七浦結愛の夢占い~料理男子と現実主義者~

神霊刃シン

七浦結愛(ななうら ゆめ)の夢占い

料理男子と現実主義者(リアリスト)

第1話 転がる卵


 吹き抜ける風は肌に心地好ここちよく、晴れ渡る青空はどこまでも続いているようだった。

 視界に広がっているのは草原で、私は一人、そこに立っている。


 風が吹く度に、青々とした草が波打ち、可憐かれんな花たちがれていた。


(ああ、これは夢なんだ……)


 と、いうことを私『七浦ななうら結愛ゆめ』は理解する。

 目が覚めるまで待っていればいいのだろう。


 けれど私の場合、それがろくな結果にならないことを知っている。

 案の定――ゴロン! ゴロン!――と大きな音がひびいた。


 おだやかな場所だと思っていたのに、ひどい裏切りである。

 ご丁寧ていねいに地面まで揺れているようだ。


 別に立っていられない程ではないけれど、自分の夢に、ここまでの現実味リアリティは求めていない。ただただ、嫌な予感がする。


(これはアレだよね……)


 大きななにかが、こちらに向かって転がってきているのだ。

 私は恐る恐る振り返る。


 すると、そこには巨大な卵があった。

 真っ白でニワトリの卵に似ている。


 けれど大きさは、私よりも一回りは大きい。


(あり得ない……)


 更に不可解なことに、それは私目掛けて転がってきている。

 どうやら、考えているひまはないらしい。


 夢の中だというのに、私は一目散に逃げ出す破目はめになってしまう。


(お願いだから、早くめてよね!)


 そんなことを考えながら、私は必死に足を動かす。

 ただ、オチは分かっていた。たぶん私は卵につぶされるのだろう。


 大きさ的に『あり得ない!』とか、生卵がいきおいよく『転がるハズがない!』とか、形状を考えるに巣から転がって行かないように『扇状おうぎじょうにしか転がらないでしょ!』とか、そんな理屈はどうでもいいらしい。


 私は頑張って走ったのだけれど、所詮しょせんは夢の中の出来事である。

 結局は転んでしまった。


 まるで意思を持っているかのように――ゴロン!――と卵は私をつぶす。

 夢でなければ死んでいただろう。


 悲鳴を上げなかったのが『せめてもの救い』だったのかもしれない。

 ガバッ!――といきおいよく、ベッドから上半身を起こす私。


 目覚ましアラームは、まだ鳴っていない。

 時間も6時にすら、なってはいないようだ。


 危うく変な声を上げて、寝ている家族を起してしまう所だった。


「あら、起きたのね。おはよう……」


 気分はいかが?――と私の目の前を浮遊し、腕を組むような姿勢でほほに片手を当てているのは『ダイヤモンド』。


 長くて綺麗きれい白銀はくぎんの髪を持つ、純白の妖精だ。

 私が変な夢を見た原因は、どうやら彼女の所為せいらしい。

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