第9話 権力者の愚行
暗闇の中を照らす太陽にあてられて、エンジェルは瞼を震わせた。
そして、しばらくの間、戸の隙間から漏れ出る光に魅了される。
ああ…、もう朝かな……?
「…今こそ……から…力を貸して…れ!」
まどろみを彷徨っていたエンジェルの頭を、聞き慣れた父の声と喧騒が叩き起こす。
その声を聞いてエンジェルはハッとした。
あれからどれくらい時間が経ったのか、声は聞こえるものの、自分がどこにいるのかすらもわからない。
さらに手は背後に回されて、口には
「皆も知っての通り、私には娘がいる…可愛い私の娘、エンジェルだ…。だが、その娘も森に住む人喰いオオカミに連れ去られてしまったのだ…!」
嘘よ!!私はここにいる!!
「んー!んんーん!!」
エンジェルが父の演説に声を荒げても、人々は騒ぎ立てるだけで、誰もエンジェルの存在に気づかない。
「なんてことだ…。森に人喰いオオカミがいるなんて…」
「それよりも早く退治してしまわないと…」
「うちの子も連れ去れないか心配だわ…」
皆、口々に言いたい放題で憶測ばかりを囁きあっている。
「村を守る為に皆の力を貸してくれないか!人喰いオオカミに制裁を!!」
「「人喰いオオカミに制裁を!!」」
ウオオオー!!と村民が盛り上がり、ダニーは壇上から下りると口角が上がり続けるのを止めるのに必死だった。
馬鹿共め…、何も考えずただ雰囲気に乗せられるとは。
これなら、奴を仕留めるのも時間の問題か…。
「んー!!んー!んんー!!」
叫びながらエンジェルは縄の許す限りで暴れ続けた。
壁に足を蹴りつけたり、壁という壁に体当たりしたり。
誰か…!お願い、気づいて…!!
ガラッッッ!!
「…!!」
「エンジェル…!」
久しぶりに浴びた太陽の光の眩しさに一瞬目が眩んだエンジェルだったが、その声の主が誰なのかすぐにわかった。
エンジェルに真実を語ってくれたダニーだ。
「ふぁひー!!」(ダニー!!)
「クソ…!やっぱりおかしいと思ってたんだ!」
そう言いながらダニーはエンジェルの縄を素早く解いてくれた。
「ダニー!!ありがとう!!」
エンジェルはその瞳に涙を溜めながら精一杯のお礼を言った。
「いや、君を一人で帰らせてしまった俺のミスだよ。まさか、こんな強硬手段に出るとは思っていなかったけどね…」
「ダニー、助けて貰ってこんな事いうのは失礼かもしれないけれど、あなたは今すぐここから出て行った方がいいわ…」
エンジェルは恩人に悲しげな瞳で続けた。
「…この村は、今、正しい事が判断できなくなっているの。みんな熱に浮かされて、父の言いなりだわ」
「だから…」と続けるエンジェルにダニーは自身の口に人差し指をそっと立てた。
「僕のことは大丈夫。それよりも早くウルのところに行くんだ。これは君に対する罪滅ぼしでもあるんだ。だから、気にしないで、君は自分のするべき事をしておいで」
じんわりと胸に広がる温かさをそっと抱いて、エンジェルはコクリと頷いた。
そして、振り返る事なく森の中へと姿を消した。
エンジェル…。悲運な運命を辿る君を助けたい…。
でも、それではあの青年までは助ける事ができない。
なら、どうするべきか…。
「はは…、僕も偉そうな事は言えないな」
そう吐き出したダニーから迷いは消えていた。
君に出会えて、あなたに出会えて、幸せでした。 umi @umi3
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