第292話 謎を謎のまま残しておいてくれた(陽菜視点)
「んーーーーーーっ! 楽しかったぁーーー!」
洞窟を出たところで右手を上に挙げて左手で二の腕のところを引っ張りストレッチするようにしながら声を上げる。本当に楽しかった。
こんな経験をして凄い思い出が作れるなんて夢みたいだよ。
「陽菜ちゃん、これ、本当は違う目的で作ったんだけど……今回の陽菜ちゃんの謎解きの功績に対しては本当にちっちゃな勲章なんだけど貰ってくれる?」
しずくちゃんが私に箱を差し出してくる。ドラゴンクエストの宝箱みたいなデザインの両手に乗るくらいの小さな箱。
「ありがとう。中身見てもイイ?」
しずくちゃんの確認をとって箱を開ける。箱の中には「HD」とデザインされたバッジがたくさん入っていた。金属でできていて赤と緑で色まで塗ってある。
「恭ちゃん、これって……」
ほっぺたを人差し指でカリカリしながら恭介くんが照れたようにつぶやく。
「昔、陽菜が江戸川乱歩の少年探偵団シリーズにハマっていた時に少年探偵団の「BD」バッジに憧れて自分で紙の「HD」バッジを作っていたでしょ。あのデザインを思い出してしずくにお願いしてリファインして貰って俺たちみんなで作った「陽菜探偵団」のバッジ、「
「実は俺としずくで3日目の今日のためのレクリエーションとしてみんなで赤猫館の探検と謎解きを予定していて、その景品にバッジを予定していたんだけどまさか陽菜が本物の島の謎を解いちゃったから」
「だから恭介さんと作ったこの「Hina Detectives」バッジを宝があろうがなかろうが今日の宝探しの後でプレゼントしようって話をしていて」
わぁ……すごい。
赤猫館の謎、それは次に私がこの島に上陸した時に解かせてもらおう。
それはそれとして……
「えっと、「HD」の略は「
「ブッ、フハハハハ……陽菜団って……ひな壇芸人じゃないんだから……って痛いっ! 痛いってば恭っち。最近アイアンクローして貰ってなかったらイっちゃうから……谷センの前で弱点のドMイきはヤバいから」
小学生の頃の私のことを笑うみおちゃんが一瞬で恭介くんに捕まっている。いや、笑われても仕方ないと思うんだけど……思い出を笑われたからってあんまりお仕置きしないであげてね。
「ま、まあ、なんにしても陽菜ちゃんと恭介さんの思い出なんだから受け取ってくれて嬉しいよ。結構数を作ったから好きに使ってくれてイイからね」
乱歩の少年探偵団っていう物語の中だと怪人二十面相にさらわれた時にこれを少しずつ道に落して仲間に追跡して貰ったりするんだよね。そんなもったいないことしないしさらわれる予定なんてないけど。
いや、フリじゃないからね! 物語も終盤なのにここから先でさらわれる展開なんてもう起こらないから。
「まるも欲しいんだよ、陽菜団バッジ!」
「陽菜ちゃん、私にも陽菜団バッジを貰えないだろうか? 陽菜団にも武闘派は必要だろう?」
「あ、あーしにもヒナダン? バッジ……プププ、貰っていいかな? 私は主にハニートラップ専門要い
みんながバッジを欲しがってくれるのは嬉しいが、小さい頃の勘違いを連呼されるのは恥ずかしい。それと、みおちゃんは恭介くん相手でもハニートラップ禁止。陽菜探偵団はそんなハレンチな団体じゃありません。
あと恭介くんはベアハッグのフリしてみおちゃんのおっぱいに顔埋めて堪能するの禁止だから! 怒っちゃうからね!?
