第2話 妖精が見せる夢には意味ある


 妖精が見せる夢には意味ある。『ダイヤモンド』が私に夢を見せたのなら、これから起こるであろう出来事の予兆よちょうか、すでに私自身が巻き込まれている可能性が高い。


「いいワケないでしょっ!」


 アナタの所為せいで変な夢を見たわ――私はそう言って溜息をく。

 一方で「ふん」と毅然きぜんとした態度たいどを取る『ダイヤモンド』。


 背中には四枚の光の羽を生やしている。着せ替え人形ほどの小さな身体。

 だが、彼女からは気品のようなモノがただよっていた。


 同時に『彼女に見惚みとれてしまった』そんな自分がくやしい。

 私が祖母から受け継いだ十二の妖精。


 名前は誕生石と同じだ。それは石言葉に関係し、彼女の場合は『変わらぬ愛』『純愛』といった意味をふくむ。


 つまり彼女が私に夢を見せたのなら、それは『愛に関わる夢』ということだ。

 窓帷カーテンを閉めているので、部屋の中はまだ薄暗い。


 それなのに彼女の白銀の長い髪はキラキラとかがやいていた。

 純白のドレスをまとい、まさしく宝石である金剛石ダイヤモンドが持っている『澄んだ美しさ』を具現化したような存在だ。


「折角、いい夢を見せて上げたのに、ひどい顔ね」


 と『ダイヤモンド』。朝から、そんな事を言われたくはない。

 おころうにも、彼女は妖精である。


 基本的に善意でやっていることなので、返答には気を付けた方がいい。

 私は一度、深呼吸をして自分の心を落ち着かせる。


 ムキになって反論はんろんしても『いい結果にはならない事』を理解していた。

 一旦、気持ちをリセットするのがかしこい選択だ。


 そう、私は現実主義者リアリストである。


「草原で転がってきた大きな卵につぶされる夢を見たの」


 せめてもの反撃の意味を込め、ウンザリといった様子で私は返答する。

 しかし、彼女は「あらあら♪」「まあまあ♡」といった様子で楽しそうな表情を浮かべた。


なんだか分からないけれど、腹が立つ……)


「卵は割れなかったのね?」


 更なる彼女の質問に対し、私は黙ってうなずいた。

 『ダイヤモンド』はその回答に満足したのか、どこかへ行ってしまう。


 相変わらず、神出しんしゅつ鬼没きぼつで勝手なヤツだ。まあ、確かに『ダイヤモンド』の見せる夢には石言葉である『変わらぬ愛』『純愛』が関係している。


 視界いっぱいに広がる草原を見渡す夢――

 見渡す草原が広ければ広いほど『大きな幸運にめぐまれる』と解釈できた。


(目覚めは最悪だったけどね……)


 問題は夢に卵が出てきたことの方だろう。

 夢の中で卵を見つけた場合、それは環境に変化が生じていく事を示唆しさしていた。


 今回の場合は卵が転がっていた事も重要だろう。

 もし卵が割れていた場合、不運の前兆と取ることが出来る。


(今回は割れていなかったので、不運な出来事は回避できそうだけど……)


 巨大な卵だったので、大きく環境が変化することを教えてくれているのかもしれない。それも『愛』に関係することのようだ。

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