命名会議
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間も無く誕生する双子の娘たちの名前について話し合う修二と里美。
色々と候補は出たが、夫婦それぞれのこだわりを取り入れた名前が決定した。
それは家族5人が笑顔になるための心のこもった名前だった。
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修二が日本を立つ前に話し合っておかなければならないことがあった。
これから誕生する双子との名前のこと。
長男亮二の際は妊娠中、あまりにも様々なことがありすぎて事前に面と向かって話し合う機会を持つことができず産後の病院で話し合ったものだ。
もちろん、妊娠中からなんとなくの理想は会話の中で互いに伝えていた。
使いたい字だとか、響き、こだわりだとか。
今回は一体どうなるのだろうか。
「私ね、子どもの頃から憧れてた名前があるの。」
「何?」
「『れいか』ちゃんって名前なのよね。」
これは大学の頃にした覚えがある会話。
「友達のお姉ちゃんなんだけどね、すごく優しくて面倒見が良くてね。私が幼稚園くらいの時すごく遊んでもらって大好きだったの。」
『れいか』というその名前。
時はどう書くのか知らないが、修二はあまり親しみを込めて呼べる気がしなかった。
パッと思い浮かぶ漢字がとても煌びやかで華やかで、我が子に付いた所で恐れ多いような気がしていたから。
これから産まれてくる双子の一人にも、里美はそう付けたいと言ってくるんじゃないかと思っていたが意外にもそうではなかった。
…
「名前、どうする?」
「お腹の子たちの?」
「そ。」
まるでその瞬間自分たちのことを話していると分かっているかのように、ポコポコと反応を始めたお腹に手を添え里美は顔をあげた。
こういうことは女性側の方が熱心に調べたり考えたりしそうなものだが、里美の場合はプライベートなことにおいてはなかなかルーズな面があり気になっていたこともあり今回修二から話を振ってみた。
だがしかし、子どもの名前となっては適当に考えて付けるわけにもいかず、ドイツへ渡ることが決まってからこの件については早めに決めておきたいと考えていたのだ。
「二人で一つになる名前にしたいな。せっかくの双子なんだもん。ずっと一緒に育つわけじゃない?だから二人にとってお守り的な存在になる名前がいいかな。」
里美にしては意外と考えているのだと修二は感心した。
『二人で一つ』と言われても、一体どんな名前だろうか。
健康で育つよう『健二』と『康二』とかこういうことだろうか。
だが女の子にその名前ま流石にまずい。
「じゃあさ、桃瀬は例えばどんなものを考えてるんだ?」
「空と海みたいな自然で対になるような。」
「空ちゃん、海ちゃん…カシロソラ、カシロウミ…」
修二は実際口にして響きを確かめた。
確かに悪くはない気がした。
「けどこれは例えね。もうこれがいいって言うのがあるの。」
「なんだよ、じゃあそれを早く言えって。」
「あのね、愛と優の字を一人ずつに使いたいなって思ってる。」
「いいじゃん、シンプルで。むしろそのままでもいいんじゃないか?」
「そう?修二くんは何か考えてないの?」
『アイ』と『ユウ』
呼ぶ時はそのまま「あいちゃん」「ゆうちゃん」だろうか。
修二も考えていないこともなかったが里美が意外にもきちんと考えていたこともあり、あまりの理由の無さに伝えることを恥じた。
「俺は全然バラバラでも良いと思ってたんだ。だが言う通り折角の双子だからな。桃瀬の言うことに賛成する。」
その後も花の名前なんかも調べ、いくつか使いたいと思う漢字を候補に入れ紙に書き出す。
…
『桜』『桃』『梨』『杏』『菫』『葵』
人気のあるらしい『桜』という名前。
確かに可愛らしいし『桃』とセットで付けたら言うこと無しの名前だが、双子は秋生まれなのだ。
「桜ちゃんと桃ちゃんもいいなぁ…」
「待て?俺ならひな祭りとかその頃に産まれた子を想像するぞ?」
「そうかもしれないけど大丈夫だよ、女の子だし。」
「いや、そういう季節感は大事にした方がいい。」
修二は腕を組み考える。
「さっきの『空そら』と『海うみ』なんか悪くないと思うけど?」
大きな空と海のような、大きな心を持つという意味でも自然的な名前で良いと思ったが、修二はどこか物足りなさを感じていた。
「俺、三文字の名前がいいわ。俺も里美も亮二も三文字の響だし、みんなで揃えたい。」
里美は腕の中で五分ほど前に眠りに就いた亮二を抱え、ユラユラと僅かに揺れながらスヤスヤと眠る我が子を見つめ微笑んだ。
里美がリビングの日中用のベッドに亮二を寝かすことに成功し戻ってくると、紙に何やら書き始めた。
…
『愛梨』
『優梨』
「これで『あいり』と『ゆうり』どう?」
あまりにもシンプルで、そして良い。
読み方に違和感なく、誰もが読むことができ、漢字を見て女の子だとわかる。
そんな名前を修二も理想としていた。
「急にどうした?」
「今、亮二の顔見てたら急に浮かんで来たの。何となく亮二の名前の響きにも似てない?」
「りょうじ…あいり…ゆうり……確かにな。」
修二も里美もあまり煌びやかな名前は好まなかったが、華やかすぎず読みについても違和感ない、その条件には当てはまっていた。
「それにね…」
里美は二人にこの名前が付くことで、家族5人の笑顔が更に増えるのだと言った。
そしてその意味を聞き、修二はそこまで考えていたのかと思い脱帽した。
新たな家族誕生まで間も無く。
とにかく元気に母子とも無事で、願うことはそれだけなのだ。
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