伝えるべきこと
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修二のことを気に入っている年下女性がいるらしい。
ふとしたタイミングでその彼女と対面することとなった里美は彼女に対して…◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
情報管理部に所属する女性職員の中に、夫である修二のことを偉く気に入っている人物がいることを里美は知っていた。
だが、その女性がこの賀城修二と付き合う事になったらしい。
こんな何とも不思議な噂がきっかけとなり、後々里美自身が元となり彼女に対する理解できぬ経験をすることとなった。
「賀城さんとお付き合いしています。」
その女性は周囲へ、こう宣言したらしい。
当然のことながら、修二が既婚者であることは左手の薬指を見れば言わずと知れた事であり、あえてその様な人物へ好意を示し付き纏うとは、なかなかの女性だろうと噂を聞いていた里美は感じていた。
ただ修二も結婚相手や家族については、あえて公にはしていなかった。
職場に至っては上司や親しい同僚、夫婦共通の知人の範囲に留めたこともあり、修二の結婚相手は外部の人と思っている者もいるようだ。
…
「桃瀬さん、情報管理部の女性が賀城さんとの子どもが出来たと周囲に話しているそうですが…」
「へ?何か噂の内容が変わってない?けど…その話もあの子でしょ?おしゃれな感じの子よね。高木くん知り合い?」
「いえ、僕は…」
数日前、里美の耳に入ってきた情報とは何やら話の内容が変わったようだ。
この組織にはあまり似つかわしくない風貌の噂の女性の存在について、里美の後輩である高木の耳にも届いたらしい。
「賀城がしっかり否定すればそれで終わることよ。私たちは今も変わらず夫婦だから、高木くんは気にしなくて大丈夫よ。」
里美はあまり今回の件について気にしてはいなかったが、修二は誰にでも優しいことで時には誤解を与えてしまう。
過去にも似た出来事があり、その可能性も無きにしも非ずと思っていた。
…
帰宅後、洗面台で手を洗い終え、息子を抱き上げようとした修二は呆れた表情で里美と視線を交わすと、何事もなかったように亮二を軽々と抱いた。
「修二、情報部の女の子と子ども作ったってホントなの?」
「なんだそれ。桃瀬はその話信じるのか?俺が後輩の女の子とそういう事すると思ってるのか?」
「それは…修二くんのことは勿論信じてるけど、あまりにも噂になってるのに何で否定しないのかなって。今日だって私、高木くんに聞かれたのよ。彼は私たちが夫婦だって知ってるから信じてないだろうけど。」
「彼女な…慕ってくれるのはありがたいんだが、それがエスカレートしてるんだよな。」
修二は亮二を強く抱きしめながらコチョコチョとくすぐりながら言葉を漏らすと、息子はキャッキャッと楽しげな声を上げながら修二の腕の中で暴れる。
「それにさ、あの子桃瀬が奥さんだって知らないんじゃないかな。だから知って、万が一桃瀬に危害を加えられたりしたら困るし、放っておいた方がいいと思うんだが。」
里美もそれについては納得できる部分があった。
「周りもそんな事信じるやつはいないと思うし、上層部の人とか親しいやつは俺らの事知ってるだろ?いちいち否定して周ることないさ。」
修二の言うことは最もだった。
…
数日後、今日は夫婦二人して出勤日だ。
修二は上層階のカフェテラスで一人昼食をとっていると、目の前に現れたのは妻の里美。
「あれ?珍しいこともあるもんだなぁ。」
同じ組織で働く者同士とはいえ、所属も職種も違えば一日の行動パターンは異なり、特に修二については個人行動が多い職種であることからも里美ですら修二の仕事中については解らぬ事ばかりだった。
「同席いいかしら?」
「どうぞ。」
家で一緒に食卓を囲むことはあっても、職場で同じテーブルを囲み食事をしたことは無いに等しい。
「次の土曜日、この間話してたテレビ台見に行かない?早めに買わないと亮二にテレビ壊されちゃうもん。」
「天気良かったら行くか。俺も靴買いたいんだよ。」
「じゃあさ、アウトレットも行こうよ。そしたら私もスニーカー買っちゃおうかな。」
ニコニコと楽しそうに話す里美の、仕事中の厳しい顔とは異なるプライベートな姿。
普段の妻として母親としての表情に修二もリラックスしていた。
すると里美の横に座ろうとする人物。
「あ、この子…」
自分の隣で起きている状況の変化に、里美もすぐに隣の席のイスを引く女性が誰なのか気づいた。
「賀城さーん、お疲れさまでーす!私、悪阻であまり食べられなくて…今日はこれだけなんですぅぅぅ。」
「そうか、あんまり無理するなよ。」
(私も『賀城さん』だけど私にも話しかけてる…?)
里美は自分も反応するべきか状況を確かめていたが、彼女とは面識がないこともあり黙っていることにした。
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