孤族

COCOちゃん

第1話 あんたが死ねばよかったのに。

「危ない!!」母の怒号とともに信号を無視してきた車と激しくぶつかった。まだ眠かった目もはっきりと覚めた。心臓の鼓動がうるさい。それと一緒に車内は赤く染まっていた。隣にいた兄は頭から血を流して意識が朦朧としていて父は血だらけになりながらもスマホをとって電話をかけていた。母も頭から血を流して意識がなかった。なんの言葉も出ず当たりを見渡すとたくさんの人がスマホをこちらに向けていた。どうして助けない?なんで撮るんだ?そう思っても仕方がない。震えの止まらない手で力いっぱいドアを開けると自分の車は横になっていた。体勢を崩してしまって上に登れない。酷く震える足は使い物にならない。どうしようどうしようと左右をこれでもかと眺めてしまう。でも誰1人大丈夫の言葉もない。きっと父が電話で通報したと思われるパトカーや救助隊が来た。あたりはさらに豹変とし、大騒ぎとなっていた。救助隊が大丈夫ですかと自分を持ち上げ助けてくれて特に外傷がない自分を救助隊は酷く震える自分の背中をさすって安全な場所に連れていってくれた。大丈夫だからね、よく頑張ったねと心優しい言葉に涙がこぼれる。体験したことのない衝撃に心が追いつかない、それすらか夢かとまで思ってしまう。騒ぎの場所を横目で見ると家族が運ばれているのを見てしまった。「お父さんとお母さんとお兄ちゃんは助かるんですか?!」と叫ぶと「必ず助けるよ!」と救助隊の言葉を完全に信じて安心していた。一足早く病院に居た自分は人目の付かない静かな場所に待機させられていた。手術室から医者が告げる。「お母さんは即死して手当てが追いつきませんでした。お父さんは脳からの出血が多くて大量出血死となってしまいました。お兄ちゃんは一命を取り留めたものの状態が急変してそのままなくなってしまいました。最善を尽くしたものの助けられませんでした。申し訳ありませんでした。」医者がそう告げると深く深く頭を下げて謝罪した。それを聞いた瞬間自分はドン底に追い込まれたように膝から崩れ落ちた。

「必ず助けるって言ったじゃないですか。」

「…………」

「それでも医者なんですか?!命を助けるのが医者なんじゃないの?!人の命も助けられない医者なんて医者じゃない!!!」

自分の叫びが病院中に響き渡る。もう何もしても戻ってこないとはわかっていたはずなのに。

「お前も死ねよ!!!人を救えない医者が!!!」

そう叫んでも冷たい背中は振り返ることはなかった。女の看護師が止めに来て襲いかかろうとする自分をきつく抱きかかえた。寂しさと怒りが混ざりあって自我を忘れる。気づけば自分は病院のベットに寝かされていた。もう家族は居ない。これからどんな生活になってしまうんだろう。親戚が引き取ってくれなければ保護施設に連れていかれるのだろうか。ぼーっと外を眺めているとスマホがない事に気がついた。命の次に大事なスマホがなくて余計取り乱してしまう。

「ない、ない、ない!!ない、、なんで、、ない!」

精神科医師の女性が一時的に預かってるだけだから何もしてないよ。と優しく言う。けれどそんなことなど聞いてない。ないと不安で仕方がないと言って無理やり貰おうとしたが退院するか、良くなるまで渡せないと言われこれ以上苦しめるなと癇癪を起こしてよく分からない痛いものを刺され眠らされてしまった。毒りんごの食べた白雪姫になった気分だった。起きて目が覚めるとお見舞いに親戚が数人来てくれたが顔は見ないで外を眺めてるだけにした。

盗み聞きした話には金のこと、自分を誰が引き取るか、葬式はどうするか、などの会話が聞こえて迷惑をかけてしまった事に罪悪感を覚えた。

「なんであの子だけ生きてんだろ、死ねばよかったのに。やけにめんどくさいじゃない。」

そう聞こえた途端涙が込み上げてきて家族の仲のいい人全員に言われてるような気がして怖くてたまらなかった。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいと呪いのように唱えてもなんの意味もないよなと自問自答を繰り返した。湧かない食欲、眠れない夜、そのせいで生活リズムが一気に一変してしまった。けれど病院は規則正しくないといけないため自分はそれについていけず酷くストレスとなって余計に体調が崩れてしまった。けれど理解するのにはあまり時間を費やしなかった。すぐ症状も安定して退院ができスマホも戻ってきた。充電が100%なのを見て優しい人なんだと顔を見てよくわかった。とりあえず自分はおばあちゃん家に置かれることになって車で向かうことになった。玄関に着いて車を乗る前に先生は「お大事に」と笑った。それに応えるようにとびきりの笑顔で「さようならー!」と手を振った。先生は安心したような顔をして病院に戻って行ったのを見た。

車に揺れながら自分は事故のことを思い出してしまった。呼吸が乱れて冷や汗をかいてる自分に親戚の叔母はあんたが死ねばよかったのに。と追い打ちをかけるように解き放った。普段はそんなことを言わない叔母に言われしばらく固まってしまう。

「なんでそんなこと言うの、、?」

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孤族 COCOちゃん @kokorode1105

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