あの日の海岸線
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里美の体調が優れない日々。
気晴らしに連れ出したドライブでの気分転換を楽しんだが…
《未来への足跡》『労わりの気持ち』に続くストーリー
https://kakuyomu.jp/works/16817330658268151021/episodes/16817330658334823593
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とある平日。
仕事を終え修二のアパートへ辿り着くと、かなり体調の悪そうな顔をしている里美。
「どうした?顔色悪いぞ。具合悪いなら無理してくる事なかったのに。」
「だって、今日約束したから…」
仕事はきっちりこなすが、日常生活は色々と適当が多い里美のプライベートは周囲も口にするほど手を抜きすぎだ。
賞味期限の切れた何かを口にしたのだろうか?
昨夜は姉妹で回らない寿司を食べに行ったと話していたし食あたりなのか、その可能性もあるだろう。
その後、やはり何か食べ物に当たったのか、里美は嘔吐に襲われた。
しかし、昨夜の寿司が今頃?
付き添う修二は車で夜間救急へ連れて行くべきものか迷ったが、微熱があることで風邪のひき始めだろうと判断し、翌日の診療を待った。
…
翌日、修二は夜中も里美が一度起きて吐いていたのを知っていた。
「仕事休むだろ?マンション帰るか?仕事前に送るぞ。」
「今、動きたくないから…もう少し修二くん家いていい?落ちついたら自分で帰るから…」
「それは全く構わないが…帰るなら気をつけろよ。夜でいいなら送るからゆっくり寝てろ。」
仕事に行かれるような体調ではない里美を残し出勤するのは心苦しかったが、それは仕方ない。
手が空く度に連絡を入れたが、昼休みを最後に電源が入っていないとかで連絡がつかなくなった。
その頃、修二が用意してくれたパインの缶詰めを開け冷蔵庫で冷やしておいたものを食し、胃に少し食べ物が入ると吐き気はだいぶ落ち着いた。
冷んやりとした、さっぱりとした味がスッキリする。
以前食あたりにあった際、嘔吐後の水分補給が再び嘔吐に繋がると知り、里美は食事も水分補給にも警戒していた。
空腹がやって来ると再び襲う嘔吐感。
それが怖くて、今日は一日中ちょこちょこと何かしら口にしていた。
今夜、修二の帰宅は二十一時を越えるらしい。
明日の仕事もあるし一度帰宅したいが、修二の部屋にも着替えはあるしそんな日はよくあるし特に困ることはなかった。
家にいる歩美には何か思われるかもしれないが、妹は人を詮索するような子ではないしもう大学生だ。
世話が必要な年齢でもなく、その辺りは問題ないだろう。
そして予定の時間より少し早めに帰宅した修二。
「大丈夫だったか?これから家、送るよ。」
「パイナップル、全部食べたよ。美味しかった。病院行って来たら、やっぱり胃腸炎でしょうって。薬飲んだら落ち着いた気がする。」
「それなら良かった。明日はこれで復活って所だな。」
食当たりというもの、今までも何度か経験したが不思議なことに今回はお腹を下すことは無かった。
…
金曜日
その後も胃の不快感は続いたものの、仕事をしていれば気軽紛れることもあり病欠した後は休むことなく週末を迎えた。
毎週金曜は職場から修二のアパートへ向かうのが二人の中のお決まりだ。
「今日はどうする?今週具合悪そうだったし今日はナシにするか?」
「明後日のこともあるし今日は家帰るね。」
日曜日は職場の先輩の結婚式へ修二も含め出席することになっていた。
その日は朝から美容院の予約もしてあるし、休養も含め自分のマンションへ帰宅することを選んだ。
今夜も体調が優れなかった。
そろそろ病院へ行くべきかもしれないと感じていたが、実は連日頭痛もあり今週は薬を服用して勤務を続けていた。
季節の変わり目、身体がついて行かれていないような気がする。
春の過ごしやすい日々もそろそろ終わり、半袖で過ごしたい日が増えてきた。
里美はベッドの上で何故か泣いていた。
…
翌日、里美が部屋に来ない修二は桃瀬姉妹の暮らすマンションを訪ねた。
「昨日は休めたか?」
「お陰様で。今日は調子良さそうよ。」
「じゃあ、少し気晴らしにドライブでもどうだ?」
「行くー!」
里美は喜んで誘いに乗った。
二人は車に乗り込むと、会話は自然と仕事の事となる。
「私ね、来月山梨行くんだけど何が有名なの?お土産買って来るね。」
「出張の?俺、あっちの支部はあんまり詳しくないんだよな。知ってる人だと…澤村さんとか今いるのが山梨だっけ?」
「そーそー、居るって聞いた。でね、利佳子も行くから帰り温泉寄って帰ろうって誘ったらね、断られたの。酷いわよね、せっかく行くのに。」
「俺は何で利佳ちゃんが断ったか分かるぞ。桃瀬がすぐに熱がって出たがるからだろ?」
「そうなんだって。私と温泉入っても忙しないって。」
修二も里美の温泉事情は知っていた。
いつだったかの温泉旅行、折角の露天風呂付きの部屋を取ったのにも関わらず、里美は備え付けのベンチに座り修二の入浴剤姿を眺めているばかりだったのだ。
そして冷めると再び入る。
別に悪い事ではないが一緒にいる身としては忙しなく、利佳子の言う事もわからなくはなかった。
仕事とは言え、里美は旅行の様な楽しみを抱いている様だった。
一時間程車を走らせると、海岸線へとやってきた。
新鮮な海鮮丼の看板があちらこちらに掲げられ、食堂へ入ろうとするが里美は拒否反応を示す。
「海鮮は止めておきたいかも…」
「あぁ、そうだったな。もうトラウマか?」
修二は笑いながら今週経験した悲惨な出来事を思いだしたが、里美は正直なところ完全復活は成していなかった。
「笑うなんて酷いよ!辛かったのに。」
「悪い悪い、元気になって何よりだよ。」
潮の香りがする。
日常生活では触れることの少ないこの香りを感じながら、パスタを楽しむのも良かった。
当日のコース料理も可能とのこと、修二がご馳走するからと最上のコースを楽しんだ。
「ステーキもパスタも美味しかったし、ドリンクも可愛かったし、デザートも…お腹いっぱい。修二くんご馳走様でした。」
ニコニコと礼を言う里美の横顔に景色の良いテラス、過ごしやすい気候に恵まれ、久しぶりのデートは二人の心を晴れやかにした。
「明日、ちゃんと遅刻しないで来るのよ?大丈夫?」
「大丈夫だって。明日は朝から美容院行ったりするんだろ?女の子は大変だよなぁ。」
「そうなのよ、服だってお金かかるし。いつも会ってるけど久しぶりに皆んなでゆっくりできるのは楽しみよね。」
この時、楽しそうに過ごしていた里美は後に人生の岐路と言っても過言ではない、目まぐるしい日々が始まるのだった。
…
帰りの車内、里美が訴える。
「ごめん、ちょっと外の空気当たりたい…」
「それはいいが、どうした?車止めるか?」
「ごめん」
国道沿いに見つけたコンビニの駐車場へ入ると、里美は急いで助手席の扉を開け外へ出るとその場にしゃがみんでしまった。
片手を地面に着き、タオルを口元に当て俯く。
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