第290話 だって「まるつきのよにたからあり」だもん
午後からは陽菜たちの釣果を見て羨ましくなった俺たちが釣りをすることなった。ゆうきと村上が釣り人っぽくベストやライフジャケットを着て釣りをしているところをみおがスマホやドローンで撮影している。
「ドローンって免許がいるんだっけ? こういう無人島なら無許可で飛ばしていいものなのか?」
「あーしはちゃんと免許取ってるよ。ちゃんと講習も受けに行ったし、配信なんかでドローン飛ばしたりしてるとごちゃごちゃうるさいのがいるから黙らすためにね」
「へぇー、まあ手を抜かないっていうのはみおっぽいっていうか……それとみおはここに来てからやたら動画で村上兄妹を撮りまくってるけどまた何か考えてるんだろ?」
「流石恭っち、以心伝心だね。あーしのご主人様だけのことはある。一回編集してから話すよ、百聞は一見にしかずってね」
「まあ、みおはなんのかんの言っていろんな人の世話を焼いたり真面目だからなぁ……エッチすぎるのが玉に瑕みたいなところがあるけど」
途中まで純粋に褒められて真っ赤になった後、後半で「恭っちが言うなし」って怒られました。
陽菜たちは午後からは談話室でトランプやボードゲームを使ってゲーム大会。
昼遊び回って夜までゲームしたら確実に陽菜の体力が持たないのでしずくが差配してくれた。みんなとゲームもしたい陽菜ことを考えてくれて本当に気が利くというかなんというか。
釣りは3時間ほどで切り上げる。陽菜ほどではないが結構釣れた。
一番釣ったのはさんご先輩、今日は初心者がビギナーズラックで活躍する日だったようだ。
「あ~、楽しかった。本当に今回の旅行を企画してくれてありがとうね。夏休みは毎日公務員試験に向けての勉強漬けだったからイイ息抜きになったよ。久しぶりに体も動かしたしめいいっぱい写真も撮った。恭介くんにゆうきくんに……本当に最高の被写体もいてくれたし。
魚釣りなんて本当に自分がするなんて思わなかったし。本当に楽しかったからこれからもうひと頑張り、試験勉強に取り組むよ」
さんご先輩と話しながらカートにクーラーボックスを積んで持ち帰る。今日は食堂の方でみんなでディナーにする予定。魚尽くしになりそうだ。
ちなみにゲーム大会は陽菜、しずく、まる、ひより、大人組3人の計7人でいろいろとゲームをしていたが全員が口をそろえて「もう二度と陽菜とは人狼ゲームをしたくない」と語っていた。
俺の彼女はいったい何をしたの? 人狼として村人全員食べちゃったの?
夕方全員揃ったタイミングでみおが皆に声をかける。
「ドローン飛ばしてみたい人この指とまれ~、今から外に出たら練習できるよ~」
結局全員でぞろぞろ外に出てドローンを飛ばす。住宅街でない場所で明るい時間ならみおの持っているドローンは誰でも飛ばせるそうだ。
1機で10万円もすると聞いてみんな最初はちょっとしり込みしたが、みおが「飛ばしてる分には自動で姿勢制御するから落ちないし、衝突防止のセンサーがあるから建物にぶつかる前に止まるから。センサーに引っ掛からない細い木の枝にでもぶつけない限り大丈夫」と保証するのでみんなで最初はおっかなびっくり、後半はコントローラーを奪い合うようにして飛ばした。自分たちの方にドローンを向けて写真を撮ったり赤外線モードにしたり、大騒ぎだ。
「恭介くんすごいよ。みんなが赤外線で赤い点々みたいに映ってるよ。建物の屋根と地面ってこんなに温度が違うんだね」
陽菜も初めて触るドローンに興奮気味。手元のコントローラーのディスプレイで飛んでるドローンのカメラの映像を出せるのも楽しいようだ。
俺も操縦したけどラジコンみたいで楽しい。2つのスティックだけで操縦できるのも慣れると快適だ。
バッテリーを交換する時にみおにコントローラーを渡して着陸させて貰って交換したり、オプションで取り付けられるスピーカーとかライトの使い方を聞く。
昨日これがあれば上空から「そこの盗撮犯止まりなさい」とかみおに向かって警告できたかも。
陽菜がドローンにライトが付けられると知ってジーーーっと見ていたのが印象的だった。
夕食は釣った魚でフルコース。
12人がテーブルについての食事のため陽菜が夕食前からちょっと盛り上がっていた。
暖炉がないので窓枠に小さな指人形サイズのインディアン人形を12体並べていたので、俺が陽菜を羽交い絞めしてしずくが人形を取り上げた。
