第5話 勝負


 しばらく遊んでいると、


卑怯ひきょうじゃないか?」


 などと蒼生が抗議をしてきた。その言葉に、


なにが?」


 と私は返す。

 こっちはゲームに集中しているので、話し掛けられるのは苦手だ。


「ほら、こうやって俺にりかかって……」


 そう告げた蒼生のほほかすかに赤くなっているようだった。

 四月とはいえ、今日は暑い。


 後で扇風機でも、持ってこさせよう。取りえず、


「ああ、ゴメン」


 と私は謝る。続けて、


「どういうワケか、身体も一緒に動いちゃって――」


 言い訳をした。そんな私の返答に、


「お前、俺以外の男とレースゲームするの禁止な」


 などと言われてしまう。

 どういう権利があって、そんなことを言うのだろうか?


(別に蒼生くらいしか、ゲームを一緒にする相手はいないけど……)


「いいよ☆ 私に勝てたらネ♪」


 軽い気持ちで、そんなことを言ってしまった。

 結果は完敗してしまう。別に後悔はしていない。


 ただ蒼生は普段、ゲームで手を抜いていたらしい。

 『接待プレイ』というヤツだろうか? そのことが無性にくやしかった。


「もう1回、もう1回勝負よ!」


 とさわぐ私に対し、快諾かいだくする蒼生。

 なにやら嬉しそうだ。


 少し気味が悪いと思いつつも、ゲームを続ける。

 やはり、結果は私の惨敗ざんぱいだった。


(ううっ、気分転換のつもりで来たのに……)


 余計にストレスが溜まってしまった。


「約束、忘れるなよ」


 と蒼生。珍しく、はしゃいでいるようにも見える。

 なにをそんなに真剣マジになっているのだろう。


「あーっ! 傷付いたよ……」


 美味おいしい物、作って!――私はそう言うと、コントローラーを捨ててゴロンと仰向あおむけになる。


「仕方がないな」


 と蒼生。そう言って、立ち上がった瞬間だった。

 彼のスマホが鳴る。この音は黒矢くろやにぃだ。


 商店街に住む、一つ上の男の子。

 この時間に掛けてくるということは――


(いつもの料理勝負だね……)

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