第14話 景義、秘策を打ち出すこと

 殿中に戻った景義は、千葉常胤、悪四郎、土肥実平――年長の宿老たちが集まっている場所へ、杖を漕ぎ漕ぎ、憔悴した様子でやってきた。


「やれやれ、困りもうした」

 景義は宿老たちの前に、しおしおと腰をおろした。

「景親の梟首のことか」

 悪四郎が尋ねると、景義は「はい」とうなずいた。


「この景義、景親が首、必ず刎ね落とします。それは間違いありませぬが、場所は片瀬川で、刑を執行したいのです」

「片瀬川? 江ノ島の近くのか? ちと遠いな」

 首をかしげる宿老たちに、景義は答えた。

「景親と陽春丸の今際いまわきわに、故郷の大庭領を見せてやりたいのです。これはひとえに、親族としての情け。いまひとつには……」

 と、宿老たちの目を鋭く見まわした。


「鎌倉大庭の領民に、景親が罪人となり、これからはわしが領主となることを、しろしめしたいのです。領地には、景親に心を寄せる郎党も民草も残っております。

 そうした者どもとて、景親がこの景義に引かれてゆく様子を、じかにその目で見れば、心にあきらめもつこうというもの。今後、領地が治めやすくなります。

 わが領で変事でも起ころうものなら、鎌倉全体の作事が滞ってしまう。それだけはなんとしても避けたい。この一事によって、鎌倉大庭をがっちりと固めてしまいたいのです。

 和殿がた、なんとか口ぞえしてもらえませぬか?」


「……それは」

 口ごもった宿老たちに、景義は語気を強めて言った。

「景親は『降人こうにん』ですぞ。本来ならば、処刑などあるまじき降人を処刑するのです。和殿がたにも、つわものの情けというものがありましょう」


 なお口重たげな様子の宿老たちに、景義は囁いた。

「和殿がたは、こたびの常陸ひたち攻め、上総殿に抜きん出て軍功を立てたいのではありませぬかな? この機に上総殿を出し抜くための秘策を、わしは持っておりますぞ」

 思わず、宿老たちは顔を見合わせた。

「いかな?」


「容易なこと。上総殿は景親を預かる身ゆえ、処刑が片瀬川と決まれば、片瀬川まで同行せねばなりませぬ。そのあいだに、軍を進めてしまえばよいのです。上総殿は進軍に遅れ、以後、大きな顔はできなくなりましょう」

「なるほど」

「しかし、佐殿は上総の帰りを待ってから、軍を進めるであろう。上総が帰らぬうちに軍を進めるには、どうすればよいか……」


「なに、それこそが、わしの秘策です。こうすればよいのです」

 景義は、宿老たちに耳打ちした。

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