揺していた。


ユウ「え?え、ぇえと…ほら、多分村長が事前に話しているから、名前ぐらい知ってるんじゃな───」


テム「違えよ! だって、だってよ…!!

オレたちが共通で知ってる女性のひとなんて、ヴェロニカさんぐらいなのに…

明らかに、さ…今のは…」


???

テム、いったいどうしたの?…の言葉が喉まで来ていたところで「あー…」と角の横を掻きながら、バツの悪そうな顔で声を漏らしたのはアカネだった。…テムもテムで、なにか言いかけていたように見えたけれど。

その両者で、テムより早くアカネが口を開く。


アカネ「その…ルピナスのことは私から謝らせてくれ。これはまだ、その…なんだ、言えないところで、な」


雌龍人はその端正な顔立ちを崩し、少し困った風に笑う。だが、それを長く続けるつもりではなかったらしく、すぐにスッと表情を戻した。


アカネ「申し遅れて悪かったな。アタシはアカネ。今日、キミら二人の護衛を引き受けた、ただの傭兵稼業の戦士さ。そして」


ルピナス「あ…わたしはルピナスだよ!その…よろしく、お願い、します……」


アカネに促され、半ば反射的に自己紹介を済ませたルピナス。だが、その顔には寂しさが少し見受けられた。


その後、僕とテムも簡易的に自己紹介をふたりに述べた。そんな僕らを一瞥し、アカネが口を開く。


アカネ「それでだな。ユウ、ジャックの手紙は読んでくれたか?」


ユウ「あ、はい、読みました!

アカネさんたちのことも書かれてました…

でも、なんかその、ちょっと書いてあることの大半がよく分からない…っていうのが正直なところ…です」


アカネ「だろうねぇ…信託を受けるまで、アタシらもすべてを伝えられないんだよ、申し訳ないね…。それと、敬語なんて堅苦しいからやめてくれって。アタシのことはアカネって呼んでくれればいいさ。……ああ、テム、キミもね」


ユウ「うんっ…わかったよ。ありがとう、アカネ」


テム「あ、はい! じゃなかった!

うん! 改めて、オレもよろしくな! アカネ!ルピナス!」


…アカネに名前を呼ばれたテムは、見たことないぐらいに尻尾を振っていた。

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獣人幻想物語~プロローグ~ 狐桜ハヤテ🦊🌸 @Kozakura8810

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