崖っぷちの美人小説家を救ったため窮地に立たされた

春風秋雄

”紫ミドリ”がその娘のペンネームだった

俺が原稿を読み終えるのを、目の前で、辛抱強く待っているのは、まだ二十歳を過ぎたばかりの若手の小説家“紫ミドリ”だ。紫ミドリはペンネームで、本名は以前聞いたが忘れてしまった。印税を振り込む経理担当は知っているだろうが、編集担当の俺には本名は必要ない。今まで3作の本を俺が担当して、今回が4作目ということになる。バカ売れはしないが、経費をペイして、多少おつりがくる程度には売れている。毎月出す点数(冊数)に追われている出版社としては、赤字にならない作家は重宝な存在だ。紫ミドリの4作目は、今まで同様ラブストーリーだ。先日原稿を持ってきて、数か所手直しを頼み、今日、修正を持ってきてくれたというわけだ。修正箇所だけのチェックで、さほど長くない文章なので、その場で読もうとしたのだが、俺は何回も読み返している。何かが足りない。俺がじっと考え込んでいると、紫ミドリがおずおずと尋ねた。

「どうですか?まだダメですか?」

「ダメではないんだけど、なんか、もったいないなと思って」

「もったいない?」

「このベッドシーンのところなんだけど」

俺は原稿を指さしながら説明を始めた。

「リアリティがないんだよな。俺もそれほど経験豊富というわけではないけど、女性は普通、こういう反応はしないんじゃないかな?」

「そうなんですか?」

「いや、こういうのは個人差があるので、こういう反応をする女性もいるのかもしれないけど、まるでAV女優のような反応で、一般の女性には共感されないんじゃないかな。男性が読んでも、AVを見ているようで、物語に入り込めない人が多いと思う」

「そうですか。どうすればいいのでしょう?」

「まあ、今回はこれで出してもいいけど、出来たら次回作はリアリティのあるラブシーンをお願いしたいね」

「リアリティのあるラブシーンって、どうやったら書けますかね?」

「うーん、セクハラと言われるかもしれないけど、自分の経験で書くのが、一番リアリティがあるんじゃないかな」

「私、経験がないんです」

「経験がない?」

「はい」

「経験が少ないのではなく、まったくないの?」

「はい。いままで男性とそういうことをしたことがないんです」

いまどき、この年齢で経験のない女性がいるのか?紫ミドリは、けっこう可愛い。周りの男性は放っておかないと思うのだが、そういう機会がなかったのか?俺は信じられない思いだった。

「じゃあ、いままではどうやって書いていたの?」

「アダルトビデオを見て、こういう感じかなと思って書いていました」

「そうか、それでこんな感じの描写になるんだ」

「やっぱり、リアリティを出すためには、経験した方がいいのでしょうか?」

「まあ、それに越したことはないけど、小説を書くために無理に経験することじゃないからね」

「あのー、藤谷さん」

「なんでしょう?」

「藤谷さんが経験させてくれませんか?」

「え?どういうこと?」

「私、藤谷さんとなら、そういうことしてもいいと思っています」

紫ミドリは、真剣な目で俺を見た。


俺は藤谷信也。38歳の既婚者だ。子供はいない。大学時代に出版社に応募した小説が小さな賞をとり、作家デビューをした。その後2冊の小説を出版したが、デビュー作の売れ行きには程遠く、4作目の原稿を何回も編集担当者に渡したが、どれもボツになり、とうとう4作目は出版されなかった。大学卒業の時に小説家への道はあきらめ、出版社で編集の仕事をする道を選んだ。入社してしばらくは雑誌部門の編集担当になり、その後ビジネス書の編集を経て、8年前からようやく小説などを扱う文芸部門の編集担当になった。現在俺が担当する作家は5人いる。大手の出版社と違い、うちのような弱小出版社ではベストセラーを出せるような作家は抱えていない。だから担当編集者の責任は重大だ。作家がベストセラーを出せるように育てるのも重要だが、うちのような弱小出版社では、赤字になる本は出さないように、編集者が出版するか否かを見極め決断しなければならない。何回原稿を持ってきても売れないと判断した作品は出版しない。何回もボツをくらううちに、俺がそうだったように作家を諦めてしまう人もいる。それはそれで仕方のないことだ。

