毎日小説No.50 借金地獄!!
五月雨前線
第1話
あの時ギャンブルに手を出さなければ。
5年前の冬、会社の同僚に誘われて公営ギャンブルに手を出した。
生まれて初めての公営ギャンブルは最高だった。俺の座った台は大当たりを繰り返し、最終的に投じた金額の10倍以上の金が手に入ったのだ。
そこから先はお察しの通りだ。俺はギャンブルにのめり込み、5年間で貯金を全て使い果たしてしまった。「将来のために貯めておこう」と2年前に結婚した妻と約束したのに、結局その金にも手を出した。ギャンブルに思考の全てを占有され、まともな判断が出来なくなっていた。
あの時ギャンブルに手を出さなければ。
後悔してももう遅い。
そして、解決しなければならない問題が一つある。借金だ。
ギャンブルに投じる資金を捻出するあまり、500万円の借金をしてしまったのだ。最近はヤバい業者からも頻繁に電話がかかってくるため、家族や会社の同僚からも怪しまれている。今までなんとか借金のことを隠し通してきたが、いよいよ限界が近づいているのかもしれない。
しかし俺はもう変わったのだ。今は一切ギャンブルに手を出していない。そして会社ではワンランク上の役職に昇進し、来月には妻が出産する予定だ。俺は変わった。ギャンブル依存症を克服し、会社でも家庭でも頼れる男になりつつあるのだ。
あとは借金。借金さえ完済してしまえば、完全にギャンブル依存の暗い過去を清算出来る。借金地獄から抜け出して普通の生活が出来る。しかし今の俺に、500万円を捻出する余裕は無かった。
どうする? どうやって500万円を絞り出す? あと数週間もすれば、ヤバい業者が会社に乗り込んでくるかもしれない。早く500万円を捻出しなければ……!!
そうやって悩む俺の前に、神様が現れた。
***
「私はお金の神様だ。金に困っているのだろう?」
ある日の仕事終わり、深夜の住宅街をとぼとぼと歩いていた俺の目の前に、光り輝く女性が現れた。女性から放たれるオーラの凄さに圧倒され、俺は目の前の女性が本物の神様であることをすぐに確信した。
「は、はい! 数週間以内に500万円を捻出する必要がありまして……!」
「ふむ。望むなら、今この場でお主に500万円を与えてやるぞ」
「ほ、本当ですか!? やったぁぁぁ!!」
「ただし条件がある。250万円ごとに一回、このくじを引くのだ」
女性は虚空からくじの容器を取り出した。よく神社で見かけるタイプの形をした容器は、女性の腕の中で七色に光り輝いている。
「これは……?」
「この中には、この地球に生きる全ての人間の名前が書かれたくじが入っている。一つのくじに一人分の名前が書かれているのだ。勿論お前の名前が書かれたくじもある。今からこのくじを2回引いてもらう。そして、くじに名前が書かれていた人物は死ぬ。どうだ? それでもこのくじを引くか?」
「え? 引きます! 引くに決まってるじゃないですか!」
世界の人口は80億人くらいだったはずだ。その中で、俺や俺の大切な人のくじを引く確率なんてゼロに等しい。引く以外の選択肢はなかった。
「よかろう。では、2本のくじを同時に引くがいい」
「分かりました! えいっ!」
同時に引いた2本のくじに書かれていた言語は、日本語だった。
愛しい妻と、これから生まれてくるであろう娘の名前が、そこには書かれていた。
「今からその2人は死ぬ」
女性は嘲笑を浮かべながら指を鳴らした。俺は絶叫し、その場で膝から崩れ落ちた。
「あー、言い忘れておったが、私はお金の神様などではない。本当は確率の神様なのだよ。お前の悲しむ顔が見たくて、確率を操作させてもらった。さあ、約束の500万円だ。借金返済後にどうやって生きていくか、誰もいない我が家に帰ってゆっくり考えるがいい」
泣き崩れる俺のすぐ横に500万円の札束を置き、女性はどこかへと消えていった。
その後、借金を返済し、家に帰って妻とこれから生まれるはずだった娘の死を確認した俺。無限に湧き上がる悲しさを紛らわすために再びギャンブルに依存し、破滅の道を辿っていくのはまた別のお話……。
完
毎日小説No.50 借金地獄!! 五月雨前線 @am3160
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