第244話 俺が後輩を名字で呼び捨てにしてみたかったから

 そんなこんなで大きな問題がひょんなことから一つ片付いた俺たち。落ち着くところに落ち着いてよかったけど……後はちさと先生やゆうき辺りに伝えるかどうかだけど、そこは陽菜としっかり相談してからになるだろう。

 ゆうきはこの世界での俺の唯一の男の親友だから伝えたいとは思う。


 あっという間に数日すぎて日本一の高校生を決めるインターハイにむけての地区予選が開催された。

 男女水泳部に関して結果から言うと俺は退、ゆうきは地区予選の段階で敗退。で県大会へ、女子水泳部のして県大会へ出場となった。

 ちなみに剣道部はして県大会出場、団体戦は総当りなのでひよりは負けなしだがチームとしては負けたそうだ。


「多々良、お前はよくやったよ。タイムだって今日の大会が自己ベスト。12月まで泳げなくて4月から本格的に取り組んで3ヵ月でこのタイムだったら本当に凄い頑張ってるから。

 私ももう少し部活を続けられることになったからこれからもおまえの泳ぎを見てやるから」

 地区決勝で敗退した後、ベンチから立ち上がれずに泣く俺に寄り添ってくれていたゆうきとゆかり部長が慰めてくれた。巨乳のゆかり部長にいたっては競泳水着の上からパーカーを羽織っていたとはいえ肩を抱いて慰めてくれるので別の場所が元気になりそうだった。


 違うのだ。俺は元の世界で経験者で去年は1年生で県大会に出場していたのだ。こちらの世界での自己ベストは出したけど元の世界の自己ベストには遠く及ばない。

 まだ肉体的に全然足りないし、トレーニングや泳いだ量も不十分だった。

 こっちの世界の男子水泳部、やっぱり女子の前で水着になるのが気になる男が多いみたいで部員も少ないし先輩はいないし、4月の頭に俺が騒ぎを起こしたせいで新入部員も入ってくれなかったしもっと結果を出さないといけなかったのに……


「そんな顔しないできょうすけ。ボクもついているし」

「そうだぞ、多々良。私だって引退までまだ時間が出来たしお前を指導してやるから。

 県大会で結果を出せれば私は水泳で推薦が貰えるかもしれないし、そしたら卒業まで自分のトレーニングと合わせてお前の面倒をみてやるから」

「ゆかり部長はいらないです。きょうすけの面倒はボクがみます」

 両側からゆうきとゆかり部長二人でやりあっているのを聞いてもう一度頑張ろうって思えたからベンチから立ち上がる。


「二人ともこれからもよろしくおねがいします。俺が男子水泳部部長になるんだし」

 そうなのだ、ほとんど部活に来なかったし男子水泳部の先輩はこの大会でも俺よりも成績が悪かったのでこれで引退。俺が男子水泳部の部長になることになった。

 女子水泳部はまだ大会が続くのでまだ引退はない。

 しばらく俺とゆかり部長がツートップだ。


「ああ、よろしく頼むよ多々良部長」

 ゆかり先輩が握手を求めてくれるのでギュっと手を握る。ゆうきがその手の上から手をのせる。

 あ~、体育会系っていいなぁなどと思っていたら、「あ、ゆかり部長、多々良は姫川さんと付き合いだしたから手を出したらダメですよ」と2年女子に言われて何故かゆかり先輩が凹んでいた。


 光画部に関してはを務めることになった。俺が二つの部の部長を兼任するのが不可能に近いというのが一つとやっぱりみおの写真に関する評価が高く、そういう点であっさり決まった。

 今の光画部でコンテストなどに入選しまくっているのはみおで、さんご先輩でも佳作どまり。俺にいたっては全部選外、これで俺を部長に選ぶ人はいないだろう。

 みおが卒業アルバム委員会の会長も兼任する可能性が高いので俺的には危惧する所もあるのではあるが。さんご先輩は2年で部長にならない俺のような平の部員にはがある年もあるって言っていたし平部員なりに頑張ろう。


「多々良先輩の部長も見てみたかったです」

 男子水泳部には俺のせいで新入部員が入らなかったけど光画部では後輩が出来ました!