紫ミドリとの出会いは原稿の持ち込みだった。たまたま俺が対応して、そのまま担当編集者になった。デビュー作を読んだとき、この娘はきっと売れる作家になると思った。俺が育ててみたいと思った。期待通り、デビュー作はそこそこ売れた。若い女性からはもちろん、20代30代の男性からも支持された。順調にいけば3作目あたりでベストセラーとまではいかなくても、実績として残る本を出せると思っていた。しかし、紫ミドリは伸び悩んでいた。そして今回の4作目も、悪くはないが、バカ売れとまではいかないだろうと予測された。


4作目の発売が決まって、印刷会社に入稿データを渡し、あとは印刷が上がるのを待つだけの段階になったところで、恒例の著者とのお疲れ様会を開いた。前作までは編集長も同席していたが、今回は用事があると言って来てくれなかった。紫ミドリへの期待が薄らいでいる証拠だ。しかも、経理から言い渡された予算は、前回よりもはるかに少なく、居酒屋程度に行くのが精いっぱいの予算だった。俺は紫ミドリと居酒屋へ入った。


「4作目の出版、おめでとうございます」

俺がビールジョッキを掲げていうと、

「ありがとうございます」

と紫ミドリは控えめに応えた。

「私、5作目も出せますかね?」

編集長が来なくなり、店もかなりグレードダウンしたことから、紫ミドリも心配になったのだろう。

「大丈夫だよ。今回の本もそれなりに売れると思うし」

「“それなり”ですよね。今の販売部数だと、私自身、印税だけでは食べていけませんし、色々と考えなければいけないですね」

印税は基本的には印刷部数の10%だ。今回の本は定価が1500円で、初版部数が5000部なので、この本の印税は75万円ということになる。もちろん売れ行きがよく、重版になれば印税は加算される。しかし、過去の本はいずれも重版はされなかった。紫ミドリの今までの本の印税は今回と同じ75万円だった。1冊で75万円ということは、年に4冊は出さないと生活できないだろう。ビジネス書ならまだしも、文芸の世界で3か月に1冊のペースで出版するのは物理的に難しい。すると、1冊あたりの印税を増やすしかない。年に2冊出版するとして、年収300万円にするためには、1冊あたり最低でも1万部にしなければならないということだった。

「まあ、焦らないことだよ。この世界、1冊ドーンと売れれば、それからの本は1万部越えということはざらにあるから。今は地道にファンをつかむことだよ」

「この前藤谷さんは、ベッドシーンにリアリティがないと言われていましたよね?ベッドシーンにリアリティが出ると、作品自体が良くなるのですか?」

「僕が言っているリアリティは、登場人物の、その時の心理描写なんだよ。好きで好きでたまらない男性と、初めてベッドを共にする際、その男性の手が自分に触れてきたとき、女性はどのように反応するのか、その時、目をつむっているのか、目を開けているとしたらどこを見ているのか、それらをリアリティに描くことで、その女性が相手男性に対して、どれほど思いを寄せているのか、どれほどその時を待っていたのかが、読者に伝わってくるから、その後の二人の展開においても読者はイメージしやすくなると思うんだよ」

「なるほど、小説においてベッドシーンって、結構重要なんですね」

「もちろん、ベッドシーンを一切描かない作家もたくさんいる。それはそれで、他のシーンで心理描写をうまく描いている。ミドリさんもベッドシーンなしの展開で書きあげてもいいと思うけど、ミドリさんの小説には色気があるから、ベッドシーンをうまく活用すれば良い作品になると思うんだよ」

