異世界カフェ ヴィエランジェ【7】

 帰り道の途中で空を見上げてみると、緩やかに雲が流れる青空が広がっていた。

 特筆すべき点もない、幾度となく見てきた空だ。


「違うんだよなあ」


 記憶の中にある、ついさっき見た強烈に鮮やかな青色とは違う。

 あそこで見た空が本物にしか見えなかったから、違和感を覚えてしまうのだ。


「本物、か」


 零れた呟きで足を止め、ポケットからスマホを取り出した。

 カメラロールを開いて、


「そうだった……」


 並んでいる美少女の目が、一度として開かなかったことを思い出した。この場でもう一度見るのは叶わないようだ。


 最新の写真を開く。カードを持って決めポーズする冒険者ヒトヨシの後ろで怖がるように目を閉じているエルフっ子、という一枚だ。


 これ、サリアちゃんもばっちり決まってたらすごくかっこよかっただろうな。でも、間の抜けたこの一枚の方が僕達には合っている気がする。まだこれくらいが丁度良い。


 いつか目を開けたサリアちゃんを撮れたらいいな。

 僕も上手く撮れるように練習しておかないと。


 次はどんな冒険が出来るだろう。そんなことを考えて、笑ってしまった。

 店を出たのにまだ冒険者気分だ。僕は、ヴィエランジェでの体験にすっかり魅入られていた。


 それも仕方ない。日常生活とのズレ。あそこで感じた物は、今までのどれよりも大きかった。それでいてあまり違和感がなかった。心地良さが強かったのだ。本物みたいに。


 異世界カフェ『ヴィエランジェ』。

 作り物だからこそ存在を信じられる。日常に混ぜ込まれたファンタジーを本物として扱える。異世界なんて存在しない。だからあそこが本物だ。偽物だけれど本物なのだ。


 なんて。つまり何が言いたいのかというと、すごく楽しかった。また行こう。


 再びヴィエランジェを訪れた冒険者ヒトヨシの姿を想像しながら、僕は歩き出した。

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異世界カフェ ヴィエランジェ 鳩紙けい @hatohata

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