第二話 アピール作戦
囚われの少女に声をかけたが一向に反応が無かった。
いやーまー、初日だしね。
多分あの子は不安とか疲れなどあるだろうし、しつこく声をかけずに早めに切り上げることにした。
明日のアプローチ作戦を考えながら日課をこなす、そして瞑想中にいつしか俺は眠りこんでいた。
目が覚めて最初に彼女の方を見ると、自分の中のボケ役が当然のようにからかい始める。
「うん、関心関心これこそがロリコンの称号に相応しい行いだ」(ボケ役)
それを聞き流して観察、彼女は前回のままこっちに背中を向けて地面に寝そべっていた。
まだ寝ているのかな?
流石に起こすのは気が引けるので起きるのを待つことにした。
したのだけれど・・・一向に起きる気配がない。
そんなこんなで食事の時間がやって来た、本日の献立は何かのスープと硬めのパン・・・変わり映えのしないいつもの飯だ。
彼女のとこにも飯は置かれても反応が無かったので飯を運んできた監視員が鉄格子を叩いて「ささっと起きろ」と一声をそなえて彼女を起こす。
寝起きのせいか不機嫌そうに監視員を見つめるが、監視員はそんなことを気にせず目覚めたことを確認を終えるとその場を立ち去る。
それを見送った後は彼女は俺の方に目をやると俺はつかさず手を振り挨拶を試みるが、あっさりスルーされる。
そして飯を手に取りこっちに背を向けて食事を始める。
彼女が目覚めたことでこっちはアプローチ作戦のスタートだ。
作戦その1 声を掛ける
名の通りとにかく話をかけ続ける作戦だ。
挨拶から世間話と何か興味の引ける話題を繰り出すのが目的・・・なのだが、反応無し。
作戦1失敗
気を取り直して作戦2 怒らせてみる
これは悪口を言って相手を怒らせて反応をとる作戦だ、これは諸刃の剣で一歩間違えれば二度と口を聞いてくれなくなる可能性がある。
まー、現状では完全に無視されているから大した違いにはならない・・
しかし、まったく無反応なのもおかしい。
反応しない理由があるかもしれない。
一つは言葉が通じない。
俺が話す言語が彼女の使う言語と異なればそれは通じないはず。
でも、反応が全くない。
言語が通じなくても話しかけられている事は分かるはず。
そうすると、もう一つの理由。
耳が聞こえない。
耳が聞こえなければどうしようも無い・・・
最後に完全に無視されていること。
これには心当たりが無い・・・
それなら、悪口でそれを確認。
誰だって悪口を言われれば良い気分ではない、なので何らかの反応が期待できる。
そして、俺が思い付ける限りの悪口をかましてみたが・・・反応が無かった。
これは耳が聞こえないと断定すべきか・・・
その時に俺の中のもう一人が茶々を入れてきた。
「まったく、僕ともあろうかこの程度で諦めるとは情けない」(ボケ役)
「耳が聞こえないのだから仕方がないだろうが」(ツッコミ役)
「それだからダメなんだよ、食事の事を思い出してみ」(ボケ役)
「食事?」(ツッコミ役)
確か、食事が運ばれたのに反応が無かったから監視員が鉄格子を叩いて彼女を起こしたっけ?
「そうか、振動か!」(ツッコミ役)
「えっ、そっち?」(ボケ役)
俺は早速、鉄格子を叩いてみた。
すると彼女は反応して振り向いた。
よっしゃー、これで会話ができる・・・
「どうやって?」(ボケ役)
あっ・・・、そうだった耳が聞こえないんじゃ会話ができないんだった。
「一回落ち着け!」(ボケ役)
「おっ、おう」(ツッコミ役)
「この首輪に原因があるとは思えないのか?」(ボケ役)
それは俺が目覚めた時には既に付けられた首輪で顔の真っ下にあるため自分では見ることは出来ない。
なので一度この首輪が原因と考えた事はなかった。
しかし、もし目の前の少女と同じ首輪だったらおかしな点に気づく。
罪人を繋ぐには細工が凝っているな〜っと思える。
「もしかして、これは何らかの魔法で声を遮断しているてっこと?」(ツッコミ役)
「おそらくな」(ボケ役)
「なぜそんな事に気づけるんだよ、お前も俺なんでしょ?」(ツッコミ役)
「まー、何だろうな鏡で自分を見つめ続けると冷静になるアレかな?」(ボケ役)
「そー言うもん?」(ツッコミ役)
「そー言うもん!っていいのあの子を無視してて?」(ボケ役)
そうだった!呼んでおいて何もしないのは良く無いよね・・・
とりあえず笑顔で手を振ってみる。
「はぁー、またそれか・・・」(ボケ役)
「悪かったな、それしか思いつかなくて・・・そうだ!俺にはまだアレがあった」(ツッコミ役)
俺はスキル・シャドウドールを発動させた。
すると俺の足元の影が浮かび上がりその輪郭を表す。
それを見た少女は目を見開き驚きを見せた。
こらは手応えがあるんじゃないの?
今まで反応がはかった分、喜びが半端なかった。
そのせいなのか、色んなポーズをとって笑わせてみたくなった。
そして、何気ない動きが少女をクスッと笑わせた。
その表情があまりにも可愛くて見惚れてしまっていた。
何だろうなこの気持ちは、あの子が笑った瞬間なにかに報われたような。
この三年間、誰ともコミニケーション取れなかったし。
これが普通と、寂しいとは思ってはいなかったが・・・
誰かと通じ合うってこんなに心が温まるものだったのか・・・。
俺は寂しかったんだ・・・
だから、あの子と少しでも通じ合ったことに喜びを感じてしまったんだ・・・
そして少女は笑っていた自分に気づき照れくさくなったのか、こっちに背を向けた。
つかみは上々かな、これからじっくり仲良くなればいい。
などと思っていましたが、どうやらそんな時間はなかったようだ。
転生先を選べれなくても仲間だけは選ばせて〜 夜天の灯 @sumasenbunko
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