ここで「そして誰もいなくなった」ごっこをするつもりだったらしい。させないから、変なフラグを立てようとしないで。
「洋館の夕食! ミステリーだったらここで1人ぐらい毒を飲んで倒れる場面。
やっぱり洋館では見立て殺人だよね。インディアン人形を眺めながら夕食とか……」
「こら、不謹慎なことを言って変なフラグを立てるんじゃありません」
「もう、陽菜ちゃんは……」
俺としずくでたしなめておく。陽菜も人形を一度並べたら満足したのかそれ以上はこだわらないので助かった。
「みおちゃん、お願いがあるんだけど夕食が終わって暗くなったらドローンを飛ばしてもらえないかな? みおちゃんなら免許を持ってるから夜でも飛ばせるんだよね」
「ん、いいけど、どうしたの陽菜っち」
「さっきのドローンのライトで照らして欲しいところがあって。しずくちゃんにはこの青猫館で一番明るい懐中電灯を準備して貰えると嬉しいかな。あと恭介くんはキッチンについて来て欲しい」
「いいけど、陽菜は何をするつもりなの?」
「うん、間違っているかもしれないけど、宝探しの時間だよ、恭介少年」
陽菜探偵の出番らしい。
日没直後の島の北壁、ドローンにLEDの強力なライトを装着して充電済みのバッテリーを取り付けているみお。
「それじゃあさっき言った通りにドローンを飛ばして蝋燭岩よりも少し東側の海上でホバリングさせてくれる?」
「了解! バッテリーはライトを使っても20分は持つと思うからゆっくり飛ばすね」
みおに指示を出す陽菜。物語の中の名探偵みたいに自信満々に見える。
「じゃあそこからライトを真西の方向にむけて照らして。ドローンの画面でちゃんとGPSで確認しながらお願いね。もっとも私の思っている通りなら真西以外なら光が通らないんだけどね」
ドローンの姿勢制御にはGPSが使われているので機体の方向を修正するのは結構簡単だ。西を向いてライトで照らす姿勢になる。
この位置関係だと蝋燭岩の影が西に向かって伸びている。
「やっぱり光量がちょっと足りないよね。仕方ない恭介くん、例のものを
大きな懐中電灯とA4の用紙を一枚渡される。
実際に指示された場所に立つと波打ちぎわで岩場がごつごつとしていて俺の方から見ると針孔岩を通して蝋燭岩が見えた。ドローンの高度を上げてもらうが最後まで蝋燭岩に隠れてドローンの明かりは見えない。そのことを陽菜に伝える。
「じゃあもうちょっと東側に移動して針孔岩に近づいて、今度は恭介くんから見てドローンの明かりが見えたらストップして」
そういう感じで何度か微調整する。俺の目から針孔岩の一番上の隙間と蝋燭岩の先端、ドローンが一直線に重なる瞬間が来た。
「陽菜がいう条件が揃ったよ。これでいいの~?」
俺の質問に対して陽菜がエントランスに飾られていた琴乃刀自の書の話を伝えてくれる。俺はスマホ越しだがみんなは今直接陽菜の説明を聞いているはず。
「秋分の日の真東から昇った太陽が蝋燭岩の影を作って、その影が太陽が昇るにしたがって低くなっていくはずなの。その影がちょうど針孔岩を通った瞬間に蝋燭岩は針孔岩から見たら岩のちょうど真上に太陽がきてロウソクに明かりが灯ったように見えるはず」
それが「じしゃうのはりあな ろうそくとおし」ってことなのか。
「多分今恭介くんが立っている辺りに台座になるものがあると思うの。50㎝くらいの円盤が載せられるような傾いた台になってると思う。もし太陽光なら恭介くんがいる辺りが太陽の光が針孔を通して当たるところだから」
陽菜の言う通りに周りを探してみると天然の岩なのに上部が不自然に欠けるように南に向いて傾いている岩があった。
「あったよ、陽菜。ひょっとしてこの台の上にこれを載せればいいの?」
陽菜に言われて背負って来たパエリア鍋、その裏面はアルミホイルのピカピカの面を貼ってあり光を反射するようにしてあった。
「うん、流されちゃった一尺三寸つまり50㎝あったっていうご神体の鏡の代わり。『やた』はご神体だった八咫の鏡(名ばかりのレプリカだろうけど)のことを指していて後は
実際にパエリア鍋を置く。岩は本当に鏡を置くために加工されていたようで角度が変わらないように固定される。俺から見ると南向き、島の方に向くように鏡が固定される。
「しずくちゃん、確認して貰っていい? 恭介くんとドローンの距離が800m、ドローンの高さが85m、この後ドローンを恭介くんの方に80mまで近づけてたらドローンの高さはそのまま10分の1の8.5mで間違いないよね?
