第9話 黎国城跡
建国百年の
闘いに敗れた黎国の王家の一族は粛清され、城も破壊された。砂嵐の多い地域だからあっという間に砂に埋もれ、百年ほど経っていた――。今は旧市街に向かう途中の目印になっている。
「レイラさま、こんなに揺れているのに馬車で眠るなんてね」
「疲れたのかしら」
レイラは最初はおしゃべりに夢中になっていたのだが、途中から凛風の肩にもたれかかりすやすや寝ている。
「凛風、見てくれ! ここは
憂炎が街の説明を買って出た。
「この城跡には今もたくさんの兵士の亡骸が眠っているのですね……」
凛風は窓からしんみりと外の景色を眺めた。
「うむ。だから、月のない夜、この辺りで
凛風の目を見て話す憂炎。
「え……ゆーれいに?」
凛風はさーっと顔が青くなり震える。小鈴も凛風にくっつく。
「そうだよ。みつかると
「ひぇぇぇぇぇ。 憂炎さま!」
「ハハハ! 冗談だよ。そなたたちは怖がりだな」
「女子はみな
小鈴も凛風に隠れるように小さな声で訴えた。
(もう。無邪気なんだから)
***
旧市街と新市街が交差する十字路近くの厩舎で馬車は止まった。
「今日は新市街の方で泊まって、明日は旧市街を散策しよう。武官は旅先で雇われた用心棒の恰好に着替えてくれ、お忍びだからな」
目的地に着き、テキパキと指示を出す憂炎は馬車からひらりと飛び降りた。
「さあ、凛風さん……」
馬車から降りる凛風を支えようと、憂炎は手を差し出すと、
「陛下……それはわたくしがやります。危ないです」
「
「ははははいっ! いいえ! ああ、陛下に気安く話しかけるなんて~めめ滅相もございませんっ」
「許す」
「冷や汗かきます。それに旅先の用心棒役なので、ご主人さまと呼ばせていただきます。やはり凛風さまはわたくしが……」
「いや、市井の夫はこういう時、妻が降りるとき手伝うらしいな。本で読んだ」
(断ったのに、やっぱりわたし、妻の設定なんだ)
「ありがとうございます、憂炎さん」
「そんなのは当たり前だ、大事な妻が転んでは大変だからな」
憂炎は満足そうにいった。
***
今日は新市街に新しく
宿の一階は飲み屋だったが、疲れた一行は、夕餉は商店街にお惣菜を買いこもうと話し合った。護衛が買い出しにいってくれた。
「用があれば壁を三回叩いてください、凛風さま」
「わかりました。
***
小麦粉を丸めて揚げたものや野菜の炒め物、蒸かしたジャガイモにお肉を巻いたもの。円卓に広げて並べた。
「なかなか美味しいですね」
小鈴が一口つまんだ。それを見てレイラもつまむ。
「うん、まあまあね」
生意気にレイラが感想をいう。
「何もない砂漠の国かと思っていたら、緑も多くて、野菜は育つし、思ったほど砂漠でもないですねぇ。緋国はグルメで、んーおぃひぃ。凛風さま、これ、んまーい」
小鈴は上機嫌で口いっぱいにお肉をほおばる。
長旅で疲れたのか、小鈴とレイラはご飯を食べたらすぐに眠りについた。凛風は何となく寝るのがもったいなくて、小さなバルコニーに出る。
空気が澄んだ夜空を眺めた。下の階では酒の入った人たちの楽しそうな笑い声。新市街は街のいたるところに朱いランプが灯っていた。石畳で綺麗に舗装された小路。店の軒下には椅子と円卓が並び、家族連れも多くにぎやかだ。治安がいいのだろう、酔って路上に座り込んで眠る者もいた。凛風は民の生活を見るのが好きだ。
「眠れないのか?」
「⁉」
声をかけてきたのは、隣の部屋に泊まった、憂炎だった。
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