第291話 まさに名探偵とその助手って感じ(陽菜視点)

 き、緊張したぁ……名探偵の人たちって謎解きの時にこんな緊張することしているの?

 今回の私はみおちゃんのドローンがあったおかげでずいぶん楽に謎解きをさせてもらえたと思うけど、やっぱり私は安楽椅子探偵で恭介少年に自分の推理を聞いて貰うくらいで満足だよ。

 こんな風に「名探偵、皆を集めてさてと言い」みたいなのは向いてない。


 今さらになって緊張と興奮で足がガクガクして来たので、帰り道は恭介くんがおんぶして連れて帰ってくれた。


 その恭介くんは岩場の方から戻って来たらまず私のことを高い高いするみたいに持ち上げてくるくる回った。

「陽菜ってすごいと思っていたけど、今回は本当にすごい! 名探偵みたいでめちゃくちゃカッコよかった。なんなの本当に、俺の好きな人が最高すぎてもう堪らないよ」

 そう言って私を下ろした後、ぎゅぅってすごく強い力で抱きしめてくれた。


 うん、宝がどうこうよりもこれが一番のご褒美だよ。

 恭介くんが喜んでくれて褒めてくれる。それが一番誇らしい。


「陽菜ちゃんすごいよ。ちょっとおばあさまに連絡してもいい? いろいろと確認した方がいいと思うし」

「陽菜ちゃんはすごいな。恭介に指示を出している姿はまさに名探偵とその助手って感じだったぞ」

「一部始終、ドローンで撮影してたけどドローンからだけじゃなくてあーしも手元のカメラで撮りたかったくらいカッコよかったよ」


「ある程度の写真と動画は私が押さえたから、みおちゃんが使うなら言ってね。これはけっこうな記録映像だよ。本当に今回の旅行は公務員試験の気分転換どころじゃないね」

「師匠はやっぱり師匠なんだよ。まるは一生師匠についてくんだよ」

「姫川さん、もしもお宝が発見された場合は指導者としてついて来た私にも一部分け前を……(そのお金でレズ風俗に)」

「聞こえてるからね! ちさと」


「でも本当にすごかったわ。でも恭介君が言っていたトンネルが水の中に潜っているっていうのはどういうことなのかしら」

 看護師の若山さんの疑問は他のみんなも持っていたようで何人かが「台風とかで水没しちゃったんじゃないか」って話をしている。


「それはね、さっきも言ったけど『まるつきのよにたからあり』で宝が置いてある洞窟の奥に侵入アクセスできるのは満月、もしくは新月の大潮の日だけなんだと思うの。

 満月と新月の日は太陽と月の位置が重なるから一番強く潮汐力が働いて潮の満ち引きが大きくなるの。それが大潮の日。

 多分あのトンネルの水は外の海水と穴で繋がっていて外の海の潮の満ち引きに合わせて水位が上下するの。だから大潮の日の干潮の時だけトンネルが通れるようになるんだと思う。

 私たちがこの島にいられる残りの時間で一番水位が下がるのが明日の朝5時だから早起きして行ってみよう。水が完全に引くことはないと思うけど完全に水没している状態じゃなくなれば恭介くんなら泳いで奥まで行けると思うし」

 おんぶされてる状態で推理を話しても格好はつかないかもしれないけど考えていたことをみんなに伝える。


「はぁ……凄いね陽菜っち。話を聞いているとあーしも習ってるはずの理科の知識の応用なんだけど、あーしには手も足も出なかったしそんな風になるなんて想像もしなかったわ」