みおちゃん、ドローンの液晶の高さの表示を見ながら恭介くんの方に移動させて……ライトの角度は極力保ってね」
俺から見るとドローンが徐々に近づいてきて俺の方を照らしている。だんだん眩しくなって、俺のそばにあるパエリア鍋の鏡を照らす。ある一定の距離でドローンがぴたりと止まる。そこが多分さっき俺が見た蝋燭岩からの針孔岩を通した光と全く同じ位置の相似形なのだろう。俺から見た角度はほぼ同じに感じられた。
アルミホイルの鏡面がライトの光を反射して島の方を照らす。島の北壁の一点を明るくしている。
「恭介くん、そこが『やたのさきをのべてみよ』つまり鏡の先を延長してみたところだよ。そこに何かないか確認してくれる?」
信じられない思いがしながら岩場を移動していく。この辺りは時間によっては海中に没してしまうようでところどころ磯だまりがあるので懐中電灯で照らしながら気を付けて進む。
反射した光がさす一点にたどり着く。
そこには横穴があった。光が洞窟の奥に飛び込むように吸い込まれている。少し進むと洞窟は下りになって水中に没していた。
「陽菜、横穴があるけど洞窟の先は水がたまっていて進めないよ」
「そうだろうね。だって「まるつきのよにたからあり」だもん。新月は近いけど今は無理だろうね。いいよ、後は明日の朝5時に頑張ろう
ありがとう、恭ちゃん。今夜はここまでにしてその穴になにか印をしておいてね。あ、パエリア鍋を忘れたダメだよ。しずくちゃんの別荘の調理道具なんだから」
最後にいつもの陽菜の雰囲気に戻ったけど、陽菜の鮮やかな推理に興奮が止まらなくて今夜は眠れそうにない。
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ちょっとした小話
しずく「なんで陽菜ちゃんあんなに人狼ゲーム強いの? 3回やって3回とも陽菜ちゃんが人狼なのか村人なのか誰も当てられなかったんだけど。
3回目はもうみんな疑心暗鬼でとりあえず陽菜ちゃんを人狼にしとけってしちゃった結果、本当の人狼だったみなもさんにしてやられたし」
陽菜「そんなに分からないものかな? う~ん、別の世界から来て自分だけ貞操逆転してるってバレないように過ごしていたころに比べたらあんなの隠し事のうちに入らないよ」
しずく「……(まさか一番嘘と隠し事が上手いのが陽菜ちゃんだなんて)」
陽菜「でも、恭介くんがいたらすぐばれると思うよ。恭介くんに『陽菜が人狼なの?』ってあのかっこいい声で耳元で聞かれたら正直に告白しちゃう自信があるし、黙ってても反応でバレちゃう」
しずく「それは私たち全員でしょ!? 恭介さんは人狼ゲームの時はGM(ゲームマスター)専門だね」
という会話がゲームの後の台所で繰り広げられたとかなかったとか。
みどりのは一時ドローンで遊びまくっていたのでこの辺のドローンに触って楽しい感じや便利に使えるシーンはその時の経験を元に書きました。
10万円くらい出すと本当にずっと遊べる玩具になります。
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