「陽菜探偵団は浮気調査専門じゃないけど、恭介さんの浮気は一生許さないってことできっちり浮気調査をするってことでいいよね」
しずくちゃんがバッジを一つ受け取りながら宣言する。
「「「意義な~し!」」」
私以外のメンバーが恭介くんの浮気調査について盛り上がってる。今の時代探偵って言ったらそういう仕事が主流だもんね。
恭介くんをチラッと見る。ちょっとだけ言いたいことがあるみたいな顔をしている。大丈夫、そんな顔しなくても私の愛してる人は絶対に裏切らないって分かってるからね。
だから私は浮気調査をする必要を全く感じないんだ……だって私の恭ちゃんで恭介くんだもん。恭介くんのラッシュガードの裾をギュッと掴む。泳いでくれたばかりでまだ濡れている。
「えっと、俺も陽菜探偵団の団員になりたいんだけどイイよね」
「もちろん、恭ちゃんは小学生の時からずっと団員だよ。ね、恭介くん」
恭介くんにも一個手渡す。
「僕も貰っていいかな? 旅の思い出に」
「あ、私も欲しいです。多々良先輩とお揃いだし」
「私も欲しいかな。なんだか公務員試験でも頭がよく働くご利益がありそう」
「「「じゃあ、私たちも」」」
結局この旅行で一緒だった12人全員の胸に「HD」バッジが輝くことになった。しずくちゃん、恭介くん、たくさん作ってくれてありがとう。
朝食をみんなで準備して食べた後は、島を立つ準備。きれいに掃除して島を離れる。
本当はお昼ご飯まで食べてから船に乗り込む予定だったけど、恭介くんの船酔いのひどさを考えたら食事前にここを発った方がいいだろうということになった。
朝食を食べながら、しずくちゃんが琴乃おばあちゃんから昨日の夜聞いた話を教えてくれた。
「もともとあの文章は島の北側のお社の中にご神体の鏡と一緒に置いてあったものらしいの。その紙自体はもう風化してボロボロになりそうだったから、そのままお社に安置するんじゃなくて額装して赤猫館に飾ったらしいのね。
で、青猫館を今回の形に改装した時にたまたまそういう気分だったから自分で揮毫してこっちにも飾ったんだって」
なるほど、多分この島が西園寺家に譲られる時点ですでに鏡も暗号も用済みだったってわけだったのかな。
お宝が残っていたらあの文面自体を他の人の目につく場所に残しておくはずがないもんね。
「本気で探す気になれば測量したりレーザーポインターを使えば春分の日や秋分の日じゃなくても謎解きも宝探しも出来たんだろうけど、琴乃おばあちゃんは宝に興味がなくて私みたいに謎解きしたい人間がこの島に来た時のために謎が解けるように準備してたのかもね
それとも琴乃おばあちゃん自身が私みたいに一回謎を解いてその後わざと謎を謎のまま残しておいてくれたのかも。
その証拠ってわけじゃないけど
「はぁ、おばあちゃんが陽菜ちゃんのことを気に入ってるわけだよ……
私のお見合いの日に恭介さんに興味を持っていたのは事実だけど、一番面白いって言われてて会話にも出てくるのは陽菜ちゃんのことが多いもん。陽菜ちゃん、私の代わりに西園寺グループを継いでみる?
その代わり、恭介さんの面倒は私が見てあげるか……
油断すると悪いことを言おうとする親友のしずくちゃんのほっぺをつねっておく。
いくら親友でも私の目の黒いうちは恭介くんのお世話もお嫁さんの座も誰にも譲る気はないのだ。
船が来て私たちは島を後にする。
いい思い出ばかりの極門島、青猫館、青い空に白い雲、青い海にたくさんのお魚、謎解きに洞窟に……その全部に恭介くんがいてくれた。本当に私は幸せだ。
その恭介くんは今、酔い止めを飲んで私の膝枕で寝ている。今回は荷物を積んでから船に乗り込む直前に酔い止めを飲み、恭介くんが寝付くのを待ってから船は島の桟橋を離れたのでそこまで船酔いに苦しまなかったんじゃないかな?
家に帰ったらお母さんにいっぱい話したいことがある。それに琴乃おばあちゃんに話したいこともいっぱいできた。
しずくちゃんのことも相談にいかないといけないし、まだまだいろいろとやらないといけないことがあるから残りが半分になった夏休みをしっかり楽しみたいと思う。
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※陽菜探偵団のバッジのデザインはこちら↓
https://kakuyomu.jp/users/badtasetedog/news/16817330664939017411
ちょっとした小話
謎解き後、青猫館にて
「ところで赤猫館の謎解きって恭介くんとしずくちゃんで考えてくれたの?」
「ん、ああ、俺たちだけだと陽菜を悩ませることが出来そうな問題を考えるのが難しかったから外部協力者を頼んだ」
「そうなんだ。誰だろう?」
「陽菜も図書委員会で一緒なんじゃないのかな? 1年生の綾瀬エリカって文芸部の子」
「ああ、エリカちゃん。そういえば推理小説が好きって言っていたような」
「しずくが現視研で、俺も光画部が文芸部と部室が近いし、1年の時にクラスが一緒だった矢沢優香の義理の妹になる子らしくて……」
「義理の妹?」
「矢沢優香の弟の矢沢優吾と幼馴染でずっと仲が良くって将来結婚するって誓ってるんだって」
「へぇ、私たちと一緒だね。今まであんまり話したことなかったけどエリカちゃんと今度じっくり話をしてみたい。今回の島の宝探しの話もあるしね。
あ、そうだ。次はいつ島に来れるんだろう? 赤猫館の謎解きしたい」
「う~ん、秋のシルバーウィークに来れないか聞いてみようか? 他のグループが一緒かもしれないけど秋分の日に本当に蝋燭岩の光があの洞穴を照らすところを俺も見てみたいかも」
「あ、それはいいね。しずくちゃんにお願いしてみよう」
という会話の後、陽菜とエリカが仲良くなって秋の旅行には文芸部の3人も参加したとかとかしなかったとか。
謎を作った綾瀬エリカはスピンオフの「姉と幼馴染と僕のちょっとエッチな文芸部日誌~おっきさせた方が勝ちの文芸バトル~」に出てくる文芸部員です。
姉である優香と2人で優吾の取り合いをしていますが、幼馴染結婚する気満々です。
興味があればこちらもどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16817330659710532155
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次回更新は9月28日です。
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