「まあ、みおは確率をなんで勉強するかの理由も分からなかったくらいだもんな」

「恭っちうるさいし。謎解きに関しては陽菜っちにおんぶにだっこでいいとこなしだったくせに」

 あはは、今は私の方がおんぶされてるけどね、物理的に。


「これを機にみおちゃんが勉強に興味を持ってくれるなら私も推理したかいがあったよ」

「藤岡が勉強するようになるなら、先生はこれほど嬉しいことはないな。姫川ありがとう」

「まるも、まるも勉強するんだよ。勉強してお宝を見つけるんだよ」

 私の言葉に谷垣先生とまるちゃんが反応している。みおちゃんは「うるさいってば」と抗議しているが皆が楽しそうで良かった。

 一定のペースで優しく歩く恭ちゃんの背中で揺られているのが心地良すぎてそこから先の会話は覚えていない。





「朝だぞ、陽菜。そろそろ出ないと洞穴に5時までに辿りつけないから」

 そのままベッドに寝かしつけられていたらしく、興奮気味の恭介くん揺すり起こされて目が覚める。うう、眠い……

 パジャマに着替えてるところを見ると着替えて寝たのかな? プチプチとパジャマのボタンを外していると隣で執事みたいに私の着替えを持って待機している恭介くんに気付く。


「キャ―――ムグッ!?」

 おっぱいまで全部出しちゃってたから覚醒した意識が恭介くんに気付いて悲鳴を上げそうになった……んだけど恭介くんに口元を押さえられて悲鳴はちゃんと音にならなかった。

「ひ、陽菜? ちゃんと目を覚まして? 俺に着替えを見られても叫ばなくても大丈夫だから。ほら、ちゃんと着替えて」

 う、うん……確かにあれだけエッチしておいてこれで悲鳴を上げたらみんなに変な心配と勘繰りさせちゃうかも。


 それにしても私がおっぱいを丸出しにしたのに恭介くんは平然とし過ぎじゃないかなって思う。

 なんとなく不満に思いながらちらっと見たら恭介くんのおちんちんはズボンの中で苦しそうなくらいガチガチに大きくなっていたから許してあげることにする。旅行中だし謎解きのこともあるから必死で紳士でいようとする恭介くんが可愛い。


 なんとかみんなで起こし合って眠い目をこすりながら島の北壁に向かう。昨日の岩場の前までみんなで歩いて下りやすいように付けてある岩の階段を使ってたどり着く。


 恭介くんが海パンとラッシュガードの泳げるスタイルになって岩場を下る。予想通り、洞穴の中の水に浸かっていた部分の天井から30㎝ぐらいまで水位が下がり空間が出来ているから恭介くんなら泳いで奥まで行けそうだ。

 防災用品の中に入っていた防水のヘッドライトを借りて恭介くんが平泳ぎで洞窟の奥に進んでいく。


 ぴちょん……ぴちょん……


 洞窟の天井から水滴が水面にしたたり落ちる。恭介くんが向かってから15分。奥の方からこっちに向かって恭介くんが泳いで戻ってきた。

「陽菜。これを……」

 恭介くんのスマホを渡される。ロックは解除されていて洞窟の奥にあったらしいピラミッドの石室? のように一段高くなって乾いている部屋の中の写真がそこにはあった。


 明らかに人の手が入った空間に、いくつかの長櫃ながびつのようなものがあるが全てフタが開いていて中身は空っぽだった。

 壁には私が青猫館で見たのと変わらない文面が彫り込まれている。ってことだろう。


「何もなかったけどガッカリしないで……陽菜の推理が当たっててそれは凄いことだと思うから」

「えっ!? ガッカリなんてしないよ。宝がないのは想定通り。だって村上水軍って一瞬で滅んだわけでもないからもしも隠してたお宝があっても平和になったらみんなで分けてるんじゃないかと思っていたし……むしろ分けなかったらここの事を知ってる人が盗掘して自分だけの財産にしちゃうと思うから残ってるはずないって思っていたから」


 私の説明に何人かがガッカリした顔をしているが、他の人たちは納得した顔で頷く。

「そっか、陽菜が欲しかったのは謎の方であってお宝じゃなかったってことだもんな」

「そういうことだよ、恭介少年。流石は探偵のことを世界一理解してる探偵助手だね。恭ちゃん、今回も付き合ってくれてありがとう」


 ちゅっ


 感謝の気持ちを込めて私の方からほっぺにキスしてあげる。スマホの画面を一緒に見ていて顔を近づけていた恭介くんへの不意打ちのキス。

 洞窟の中は他の女の子の声できゃーきゃー大騒ぎになったけど、ここには私の大事な人しかいないから大丈夫。


 本当に私は幸せ者だ。

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 次回更新は9月27日です。

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