傷心リコーダー

 今日は、音楽室でリコーダーの演奏発表があった。

 普段であれば、私のリコーダーは快音を響かせてくれる。

 しかし、何故か今日に限っては、気の抜けた音しか出てこなかった。先生からの評価もイマイチだ。


 そして、放課後。

 私のリコーダーはランドセルから飛び出したかと思うと、すごいスピードで転がり始めた。


「どこ行くのー?」


 その後を追ってみれば、リコーダーが飛び込んだのは音楽室。棚に置かれていたシンバルに向かって、一心不乱に駆け寄っていった。

 しかし、シンバルは、そんなリコーダーを弾き飛ばしてしまった。

 リコーダーはめげずに再び近づいていったが、シンバルは見向きもしない。それどころか、その円形の金属ボディで、リコーダーを両側から思いっきり挟み込んでしまった。

 バシーン! と、鈍くて大きな音が響く。

 リコーダーは、その衝撃で床に転がり落ちた。

 ……静寂。

 しばらくして、カラン、という虚しい音と共に、リコーダーの動きは止まった。


 それ以来、リコーダーの音はもっとおかしくなってしまった。

 『ド』を吹いても、『レ』を吹いても、『ミ』を吹いても……すすり泣くような音しか出てこない。

 音楽の先生に相談すると、「あらあら……」と小さく溜息を吐いた。


「それは、どうしようもないわね。しばらく放っておいてあげなさい」

「どうしてですか? 私のリコーダー、何かの病気なんですか?」

「そうね……まぁ、心の病気みたいなものね」

「治す方法は無いんですか?」

「無いわ。時が経つのを待つしかないの。そのリコーダー、とても勇気ある決断をしたのに、失敗しちゃったのよ。だから、今はそっとしておいてあげて」

「そうですか……」


 今まで知らなかったけれど、私のリコーダーは、とても勇敢なヤツだったらしい。

 すごいんだなぁ、私のリコーダー。

 うん。よくやったよ、私のリコーダー。

 今日はその勇気を称えて、リコーダーをピカピカに磨いてあげることにした。

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町に少女あり、好奇心あり ちろ @7401090

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