第245話 俺生徒会長に立候補する(陽菜視点)

「う~ん、このままだと信任投票なのかぁ」

「でも、入学してからず~っと成績トップの一等賞のしずくちんに勝てると思ってる子なんていないから無理なんだよ。信任投票で別にいいんだよ」

 みんなでお昼ご飯を食べているとしずくちゃんが珍しく残念そうな声を出しまるちゃんが答えている。今年の生徒会長選挙がしずくちゃん以外に立候補がいない信任投票になりそうなことが残念みたい。


 生徒会長の選挙戦の開始日は来週の月曜日、その週の金曜日の午後から体育館で投票があってその日の夕方には結果が出る。

 去年はちゃんと選挙があってもそういうスケジュールだったから今年もそうなんだと思う。もし信任投票だったら金曜日に形だけ投票することになる。信任投票で過半数を切ったことはないって聞いてるし。


 私なんか信任投票だと楽でいいなって思っちゃいそうけどしずくちゃんくらいになると学校のことを考えるとちゃんと生徒会長選挙をして意見を競わせたりみんなに学校のことを考えるチャンスになると考えるみたいなのだ。

 そういう真面目なところが凄いなって思うけどさらに選挙になっても勝てる自信があるってことだとしたら相手を見くびってることになるんじゃないのかな?


「あ、陽菜ちゃんそれは違うよ。私はね、負けてもいいの。もし生徒会長になれなくても私がやることに変わりはないから。おばあさまはちょっとがっかりするかもしれないけどその時は副会長として生徒会長を支える組織のナンバー2の動きを学ぶだけだから」

「そうなんだね。しずくちゃんは本当に色々考えてるんだね。そっか、争った相手だけど生徒会として一緒に活動するんだもんね」

「そうそう、それにもしも会長選挙があったら推薦人に応援演説して貰えるんだよ。推薦人っていうけど実際は候補者がお願いするから顔が広かったり人気がある人にお願いするんだけど、どんなふうに褒めてもらえるのかなって想像したらなんかドキドキしちゃって」


 そう言いながらしずくちゃんの見ている先にいるのはひよりちゃんと県大会の結果についてお話している恭介くんだ。

 ああ、しずくちゃんは恭介くんに選挙応援をして欲しいのか……あれ? こういう話をしてるってことは恭介くんはしずくちゃんに今回のことをまだ報告していないのかな?


 しずくちゃんは私の彼氏の恭介くんに推薦人を頼もうとしていたみたいだけど恭介くんが何を考えているか知ったらびっくりしちゃうんじゃないかな? 恭介くんが伝えるだろうから私の口から言うのはどうなんだろ。


 そんな風に思っていたらご飯を食べ終わってみんながごちそうさまをしたタイミングで恭介くんが口を開いた。

「あ、俺生徒会長に立候補することになったからみんな投票よろしくね」


 そうなのだ。私の彼氏の恭介くんが生徒会長選挙に参戦することになったのだ。


 とまあ、今までならここまでで一話だったんだけど今は後日譚だから一話が長くなったのだ。作者の得意なスタイルが変わらないから思わずオチが付いたみたいになっちゃったけどまだ続くよ! 頑張って読んでね。


 恭介くんの一言でお昼ごはんを食べ終えた後の私たちのグループはちょっとした混乱のさなかにいた。


「きょ、恭介さんどういうこと?」

「きょ―ちんが生徒会長カッコいいんだよ!」

「きょうすけが生徒会長なら僕が副会長してあげるよ」

「ほう、恭介が生徒会長か……風紀委員として支えてやらねばな」

「あちゃ~、恭っちが光画部伝統の『対抗馬不在なら徹底抗戦』を真に受けたか~」

 みんなそれぞれ感想を言っているけど同じ光画部のみおちゃんでも出馬までは聞いてなかったみたいだね。

 今回は私だけが知っていたってことなのかな? 彼女特権? ちょっと嬉しいかも。


「真に受けたって言うかさんご先輩からOBから手紙が来てるんだけどって相談されたら無視するわけにはいかないだろ」

「あーししか2年生がいなかったら100%お断り案件だけどね。生徒会長選挙とかガラじゃないし」


 どういうことか説明すると歴代の光画部には好戦的な先輩が多く、不戦敗という言葉が大嫌いだったそうなのだ。


 そして生徒会長選挙の信任投票はに当たるらしいのだ。

 勝手に負けててくれればいいのに、恭介くんに白羽の矢が立って生徒会長候補として立候補することになったっていうのが今回の出馬の理由。

 私も昨日の夜相談されてびっくりしちゃったよ。


「ということで生徒会長選挙に出ることになったんだけどしずくには本命のライバルとして胸を貸してほしい」

 元の世界でもこっちの世界にもある慣用句だけどなんだかエッチな表現に聞こえちゃうよ。

 これで恭介くんがしずくちゃんの目をまっすぐ見ながら言うんじゃなくておっぱいを見ながら言っていたら恭介くんのお尻をつねるところだ。


「そういうことなら恭介さん、正々堂々と戦いましょう」

 しずくちゃんが恭介くんに手を差し出し恭介くんがギュってその手を握る。

 選挙戦のスケジュールは一週間。今回の私はしずくちゃんと恭介くんのどっちを応援すればいいのかな?

