第5話 向き合う
「そう隆志、お前の息子の話だよ。」
「おじいちゃんがなんで誠を知ってるの?」
「そうだな……天に召された後はなんでもありだ。だから気にするな。」
「爺ちゃんや、お前のお母さんやお父さんは、お前と向き合って話す事が出来なかった。
いや……向き合おうとしなかったんだ。
だから隆志が感じてる事や、思ってること、それからお前の将来について話す事が出来なかった。爺ちゃんはお前が落ち込んで悩んでる時に話を聞いてやらなかった事、本当に後悔しているんだ。だからこうしてお前を私の世界に呼び込んだり、夢枕に?出てくるわけだ。」
たしかに今まで何度もおじいちゃんが夢に出てきた事がある。残念ながらいつも内容は覚えていないが。
「うん。わかる。それで僕は何をしたらいいの?」
「もっと息子と向き合ってやってほしい。
お前の事だからきっと
『僕なんかが息子に言う権利ない。』とか
『説得力ないから』とか
『円満に越した事はない。』
とか言って揉め事をさけるだろう?
それはお前の優しさであって、
それはお前の弱さでもあると思うんだ。」
「そうかも知れない。でも……。」
「うん?」
おじいちゃんはお前の意見を言ってみろという顔をしていた。
「どうした?でも…のあと聞かせて。」
「今更どう向き合えばいいかわからないよ。子育ての事は全部妻に任せっぱなしだし。
誠が……息子が僕に意見を求めてるとは思えない。」
すると困ったような顔で
「じゃー…隆志は自分の息子にもお前と同じ様に気を使わすのか?そうやって息子と向き合う前から拒絶するのかい?」
はっとした。
そうか……誠があまり語らないのは、自分たち夫婦がちゃんと向き合っていないからだ。
自分が一番感じてきた事なのに……。
「わかってくれたかい?爺ちゃんはな、
人は何故家族を作るのか?常々考えてしまうんだよ。今の世代の家族たちには何かが欠けているのではないか?とね。隆志はこの電車の乗客を見て何か感じた事はないかい?」
え?
あー……もしかしてスマホを……。
「そう爺ちゃんの時代にはスマホなんてものは無かった。だからみんな思い思いに過ごしている。子供と向き合い、新聞を読み、本を眺めて、居眠りをする。それは一見自由なよつで実はとても大切な事だと思うんだ。
スマホが悪いっていってるんじゃない。
でもスマホに逃げるのは良くない。
『人と向き合う。』『自分と向き合う』のは
、人間には必ずしも必要な行為だと思うわけだ。
だから隆志おまえもどうか息子と向き合って、話を聞いてやって欲しいんだ。
それで間違った事を言ったら怒ってやる。
不安に思っていたら激励してやる。
悲しかった事は受け止めてあげる。
それで良い事があれば手をあげて喜んでやってほしいだ。」
「今さら……僕にできるだろうか?」
「出来るさ生きてさえいれば何度だって。」
「うん。そうだね。」
「それに爺ちゃんなんか死んでから孫と向き合ってる。」
そういって最高の笑顔を見せてくれた。
。。。。。
ピンポーン!!
とLINEの通知音がなった。
スマホは……カバンの中だった。
カバンの中を手探りで探す。
「市民病院の303号室。」
……あれ?今何処だ?次は何駅?
と顔をあげると……
先程までの風景とまるで違う。
前に座る男はスマホゲームに夢中になり、
その隣の女子高生はワイヤレスのイヤホンをつけて音楽を聞いている。おばさん二人は周りを気にせず大きな声でお喋りし、
ベビーカーの前に立つ真っ赤な髪の母親は、
ぐずり出した赤ちゃんに必死でスマホの動画を見せている。
あー日常だ。
いつもと同じ様な風景。
電車の扉が開く。
「あっ!!」
病院のある駅だった。
「降ります!!降ります!!」
と慌てて電車から降りた。
あっおじいちゃんは?
って……んー……なんだったんだ?
俺……寝てないよな?
扉が閉まり電車は音を立ててゆっくりとスピードをあげていった。
おおよそ理解の範疇はこえていたけれど、
今起きていた出来事が嘘ではない事はわかっていた。今まで抱えてきたお荷物は電車の中に置いてきたようだ。
「また墓参りいかなきゃな。サントリーの『レッド』でも墓に持っていかないとね。
とか言ってる場合じゃなかった。市民病院だったな。タクシー拾わなくちゃ。」
平日昼間のタクシー乗り場は並ばずとも乗車する事が出来た。
「市民病院までお願いします。」
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