 可愛い女の子でちょっと小悪魔っぽい言動があるけどこの世界だと小悪魔キャラってどうなんだろう? あの学校内で女子生徒がみんな欲望の目で俺のことを見ていた時にちゃんと理解してくれた上で部活に参加してくれていた本当にいい子だ。


 村上ゆうか……何と村上の、つまりゆうきの妹である。

 家でいつもゆうきが俺のことを話すらしくて村上は俺に対する信頼度が最初から高かった。その上、夏の写真旅行にも最初から行く気満々である。

 まあそこはいいんだけど。この子外見的にはめちゃくちゃ可愛い。まあゆうきがあれだけ可愛いんだから遺伝的には納得なんだけどショートのゆうきとセミロングの村上、ツルペタのゆうきとCカップくらいの手のひらに余るくらいの村上と並べたらめちゃくちゃ絵になりそう。

 写真旅行の楽しみがもう一つ増えた感じである。


 こっちの世界で写真旅行を計画していた多々良恭介に申し訳ない。

 それにしても元の世界の村上(ゴリマッチョ)から妹の存在なんて聞いたことがなかったぞ。親友の俺にくらいは紹介してくれても良かったのに。

「難しい顔して何考えてるんですか? 多々良先輩」

 村上の顔が近い。考え事をしている間に覗き込まれていたらしい。

「え? ああ、村上のお兄ちゃんのことだよ。なんで妹がいるって話してくれなかったのかなって」

 本当は考えていたのは村上(ゴリマッチョ)の方だがゆうきも俺に妹の存在を教えてくれなかったから言い訳としては問題ないか。


「あ~お兄ちゃんはですね……自分とそっくりな妹がいるのがコンプレックスなんです。

 お兄ちゃんってあの容姿だし、性格も優しいから男の子に人気になるんですけど私がお兄ちゃんのフリをするとみんなやっぱり本物の女の子がいいってフラフラって私に寄ってきちゃうんですよね。ププ……お兄ちゃん可哀想」

 ドビシッ 思わず村上の脳天にチョップを打ちおろしていた。


「もう、痛~い。多々良先輩可愛い後輩になんてことするんですか?」

「俺の可愛いゆうきにイジワルするからだ。もしゆうきに次にイジワルしたら絶交だからな」

「な!? 私だってお兄ちゃんと小さい頃からずっと比較されて負け続けて対抗策として編み出した私の生存戦略がお兄ちゃんのマネなのに私ばっかり攻められてズルいです。

 それになんで私は村上呼びなんですか?」


「それは俺が後輩をにしてみたかったからだ」

 俺のドヤ顔に呆れた顔をする村上。え~、分かんない?

 後輩を男女かまわず名字で呼び捨てにする先輩のカッコよさ。俺は水泳部のゆかり部長に「多々良」って呼び捨てにされるとなんかキュンってするんだけど。

「まあいいですけど……ほんとにみたいに多々良先輩がこんなにカッコイイとは思わなかったですし」


「マジで!? 俺家でゆうきにカッコいいって言って貰えてるの?」

 嬉しくてなんとなく赤くなってしまう俺。親友に認められるって嬉しいなぁ。

「むぅ、多々良先輩のバーカ! バーカ!」

「はいはい、多々良くんも村上さんもそんな風にじゃれ合わないの。みおちゃんも部長なんだからちゃんと仕切って。そのままじゃいつまで経っても撮影旅行のスケジュールが決まらないよ」

 さんご先輩が手をパチンと手を叩きながらいう。


「あーしが部長で仕切るって絶対に合わないけどなぁ……あ~、多々良恭介がいたら絶対押し付けていたのに……ムグゥッ」

「わ~っ!! 何でもないです、俺が水泳部掛け持ちじゃなくて元の光画部だけだったらって話で」

 みおの口を慌てて押さえながら目で合図する。天然でミスりそうだったららしい。

 そう、先輩たちへは俺と陽菜の中身が別の世界から入れ替わっているという話は伝えないことになっている。ゆうきだけは俺からどこかのタイミングで伝えたいと思っているけど。


「もう、みお先輩とじゃれ合うの禁止です! なんか仲良くて怪しいです」

「そんなこともあるけど……恭っちは私のご主人様になる男だからね。

 って本当に脱線しているから本筋に戻すよ。

 それじゃあ今年の夏の撮影旅行だけど場所はとある老婆琴乃刀自が所有する瀬戸内海に浮かぶ孤島、極楽に続く門がある島、略して極門島ごくもんとうで……」


 極門島ごくもんとうって……ツッコミどころが多すぎてなんだかミステリーが始まりそうな会話をしながら俺たちは夏の撮影旅行のスケジュールを組んでいくのだった。

 -----------------------------------------------

 書きながら気付いていたのですが、村上ゆうか(本当は漢字で祐佳)の名前がスピオフの「姉と幼馴染と僕のちょっとエッチな文芸部日誌~おっきさせた方が勝ちの文芸バトル~」に出てくる文芸部員でむこうの主人公の姉の矢沢優香ゆうかと被りました。

https://kakuyomu.jp/works/16817330659710532155/episodes/16817330659710688957


 ついでに言うと竜王旗剣道大会で決勝を戦った石動いするぎ裕子ゆうことも被り気味……いや、別に「ゆうか」って名前に特別な思い入れなんてないんですけど、キャラとの関連性とか兄弟で名前を似せてとか考えていたらこうなっちゃいました。

 名前って難しいですね。名前が近い同士で直接絡む話はないんで名前はそのままでいきます。


 週四日の18時に最新話公開中

 次回更新は8月13日です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る