「だったら、藤谷さん、この前言ったように、藤谷さんが私に経験させて下さい。お願いします」

「それは、この前言ったように、僕には妻がいるからできないよ。妻を裏切ることはしたくないし、何よりミドリさんの作品のベッドシーンで重要なのは、本当に好きな男性と行うリアリティだから、僕と経験しても役に立たないと思うよ」


出版業界においてのルールのひとつに、新刊本は委託販売で、半年以内の期間であれば書店さんは売れなかった本を返本できるというものがある。書店さんは売れた本の代金だけ取次に支払えばよいということだ。紫ミドリの4作目の発売から半年が経過しようとしていた。ちょうど5作目の原稿ができあがりつつあるところだった。そんな折、俺は編集長から呼び出された。

「藤谷、この資料を見てくれ」

編集長から渡された資料は売上データ表だった。紫ミドリの4作目の返本数が大変なことになっていた。この数字だと、初めて赤字を出すことになる。

「紫ミドリは、もう無理だな。5作目は出さなくていいから」

「ちょっと待ってください。彼女には才能があります。もう少しで殻を破ろうとしているんです。もう少し待ってもらえませんか」

「大手の出版社なら気長に育てることができるだろうが、うちはそうはいかないのは藤谷もよくわかっているだろ?今回の売り上げでは印刷代も払えない。その分他の経費を削って支払うことになるんだ。削る経費は社員のボーナスかもしれないんだぞ。これ以上赤字を出せば会社の経営に響いてくるのはわかるだろ?」

「わかっています。次で、次の5作目で、必ず挽回します。カバーもハードカバーでなくて経費のかからないソフトカバーにします。紙質も少し落として印刷代も下げるようにします。ですから、なんとか次の本の結果が出るまで判断を待ってもらえませんか」

俺はそう言って、なんとか編集長を説得した。


その日の夜、俺は紫ミドリに連絡をして、バーで落ち合った。隠し立てしても仕方ないので、状況を包み隠さず話した。

「じゃあ、次の本が最後になるかもしれないんですね」

「最後にしないように、良い作品に仕上げようよ」

「そうすると、やっぱりベッドシーンのリアリティが問題ですか?」

「この際、ベッドシーンを抜きで書いてみるのもいいと思うけどね」

紫ミドリは少し考えてから、静かに語りだした。

「私ね、中学・高校と引きこもりだったんです」

「そうなの?」

「中高一貫の女子高に通っていたんですけど、中学の時にひどいイジメにあって、学校へ行けなくなったんです」

「まったく外に出られなかったの?」

「最初は学校へ行くのが嫌だっただけで、昼間コンビニへ行ったりはしていました。さすがにテストの時だけは学校へ行くようにしていましたけど。でも高校になってからは、そのテストのために登校した時もイジメにあうようになって、だんだん部屋からも出られなくなってしまいました」

今の爽やかな雰囲気からは想像できない過去なので、俺は意外だった。

「高校2年の時に学校をやめて、通信制の高校にしました。親からは高校卒業の資格だけはとってほしいと言われたので」

「転校は考えなかったの?」

「他の学校へ行っても、またイジメられるんじゃないかと思うと、とても通学する気力はなかったです。もうすべてが嫌になっていたので、高校卒業もどうでもいいと思っていました」

俺の周りでは、いじめ問題も引き籠り問題も縁がなかったので、何と言っていいのかわからなかった。

「そんな時に、ある本に出合ったんです。本はインターネットで色々買っていたのですが、SNSで繋がった人からお勧めの本として教えてもらったんです。まったく知らない作家でした。10年以上前に出版された本で、ネットで探したけど絶版になっているのか、中古しか売っていませんでした」

出版社に入る利益は、実売の65%くらいだ。そこから著者へ10%の印税を支払う。だから、実質的には実売の50~55%くらいしか利益がない。そうすると、重版をかけるときは、最低でも1000冊、出来たら3000冊は印刷しないと売れても印刷代で利益が消えてしまう。1000冊刷るのも3000冊刷るのも印刷代はさほど変わらないのだが、在庫が残ったら経費がかさむ。だから、それなりに売れる見込みがなければ在庫切れでも増刷はしない。

