地球のカウントダウン

そのへんにいるありさん

地球のカウントダウン

 某日、「地球脱出計画」は始まりました。世界の偉い人たちが集まって、議論の末に取り決められたものでした。

 その内容の要点は3つ。地球が限界を迎える前にすべての人間が地球を離れること。脱出には高齢者が優先されること。それ以外の者は経済活動を続けること。

 もちろん、私たちは戸惑い反発しました。住み慣れた地球を離れて、生きていく自信がなかったからです。どこへ行くのか、どうやって行くのか、政府の人の言うことは夢のような話ばかりで、とても賛同できませんでした。

 ネットやニュースで騒がれて、計画倒れもやむなしと思われた矢先、突然に第1便は地球を発ちました。どうやら、およそ4000人が乗船したようです。私たちはそこでようやく、政府は本気なのだと理解しました。世界中の国々で、同様の地球脱出計画が試みられました。それから賛同者は日を追う事に増加し、今では1日15万人もの人が旅立って行きます。

 ただ見送ることしかできない私たちは、先に脱出する家族や友人に別れの挨拶をして、これまで通り働いています。時々、給金で買ったものを送ってあげようとは思うのですが、一度船を打ち上げるのにとんでもない費用がかかるので、しぶしぶ諦めるのでした。そして、せめてたくさんの税金を納めて、計画が上手く進むようにと願います。

 地球に残った健康な若者の一部は、新たな仕事に従事しました。地球の天然資源を余さず採取するというものです。地球が終わる日までに終えなければならない重要な仕事でした。

 いつ地球が駄目になってしまうのか、政府は教えてくれません。80億人もの人口が脱出する時間が果たして残されているのでしょうか?単純計算で146年……日々新しい命が生まれるので、おそらくもっとかかるでしょう。途方もない年月をかけた脱出計画です。

 20年もすれば、すべての家庭から最低1人は空へ送られているはずです。そして家族は、一生懸命に働きます。働き手が老人になると、やはり空へ送られます。けれど、家族と再会するには至りません。時の流れは残酷ですね。

 地球は目に見えて弱っていきます。私たちは、この時やっと気付きました。自分たちの手で地球を殺しているということに。でも、もう取り返しがつきません。老人になるまで働けば、死にゆく地球を脱出できるのですから、そうするしかありません。

 私たちは選択を誤りました。どうすればよかったのか、今なら分かるのに、もうどうすることもできないのです。


 ──資源の枯渇するこの地球で、一体いつまで生きられるでしょうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地球のカウントダウン そのへんにいるありさん @SonohenniArisan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