第7話 好敵手が現れる
「
「やっと届いたのね」
凛風は燿国からわざわざ取り寄せたものがあった。燿国の民がふだん着ている服装の
憂炎、凛風、小鈴の三人分が入っていた。
「サイズもピッタリ。この格好で街に行けるわね! 燿国からやってきた旅行者の設定にしましょう」
「わたしもご一緒してもいいのですか⁉ うれしいです」
「もちろん当たり前じゃない。
「それならこの小鈴にお任せください!」
お忍びで街に出ることは凛風も小鈴も慣れたものだった。
***
憂炎は別室で着替え、支度をしていた。
凛風は自室で小鈴と旅行者風に着替えていたら、扉から鋭い視線を感じた。凛風が振り向くとサッと消え、逃げていく。
「?」
(もしかして――刺客⁉ 公主は小さいけれどお世話する侍女は各国から来ているから、数日前、わたしが閨に行ったからもしかして狙われているのかも……)
「前回は、使用人の服を着た陛下でしたが、やはり警備が甘いと思います。今度、見つけたらわたしが捕まえますからっ!」
小鈴が息巻くので凛風はあきれた顔をした。
コンコン
宮女長の
「凛風さま、もう、お着替えされました?」
「はい、大丈夫です」
扉を開けた憂炎は燿国民の衣装を着て立っていた。
「僕の恰好はどうだ? 似合うか、凛風」
「はい。似合っています。憂炎さまは、お顔立ちに品があるので貴族のご子息みたいです」
「凛風、それ褒めているのか? こっちは市井の臣(庶民)になりきっておるのだぞ」
口をとがらせ不満そうにいう。
「でも……。そうですね、やはり憂炎さまとわたしの顔が違いすぎるので、姉弟とも違うし、燿国の私たちが緋国に住む従弟に会いに来た、なんて設定どうでしょうか?」
「ぼ……僕が従弟……⁉ 待ってくれ。僕はそなたの夫なんだぞ!」
憂炎は落胆して立っていられなくなって長椅子に座った。思いがけない反応に凛風は慌てる。
「いえいえ、あくまでも怪しまれないための設定ですよ」
「はぁ……その設定は却下する。凛風は僕の妻だから妻の設定だ」
不機嫌になり憂炎は頑としてそこは譲らない。
「……」
(でも、背はわたしの方が高いし……。憂炎さまは童顔な美少年って感じだ。夫婦には見えないような……なんて言えないし)
「!」
突然、バンッと扉が開いた。
「だ、誰??」
刺客と思い立ち上がったが、小さな女の子が立っていた。
「わたしはレイラよ! わたしこそが陛下の妻なんだから、とっちゃダメー!!」
そこに現れたのは、気が強そうだけど、八歳の公主。なんともかわいいふくれっ面の
***
レイラは碧国出身の公主だ。碧国は鉱物が採れる豊かな国。宝石に加工する技術も優れていた。
昨年から緋国に妃候補としてやってきた。一目見て、陛下に惚れてしまった。金色の巻き髪で、白い肌に吸い込まれそうな碧眼のお姫さま。
「レイラ公主、お部屋に戻ってください。凛風さまにお会いしたいのであれば、お近づきのしるしに貢物を献上して、それからお茶会の約束をしてください。直接お部屋に入っては失礼にあたります!」
レイラの世話係が部屋から出そうとする。
「いや~だ! 陛下ちゃまとお話するもんっ」
「碧国の
憂炎がなだめようとすると余計に泣きそうな顔になる。
「ヤダヤダヤダヤダぁ――――っ‼!‼!」
顔を真っ赤にして大粒の涙がこぼれた。
「………」
(こんなに小さな妻だったら、怒る気がしないな)
凛風はそっとレイラの目線に合わせてしゃがんだ。
「今までの話を聞いていたのですね。レイラさまもわたしたちと一緒にいきたいですか?」
「ひっく……。うん……」
レイラはしゃくり上げながら、首を傾げる。そして絹のような白い肌に薄っすら頬を赤らめ、潤んだ碧い瞳で上目づかいをした。
(異国の人形かと思った。あざとい女は後宮だけで勘弁だけど、これはガチですね)
「……か、かわいいわ~」
凛風は思わずレイラをギュッと抱きしめした。
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