「その本は、ファンタジー小説でした。両親がいなくて祖母に育てられた少年が、友達にバカにされながらも強く生きて大人になり、少年が育った町を侵略しようとする敵を相手に、知恵と勇気で戦って、子供の頃に自分をバカにしていた人たちを助けるという物語で、本のタイトルは『紫の風と緑の大地』で、著者は“真宮星也(まみや せいや)”という人でした」

驚いた。真宮星也は俺が小説を書いていた時のペンネームだ。そして紫ミドリが読んだという本は、俺のデビュー作で、唯一売れた本だった。ひょっとして、紫ミドリというペンネームはここからとったのか?

「私はその本に勇気をもらいました。何回も何回も読み返しました。私も主人公の少年のように強くならなければと思えるようになったんです。そして、私も本を書きたいと思いました。真宮星也のように、自分の書いた本を読んだ人が、勇気をもらったり、生きる望みを見つけたり、癒されたり、感動したりする、そんな本を書きたいと思ったのです」

紫ミドリは、俺が真宮星也だということを知っているのだろうか?

「私が小説家になろうと、初めて原稿を持ち込んだのは真宮星也が出版した出版社でした。真宮星也の担当編集者に原稿を見てもらおうと思ったんです。担当の富永さんとお会いし、色々お話を伺いました」

富永さん、懐かしい名前だ。ずっと俺の担当をしてくれていた。そして、最後に俺に引導を渡したのも富永さんだ。

「そしたら、富永さんから、真宮さんは小説家を諦めて、出版社で編集の仕事をしていると聞き、その出版社の名前を教えてもらいました。原稿はその出版社に持ち込もうと思ったのです」

うちに原稿を持ってきたのは、富永さん経由だったのか。

「富永さんは、真宮さんの本名を覚えていませんでした。経理の方に聞いてもらったのですが、書類保存期間を過ぎていたので、資料も残っておらず、結局本名はわかりませんでした」

あの出版社はうちより小さい会社なので、書類の管理はズサンなのだろう。せめて、出版契約書くらいは残しておいてほしい。著作権は切れていないのだから。

「名前はわからなくても、この会社で本を出させてもらっているうちに、いずれは真宮星也に会えるのではないかと思っていました。そしたら、デビュー作の出版が決まって、デザイナーの高木さんと打ち合わせしているときに、高木さんは藤谷さんが真宮星也のペンネームで活躍しているときからの付き合いだと教えてくれました」

高木さんとは、俺のデビュー作からの付き合いで、俺がこの会社に入ってからも、俺が担当する本の装丁(ジャケット)デザインはすべて高木さんに依頼していた。

「驚きました。まさか、私の編集担当が真宮星也だったなんて」

「がっかりしなかった?本を読んで、その著者にあこがれて、実際に著者に会うと、こんな人だったんだと、がっかりする人が多いからね」

「がっかりはしませんでしたけど、描いていたイメージとはかなり違っていました」

「それはがっかりではないの?」

「がっかりではないです。私が思っていたより、ずっと大人でした。落ち着いていて、思慮深くて。でも、少年の心も持ち合わせていて、あの小説のように、とにかく前へ前へと進んでいく人でした」

