獣人幻想物語~プロローグ~

狐桜ハヤテ🦊🌸

プロローグ・1/4

その一瞬は、本当にあっという間だった。


僕は大切な○○○○を守りたくて───


迫ってくる××××から○○○○を庇って───


───あれ?


○○○○って、誰だっけ───?


大切───?


僕は─────────



「────ろ!」


え?


「起ーきーろって!!」


んぁ…んんあ?! えっ ちょ、

ぅわ、うわぁああアあッああぁあ?!?!


(ズザァッ……)


     

??「んぅぅ…」


僕の淡いまどろみは、突然の衝撃で儚くも消し飛ばされてしまった。

まだ焦点の定まらない視界に、わずかな痛覚を感じつつもいまだ覚醒しきれていない脳だったが、いま目の前にあるカオはあまりにも見慣れ過ぎていて、嫌でも認識できる。


??「んふぁ…? あ、テム。おはよ」


村で唯一の幼馴染で、年も同じ。

物心がつく前から家族同然のように共に時間を過ごした親友の"逆さまの顔"に、僕は朝の素晴らしき挨拶をした。


テム「おはよ。じゃねえよ、ユウ!!

お前なんで今日に限ってこんなネボスケなんだよ!!」


ユウ「…え?」


今日に限って?それって?

っていうかなんだろう。妙に全身がだるい。

なんかこう…体が逆さまのような。

あと、ついでに頭と首が……


あ、痛い。

痛い、痛い!

頭と首痛い!!

これベッドから落ちてるって!


ユウ「うぁぁあっ! 痛い! いたっ、あ、ふぁああ〜〜〜〜ぁ…」


意識がはっきりしてきて痛みが襲ってくる分、眠気もまた波を押し返してくる。


なんとか四肢全てを使って上半身を持ち上げ、あくびを挟みつつも…ベッドに腰掛ける。

その一部始終にテムはやや呆れた様子だ。


テム「そこから落ちて、まだ眠いのかよ…。

まったく、オレなんて2時間前から起きてるってのに……」


ユウ「うーん…なんか、ごめん」


テム「いいって。そんなことより、早く支度しろって!」


ユウ「うん…」


支度?

と、言われても今日なにかあったっけ?

…ああ、そっか…!


今日はテムと一緒に《ガラクティカ》へ行って"信託"を受ける日だった…!


テム「オレは外で村のみんなと話してくるから、ユウも早く支度終えて来いよー!」


そう言いながら、足早にテムは僕の家から飛び出して行った。


……思えば、片田舎の小さな村だし、鍵なんて掛ける習慣も無いとはいえど…また勝手にテムは僕の家に入ってきたんだな、という事実に気付く。


しかし、鍵を掛けなかったのも、大事な日に寝坊をかましたのも…全部自分のせいであるという事実も明白である。

こればかりは、先ほどの不法侵入犯を一方的には咎められないだろう。

のだが───


テム「おーいユウ!

お前宛に手紙来てるぞー!

なになに…えーと、親愛なるユウへ?ジャック・ポッターより?だって!

おい、お前宛にジャックさんってひとから手紙だぞー!」


ユウ「んえ?? って……ちょっとテム!?な……ねぇ、それ勝手に読んでるでしょ!?」


この鉄砲玉のような幼馴染は、不法侵入のうえに更に余罪を重ねていくようだ。




身支度─といっても旅ではなく着替え程度だが─を終えた僕は軽い朝食を摂りつつ、先ほどの手紙を皿の横に並べる。…封は幼馴染の手で既に乱雑に切られていた。


春の木漏れ日に湯気を照らされたヤワツノヤギのホットミルク。その横に置いたカカシムギのトーストにキツネアンズのジャムを塗りながら、広げた手紙の文面に目を通す。

入っていたのはその一枚のみで、差出人の欄には大きな肉球の判と「ジャック・ポッター」のサインが書かれている。

…あいにく知っている名ではなかった。


いったい、どこの誰なんだろう。

おそるおそる始めから目を通してみる。



『親愛なるユウへ。

といってもまだこちらの世界では初対面だし、あちらでも二度しか会えていませんでしたね。そしてきっと、この手紙が届く頃は、僕らはまだ初めましてでしょう。


僕はジャック・ポッター。

こちらではガラクティカの一角で小さなカジノを経営させて頂いています。


さて、本題に移るけれど、あまり君を混乱させたくないね。だから短く、すごく曖昧に伝えておく。


まだ全てを話せないんだけど、僕を含む、とある三人が君の信託の瞬間を見届けなければいけないんだ。そういう約束を決めた相手が居てね。


僕も、君がそっちの世界の首都に着く頃を見計らってそちらに向かう。

このことは今日、君の村を訪れているであろう二人にもすでに伝えてある。

そこで落ち合えるのを楽しみにしているよ。


ごめんね、あまりにも急な話で何も飲み込めないだろう。今ここに書きたいことも、すべて君の信託のあとなら話せるんだ。


それでは、良き旅と、親愛なる者たちへの幸運を祈ります。───ジャック・ポッターより』


とても丁寧にしたためられた手紙からは、ほのかに葡萄のような匂いが染み付いていた。

…街で幾度か嗅いだことのある、赤ワインの匂いかな?


そんなことより、ここに書かれている…ジャックさんって方を含むとある三人?

そのうち二人が村に訪れているって?

村長は僕たちの旅の護衛を雇うとか、そんな話を前々からしていたようでもあったけど…

その二人と、ジャックさんというひとが僕の信託を見届ける必要がある───?


あまりにも奇妙な内容を、僕はトーストをモグモグ咀嚼しながら理解しようとしていた。

もう、寝ぼけているハズはないのだけれど…

読めば読むほど…よく分からなかった。


手紙の内容のせいなのか、うまく飲み込めなかったトーストはミルクを飲み干す勢いを借りて完食。食器を片付けつつ、保存が効く食べ物を旅の支度に準備して、と。

一応、この手紙も封筒ごと持っていこう。

愛用しているいつもの剣を腰に提げて───


本当に今日、信託を受けて僕は"冒険者"になるんだな…


朝から少しゴタついたうえに、不思議な手紙のこともあったからか実感が妙に湧かない。

大きな夢の一歩が今日から始まるんだ。

心臓が僕の期待に呼応するかのように動きを早めている。それはまるで、今日という日を鮮明に刻もうとしているかのように。


───よし!

支度を終えた僕は、いよいよ家の外へ出る。


テム達が待っている、みんなの元に向かおう!

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