第3話 休日の朝


(中学一年生になったから『環境の変化』は理解できるけれど……)


 季節は春。私こと『七浦ななうら結愛ゆめ』はつい先日、中学生になったばかりだ。

 けれど折角せっかくの制服も似合っているとは言いがたい。


(まあ、成長を見越して少し大きめに作ってあるし……)


 こんなモノよね☆――と毎朝、鏡の前で自分を納得させるのが日課だ。

 しかし、今日は休日。


 中学生になってから二週間が過ぎたので、れたころともいえる。いつもの私なら二度寝をするところだけれど、あの夢を見た後では眠る気にもなれない。


 仕方なく、着替えなどを済ませることにする。

 家族が起きた頃合いを見計らって、食卓のある居間リビングへと移動。


 朝食を済ませて、今日の家族の予定を確認した。

 私の家はセレクトショップをいとなんでいる。


 新学期が始まる前に、裏にあった一人暮らしの祖母の家へと家族全員で引っ越してきた。元はお店に住んでいたのだけれど、思い切って改装することにしたのだ。


 今までは一階だけで商売をしていたが、今年の春から二階にも商品を並べるようになった。


 元々は母方の祖父が建てた三階建てのビルである。

 古くなっていたので、改装する時期タイミング的にも丁度よかったのだろう。


 以前は二階と三階を居住区兼事務所にしていたのだけれど、祖父が亡くなり、祖母が一人暮らしになってしまったことで、私たちは祖母の家に引っ越してきた。


 古い二階建ての家だけれど、やはり『自分だけの部屋がある』というのは有難ありがたい。父は商社マンで海外赴任も多く、母とは社内恋愛だ。


 母の方はアパレル関連に興味があったようで、私たちを生んで退職した後、祖父のビルを借りて『セレクトショップを始めた』というワケである。


 元々は駐車場にする予定だったが、仕事も軌道に乗ったようでしばらくは安泰のようだ。


 肝心の祖母は元気というか、元気が良すぎるので、よく旅行に出掛けている。

 そんなワケで、あまり一緒に暮らす意味はない。


 旅先で怪我や病気をしていないか、母はいつも心配していた。子供だけではなく海外赴任の夫、お店や親の心配もしなければいけないとは、なんとも大変そうだ。


 心労で倒れないことを祈ろう。

 まあ、私の場合は母が心配性というより、姉の方が口煩くちうるさくて困る。


 今日も折角の休みだというのに、姉が午後から部活だということで、代わりにお店の手伝いを押し付けられてしまった。


 母にはスマホ代という生命線ライフラインにぎられているため『お店の手伝い』ということなら、したがわざるを得ない。


 高校生になったらバイトを探してみよう。お店の手伝いがきらいなワケではないのだけれど、母や姉にすべてを把握されているようで、なにだか嫌だ。


(これが反抗期だろうか?)


 自分では、よく分からない。

 皆が食べ終わった食器を洗った後、午前中に勉強を済ませておく。


 中学生になったのはいいけれど、勉強は次第にむずかしくなる。

 毎日やる習慣をつけつつ、簡単な一学期の内に成績を上げておく方がいいらしい。


 そんな話を高校生になった姉が、


「アタシは後悔している!」


 と自分の失敗談として語ってくれた。


「そうすれば今頃、カッコイイ彼氏と一緒に……」


 などと言っていたが、それはないだろう。

 理想を高く持つのはいいことだが、現実を見ることも大事なことだ。


 スペックの高い男子と知り合いになりたいのなら、それなりの学校に入る必要がある。経済的問題と姉の学力からするに、逆立ちしても難しいだろう。


 また、姉が言うには『勉強はいかに集中するか』が大切で、集中できる時間を把握しておくことがコツのようだ。


 私の年齢では大体、四〇分~五〇分程度のようなので休憩きゅうけいはさみ、一時間半ほど勉強することにしている。


 英語と社会は主に暗記なので、数学や理科が中心だ。

 国語は読書で十分じゅうぶんらしく、父に本棚を買ってもらった。


 ただ残念なことに、漫画が大半を占めている。

 これは国語も勉強する必要がありそうだ。


 まだ十時前なので『蒼生あおい』の家へ行くことにした。

 蒼生は同い年で、幼馴染みの男の子である。


 男女は次第に『疎遠そえんになる』と聞くけれど、私の住む場所は地域のつながりが強いため、いまだに関係が続いている。


 気分転換にゲームでもして、時間をつぶそう。


 ――蒼生のところに行ってくるね。多分お昼も食べてくるよ。


 スマホで母親にメッセージを送った後、私は家を出た。

 同じ町内なので、蒼生の家はすぐ近くだ。

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