「それは褒めすぎでしょう」

「そんなことないです。私は、真宮さん、いや、藤谷さんが担当で本当に良かったと思っています」

そこまで言ってもらっても、俺はこの子に何もしてあげられないことがもどかしかった。

「藤谷さん」

紫ミドリの口調が変わって、キッと俺を見据えた。

「私、次の作品にすべてを賭けます。結果はどうであれ、自分で納得できる作品にしたいです」

「うん、俺も最大限に協力するよ」

「だから、私に経験させてください。リアリティのあるベッドシーンを書いて、ワンランク上の恋愛描写にしてみせます」

「しかし、それは…」

「10代の頃から、憧れて、憧れて、自分の支えになった人とベッドを共にするんです。その時の自分自身の心理描写を書いてみたいんです。お願いします」

紫ミドリの真剣な目を見て、俺は断る言葉が出てこなかった。


初めての体験なので、シティーホテルの方が良いのではと提案したが、小説の設定からして、高級ホテルではない方が良いというので、近場のラブホに入った。シャワーを浴びながら俺は、本当に良いのだろうかとまだ迷っていた。その迷いの中に、関係を持ったら、俺は紫ミドリに惚れてしまうのではないかという危惧もあった。しかし、ここまで来てやめるわけにもいかない。それに紫ミドリの、リアルなベッドシーンが描かれた小説を読んでみたいという編集者としての欲望もあった。


紫ミドリは、あの日を境に、とてつもない勢いで書き続けた。途中経過を見せてくれと言ったのだが、全部書き終えるまではダメだと断られた。そして、あの日から、たったの2週間で書き終えた原稿を持ってきた。

「ものすごい速さだね。これ、本にしたら300ページ以上はあるだろ?それを2週間とはビックリだよ」

「もう筆が止まらなくて、書いている最中にどんどん文章が湧き出てきたんです」

「とりあえず読ませてもらうよ」

俺はそう言ってページを開いた。当初の構想と設定が変わっている。主人公は小説家の女の子で、その担当編集者との恋の物語になっていた。ちょっと嫌な予感がした。俺はその場で読むのはやめて、一旦紫ミドリを帰らせた。

紫ミドリが帰ったあと、俺は会議室に籠り、原稿を読んだ。

ものすごい圧力が文章から湧き出ている。俺は夢中になって読み進めた。一気に読み終え、俺は体の力がぬけた。傑作だ。ここまで変わるのか。ベッドシーンだけではない。道を歩いていて、ふと触れた男の手から感じる主人公の官能的な心理描写など絶妙だった。この本は必ず売れる。俺はそう確信した。ソフトカバーなんて、とんでもない。ちゃんとした装丁にしてハードカバーで出そう。

問題は、知っている人が読めば、相手の男性は俺だとすぐわかることだった。特にベッドシーンの手順などは、俺がたどった手順そのままが描かれていた。妻がこれを読んだら、言い訳のしようがない。妻は俺が担当しているということで紫ミドリのファンになってしまい、すべての本を読んでいる。新刊が出れば必ず読むだろう。どうする?ベッドシーンの手順だけでも書き換えてもらうか?ダメだ、そうすると、ここでの主人公の心理描写がバラバラになる。困った。


翌日、紫ミドリが来社した。

「原稿、どうでした?」

紫ミドリが心配そうに聞く。

「最高だった。これほど変わるとは思ってなかった」

「売れますかね?」

「間違いなく売れるだろう。読んだ人は口コミで広めてくれると思う。これだけの本ならプロモーションも予算がとれると思う」

「よかった。でも、知っている人が読んだら、この男性は藤谷さんだとわかっちゃいますよね?奥さんとか大丈夫ですか?何なら、他の出版社に持ち込んでもいいんですけど」

「いや、これはうちで出す。発売まで時間はあるので、嫁さんに関しては何とかする」

俺はそう言い切ったが、まったく自信はなかった。


その日、俺は久しぶりに妻と夜の営みを行った。終わったあと妻が言った。

「なんか、前とパターンが違っていて、凄く興奮した。とても新鮮だったわ。他の女に教わってきたんじゃないでしょうね?」

妻は冗談まじりに言ったが、まんざらでもなかったようだ。この調子で、新しい手順を刷り込み、前の手順を忘れさせるという作戦だが、こんな子供だましの作戦が本当に成功するだろうか?でも、本の発売は決定しているので、やるしかない。本の発売日まで、あと1か月半しかない。それまでに何回出来るのだろうか。最近は月に1回だったが、週に1回、いや、週に2回はしないと効果はないだろう。隣で寝息をたてている妻を起こさないよう、俺は台所へ行き、冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出し、ゴクリと飲みながら、頭の中で今日の手順をおさらいした。

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