第11話 ならず者
民衆からの情報はこれ以上得られないと考え、店を出た。
「この辺を仕切っているのは、皇太后のとりまき連中の管轄だ。皇太后が
ぶつぶつと呟き、憂炎は護衛の一人に文を送るよう命じていた。
しばらく歩くと、老舗のお店が建ち並ぶ通りに出た。
「凛風さん、買い物は楽しいの?
憂炎は口を挟む。
凛風は首を横に振る。
「知っていますか? 貴族専用の店って定価が高いですよ。わたしに言わせればぼったくり。同じ商品でも下町の商店のほうが安くて種類も豊富です」
「凛風さんは世間のこと、よくわかっていますね。それに生き生きしています。さすが僕の妻……」
気がつくと行き止まりだったところに数人のいかつい男たちに囲まれていた。
(しまった……。つい夢中になりすぎちゃった)
「この辺を嗅ぎ回っていい気はしねぇな……。あんたら、誰だ?」
大柄で目つきの悪い男たちはジリジリと詰め寄ってきた。
「なんの事だ。わたしは隣国から来た旅人の護衛で、雇われ用心棒だ。雇い主に危害を加える気なら容赦しないぞ!」
男たちに負けじと屈強な
「ぜっんぜん。全然、旅人に見えねぇなあ。莫迦かよ。あんたらどこかの貴族さんかね?」
一人のリーダー格の男が頭を掻く。
「……」
「何を知りたい?」
(先ほどの民間警備隊は待機していると言っていたがどうなっている⁉ まさか、この男たちに買収されたのか?)
「――そうだ、知りたいのは、この街のことだ」
小柄な憂炎が堂々と答えると大柄な男たちは睨み付けた。
「は……? ガキは引っ込んでろ‼ 死にてぇのか⁉」
悪意を含んだ険しい目つきで凄み、剣を抜くと刃先を憂炎に向けた。
「! な、な、無礼な! この御方はっ……!」
「この辺りで商売したい。そのための市場調査に来た。だが治安が悪そうだな。決して嗅ぎ回ってはおらぬ」
頭まで被った外套を取ると、幼顔ながら目鼻だちがはっきりした美しい面相の憂炎、柄の悪い男たちに動じる様子もなく、落ち着いて話す。
「あんた、黒髪に、浅黒い肌だな。もしや
男たちは胡乱な目で見る。
凛風は、ハッとして憂炎を見た。
(あれ? そういえば憂炎さまは、どちらかと言うと、旧市街に住む黎族と似ているわ)
「いかにも――亡き母上は黎族だが?」
「!」
(そうだったんだ。憂炎さまは黎族の血筋なんだ)
「なんだ、オレたちと同族か」
「……」
「ならば、ここを納めている
「斉さんの出会いに感謝します」
憂炎が拱手すると斉たちは去っていった。
***
「憂炎さま。危険な目に合わせてしまい。申し開きのしようもございません!」
俊軒武官は震えながら地面に頭を擦り付けて土下座した。警備隊も旧市街を牛耳る男たちに手出しできなかったようだ。
「大したことではない」
「しかし……」
「くどい。それより、
「まあ、お母さまのご実家ですか?」
重い空気が変わると思い、凛風は憂炎に尋ねた。
「ああ……。実は母の出自が分からないのだ。だからついでに調べてみようと思ってな」
「えっ……。そんなこととは知らず。安易に聞いてしまってすみません」
凛風は慌てて頭を垂れる。
「よい。凛風さんは妻なので知っておくべきだ」
「!」
(また、憂炎さまは、どうしてわたしなんかに……わからない)
男性上位社会の後宮で育った凛風は、皇帝でありながら優しい憂炎に少し戸惑っていた。まだあどけない十四歳の齢だからか、憂炎の性格なのか、それとも――。
***
「
俊軒武官は必死の形相で懇願する。
「……わかったよ。帰るとしよう」
「陛下。ありがとうございます」
一泊二日のお忍び旅を終え、旧市街を後にした。
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