 恭介くんの出馬は正直言って生徒会長になりたいからのものじゃなくて学校内の議論の活性化のためみたいなものだし。


「陽菜ちゃん、私の推薦人をやってくれない?

 今の陽菜ちゃんに陽菜ちゃんの立場から私と違った視点で学校のことをもっとよくできるように考えて応援して欲しい。私に力を貸して」

「わ、私が推薦人? なんだか足を引っ張っちゃいそうなんだけど大丈夫? ひよりちゃんの方が似合ってると思うんだけど」

「なにを言っているのだ陽菜ちゃん、陽菜ちゃんの応援は竜王旗剣道大会の時にも本当にみんなの力になったんだ。

 陽菜ちゃんの応援は応援してる相手を元気づけて、さらに周りのみんなも巻き込めるような力がある。陽菜ちゃん以上の適任はいない」


 恭介くんも右手をサムズアップして私にむけている。

「ああ、陽菜がしずくの応援をしてくれるなら安心だ。じゃあこっちは光画部で頑張るからみおよろしくな」

「しゃーない、やるからには勝つよ。恭っち生徒会長になる覚悟しておきなよ」

 うう、みおちゃんは学内でも有名なインフルエンサーだからなぁ……油断すると足元をすくわれそう。


「まるとゆうきも手伝ってくれると嬉しい。ひよりはどうする?」

「私は県大会にむけてちょっと練習が忙しいから放課後はあんまり応援できそうにないな。朝も風紀委員の活動があるから協力は難しい。今回は見守らせてもらおう」

「まるはきょーちんを応援するよ。楽しそうだしきょーちんが好きだから」

「僕に関しては聞かれるまでもないよ。きょうすけの親友だからね。きょうすけのいる側が僕のいる側だよ」


「選挙戦略はあーしに任せておいて。たまにはしずくっちも負けることを覚えてた方がいいしね」

「私最近負けたばかりなんだけど……手ひどい失恋の痛手を負ったばかりでその傷も言えてないんだよ。しかも今回の選挙戦の相手が私の失恋した人だなんてまるで悲劇のヒロインみたいな状況なんだけど」

 うう…私の彼氏は罪作りみたいです。でも私だって恭介くんをしずくちゃんに渡すわけにはいかなかったら仕方ないよね。恋の勝者は一人なんだと思う。


 こうしてお昼ご飯グループが中立のひよりちゃんを除いて分断されてそれでも来週も一緒に食べようねって言いながら解散した。もっとも来週からはお昼の時間に校内放送で選挙にむけての候補者のPR合戦なんかもあるから今までみたいにのんびりみんなでごはんっていう風にはならないと思うけど。


 恭介くんは男子に嫌われまくってるのに勝算って少しでもあるんだろうか?

 恭介くん本人は今回の出馬は生徒会長選挙が行われることに意味があるからだって昨日は笑っていたけど……

 あっ、でもでも自分の彼氏が生徒会長とかちょっとカッコいいかもしれない。

 生徒会長・多々良恭介、うわぁ、カッコイイかも!……ああ、ダメだ! しずくちゃんの応援を頑張らないと。にやけてる場合じゃない。


 そんなこんなで週末はいつものランニングのあと恭介くんは部活に私はしずくちゃんの家に行って選挙の戦略を練ったりした。

 恭介くんはみおちゃんと二人きりになると私に不誠実だからとリモートで打ち合わせしていたらしい。こういう所は彼女になってよかったなって思う所だよ。

 前までだったらみおちゃんの家に一人でホイホイ出かけていたはずだもんね。


 うん、気遣いが出来る彼氏さんに成長してくれて彼女としては嬉しいです。イチャイチャしていいのは私だけなのだ。

 週末はたっぷり恭介くん成分を吸収させてもらったよ。何度も言うけどまだエッチはしてないよ。あ、「まだ」って……うう、期待しちゃってる私もちょっとエッチだよ。


 そうして明けて月曜日、私としずくちゃんは驚愕することになる。

 恭介くんとみおちゃんの掲げる公約が何だったかを知って。


『男女交際全面解禁! 男子は女子にもっと慣れよう 女子は男子に優しくしよう』

『学校一のモテ男 モテ女が指南 恋愛道場開設!!』


 もう! どうしていつもこういう方向に走るの!? 家に帰ったらお説教なんだから!

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 お盆の間は毎日更新です。

 次回更新は14日の18時。お盆の間に関係がまた一歩進みます。

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