第4話 幼馴染みは料理男子


 洋食屋『ヒマワリ』――創業者である蒼生のそう祖父そふが『奥さんの好きな花だ』という理由から名前をつけたらしい。


 元々は違う場所でお店をいとなんでいたようだが『私たちが生まれる前に引っ越してきた』と聞いている。


 どうやら、下手な地域復興計画に巻き込まれたようだ。

 失敗した結果、人口が減り、商売がむずかしくなったらしい。


 ああいうのは、地元の人たちが暮らしやすくなるように工夫することで『人が定住するようになる』と聞くのだけれど、一時期話題になっただけで、悪評だけがバラかれる結果になったようだ。


 このインターネットが普及した時代で『悪評が流れる』ということは致命的である。集まってきた人はだまされた人か、情報を精査する能力がないといっていい。


 だまされた人は怒り、更に『事実』という名の悪評をネットに書き込む。

 情報にうとい人間はネット社会に対応できない人間で、その人たちが街に残るのだから、結果がどうなるのかは火を見るよりも明らかだ。


 若い人たちは暮らしやすい場所へと移住し、街から居なくなる。

 働き手がいないので税収が減り、老人たちだけが取り残されてしまう。


 そこで移住者を呼び込むも、そういう人間は大抵の場合、スローライフに憧れている。地域の住民は現状維持のための労働力と見ているので、りが合わない。


 地域のルールを押し付けられてしまうので、嫌になって出て行く。

 そして、ネットに『事実』を書き込むという悪循環が起こる。


 洋食屋『ヒマワリ』は駅からは少し離れた場所にあり、商店街からは外れるけれど、会社員や大学生などが通るので、それなりに繁盛はんじょうしていた。


 お店は十一時からの開店となる。まだ時間はあるので大丈夫だろう。

 混むのは平日のお昼なので、休日は意外とひまなようだ。


 聞いたところ、今日みたいな日は夜の方がいそがしいらしい。まあ、日中は出掛けて『最後に美味おいしい物を食べたい』という気持ちは理解できる。


 もし混んでいるようなら、紅音あかねの家にでも行ってみよう。

 そんな事を考え、店に到着すると丁度、蒼生が外に出ていた。


「あ、おはよう!」


 と私が挨拶あいさつをすると、


「やあ結愛、おはよう」


 悩みの無さそうなさわやかな笑顔で挨拶あいさつを返される。小学生の頃は『女の子みたいだ』と思っていたのだけれど、最近はすっかり男の子になってしまった。


「上がってもいい?」


 幼馴染みなので、勝手知ったるなんとやらだ。蒼生の返答も、


「ああ、もう少ししたら、俺も行くよ」


 というモノだったので、家に上がらせてもらう。

 おじさんとおばさんにも挨拶あいさつをしておく。


 蒼生の両親だけあって、さわやかな夫婦だ。男女の幼馴染みということで、変な勘繰かんぐりをされることもあるけれど、私は気にしない。


 そもそも、この辺に住む連中は、だいたい幼馴染みである。

 私は蒼生の部屋でゲームの準備をした。


 基本はアクションゲームを一緒にするのだけれど、蒼生がRPGをクリアする所を黙って見ている場合もある。


 今日はレースゲームの気分だ。

 なぜかコーナーを曲がる際に身体もかたむいてしまうのだが、ご愛嬌あいきょうだろう。


 蒼生が冷たいお茶を持ってきてくれたので早速、勝負を開始する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る