ユウくんのヒ・ミ・ツ③

「あのさ。実は聞いちゃったんだけど……この前、ユウくんに告白されていたよね?」


 とある休日の昼下がり。

 私の家に遊びに来た同級生のコユキちゃんが、意を決したように言い放った。


「私、トイレに入っていたんだけど、そしたら、『好きです』って声が廊下から聞こえてきて……。声のしたほうを見たら、二人がいたの。聞いちゃってごめんね?」


 なるほど、あの日のことか。

 ユウくんが「女装が好きだ」と告白してくれた、あの日のことだ。

 ……マズいな。

 ユウくんの女装については、他言無用の約束を交わしている。コユキちゃんがアレを聞いていたのだとしたら、なんとか誤魔化さないと。


「そ、それで……オーケーしたの?」

「オーケーというか、何というか……」


 さて、どうやって誤魔化そうか。

 生半可な誤魔化し方では、見抜かれてしまうかもしれない。


「コユキちゃん。これは絶対、他の人に話しちゃダメだよ?」

「うん。言わないよ」

「ユウくんってね、実は……女の子なんだ」

「………………は!?」

「つまり、ユウくんじゃなくて、ユウちゃんなの」

「で、でも! 学校では、男の子の格好をしてるよね!? ど、どういうことなの!?」

「普段はボーイッシュな格好が好きなだけなんだよ。中身は、れっきとした女の子なの」

「え、えぇー……いや、でも、待って、うーん……」


 よし、これでいい。

 これで、問題は無いはずだ。

 たとえ、コユキちゃんが『女の子の格好をしたユウくん』を見かけてしまったとしても――「女の子なんだから、当然か」と思うはず。

 我ながら、完璧な作戦だ。

 自分を褒めてあげたいくらい。


「……あれ? でも、ユウくんが女の子だとしたら、女の子が女の子に告白したことになるわけで……でも、普段は男の子の格好をしているわけで……というか、いつから女の子だって知っていたの? それによって、告白の意味合いは変わってくるわけで……うーん? あれぇ……?」


 しかし、さすがにコユキちゃんも混乱しているようだ。

 何やら、ややこしいことになっている気配もする。

 ここは、自然に話題を逸らすとしよう。


「そんなことより、コユキちゃん。アイスでも食べない?」

「え? い、いや、もっと重大な問題が……」

「ほら、『バリバリさん』だよ。コユキちゃん、『バリバリさん』好きだよね?」

「あ、うん! 『バリバリさん』大好き! 私、雪女だもん!」

「うんうん。このバリバリした食感が良いよね。私は、無難にソーダ味が一番好きかな」

「私、コーンポタージュ味が好きー!」


 人を取り巻く環境は、変化することもある。

 ちょっとずつ、慣れていけばいいのだ。

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