ムコに行きたい内気な王子を鍛えたら、赤いバラを準備し、お嫁に行きたい私へ会いに来ます!

甘い秋空

平民ですが、王妃になって、みんなに美味しいお弁当を配ります!のティファニー編



「あの令息は、誰でしたっけ?」

 教室のスミにいる男子を見ながら、クラスメイトの令嬢が、小声で私に聞きました。


 ここは王立魔法学園、高等部1年、貴族クラス。


 私は、辺境伯の孫娘、ティファニーと申します。

 金髪碧眼で、顔立ちは、年齢よりも少し幼く見えます。



「第三王子のカール様ですよ」


 彼は、金髪碧眼で、まぁまぁイケメンです。

 制服の胸のバッチは、王族の生徒だけに許されたブルーエメラルドです。


「あぁ、ムコ取り君ね、興味ないわ」


 彼は、兄が二人いるので、ムコに行く予定です。


 この学園は、嫁に行きたい令嬢ばかりで、クラスメイトの令嬢はもちろん、ムコ取り君には興味を示さないのが、普通になっています。


 優良物件は、令嬢同士の裏の話し合いによって、誰がアタックするかの順番が決められており、実質、予約済みの札が貼られています。



「そういえば、先日のお見合いは、どうでしたか?」


 クラスメイトの令嬢に訊ねます。

 この学園にいるうちに、いい男を捕まえないと、政略結婚が待っています。


「また、だめだった!」


 ため息をついています。

 大半の令嬢は、相手が見つかりません。

 爵位の数よりも、令息、令嬢の数のほうが多いのが原因です。


「政略結婚は嫌だ~」

 クラスメイトの令嬢が、ため息をつきます。



「私も、嫁入り先が、見つからないですね」

 領地の兄は婚約が決まったので、嫁入り先を探しています。


「お互い、困りましたね」

 お相手探しが、当面の目標です。



   ◇



「彼は、内気なのかしら」


 第三王子を観察してると、学園で会話している姿は、ほとんど見ません。


 男子同士で話をする時がありますが、王族という壁が邪魔してか、楽しく笑うという姿は、全く見たことがありません。


 いつも、教室のスミで、気配を消しています。



 私も、以前は内気でした。

 でも、お手本となるお姉さまと出会ってから、活発になりました。


 自分と重ね合わせると、なんだか、第三王子を放っておけなくなります。



   ◇



「私の訓練に付き合って下さいませんか」

 第三王子を訓練所へ連れ出します。


 無理やりじゃないですよ。

 彼は、私から話しかけられて、うれしそうでしたよ。



「まずは足腰の鍛錬、100mダッシュを10本です」

 最初なので、流す感じで始めます。



「もう立てないのですか、立つのです第三王子様! 貴方は、王国の星を目指すのではありませんか」


 鼓舞しますが、彼は、地面に横たわり、ゼィゼィ言いながら、首を横に振ります。



   ◇



「第三王子様?」


 次の日、授業を終えて、彼を探しますが、いつものように気配を消しています。

 彼は、私を避けるようになったのでしょうか?


「待ちな、逃がしはしないよ」


 令嬢たちが、彼の行手を塞ぎます。



 彼女たちのイケメンレーダーを、甘く見てはいけません。


 結婚相手として興味は無くても、イケメンは逃がさない彼女たちの特殊能力です。



「第三王子様、今日はマラソンですよ」


 学園の周囲を10キロだけ走ります。

 心肺機能を高めるには必須の修行、、、あれ、当初の目的は何でしたっけ?



 ゴールして、振り向くと、彼がいません。


「逃げられちゃった」


 なんだか、一人になったようで、寂しいです。


 私の日課である、スクワット、腕立て、腹筋を終えた頃、彼が戻って来ました。

 ヘロヘロで、歩く方が早い感じです。



「第三王子様は、魔法が得意なんですから、身体強化とか、疲労回復とか、使ったら良かったのに」


 彼は実力を隠していますが、私の見立てでは、強力な魔力を持っています。


「それ、では、、ハァ、、意味が、ない、、ハァ、、」

 まだ呼吸が整っていないのに、声を絞り出してきました。


 これを根性と呼ぶのでしょうか?



「では、これから近接攻撃のスパーリングをしましょう」

 私からの提案に、彼は、地面で大の字になり、空を見上げたままです。


 根性はあるのですが、体力が付いてこないようです。




   ◇




「君、キャワいいね」


 お昼休み、中庭で、上級生の令息が私に迫ってきました。


 可愛いと言われることは多く、絡まれた経験は何度もありますが、コイツは、目がギラギラして気持ち悪いです。



「どちら様でしょうか?」


 コイツは誰なんだろう? 爵位を示すバッチを隠しています。


 殴ったら、辺境伯家に迷惑がかかる相手かな?


 辺境伯家よりも上なんて、侯爵家以上ですよね。

 少しおとなしくして、様子を見ますか。



「ティファニーから離れろ!」

 突然、男性の声が聞こえました。


 第三王子が、見たことのない真剣な顔で、走り寄ってきます。


「誰だテメェ」

 上級生の令息が、中等部の第三王子に殴りかかりました。


 これは、さすがにマズイ状況です。


 第三王子は、ボコボコにされていますが、急所は上手くかわしています。

 連日のスパーリングが役に立っているようで、良かったです。



 私は、胸のふくらみに隠していたメリケンサックを取り出し、右手にはめます。


「お姫様パンチ!」


 令息のみぞおちに、右ストレートが刺さりました。


 そのまま、地面に転がり、悶絶しています。

 この令息は、退学が確定ですね。それで済むとは思いませんけど。


 口から何かを出しましたが、キラキラなモザイクをかけ、見なかったことにします。



 私のパンチは、王族を護るための、正当防衛です。たぶん。



「俺は、、君を、、護りたい」

 ボコボコにされても、立ち続けた彼です。


 ホホが腫れています。


 私は、胸が熱くなり、悲しいのとは別の感情が湧きあがり、涙が溢れます。



「治癒の魔法をかけます、動かないで下さい」


 本当は、手をかざすだけで治癒できるのですが、今回は特別です。

 顔を近づけ、ホホに軽く口づけしました。




   ◇




「第一王子様が事件を起こして、王族から追放されたそうよ」


 教室中が、朝から大騒ぎです。



「第三王子のカール様が、お嫁さんを探すことになったそうよ」


 上位の貴族を名前で呼んだら、不敬ですよ。

 皆さん、落ち着いて下さい。



「カール様が、赤いバラを準備されましたそうよ」


 え? なにが起こっているの。



「カール様、以前からお慕いしておりました!」

 令嬢たちが、第三王子の周りを囲んでいます。



 彼が、令嬢たちを潜り抜け、なぜか、私のところに来ました。



「ティファニー、今日、学園が終わったら、、、」

「君に会いに行くから」




 ━━ fin ━━




 ティファニーも出演した『平民ですが、王妃になって、みんなに美味しいお弁当を配ります!』が全18話で完結しました。


 こちらの番外編を読んで頂いてた方には、きっと楽しく読んで頂けると思います。


https://kakuyomu.jp/works/16817330657184655811

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