第三節 死闘の末
辺りは闇に包まれていて何も見えないが、空はものすごく綺麗で満点の星空が見える。そして、物音ひとつも聞こえないほどの静けさが襲い、このまま続けば精神がおかしくなりそうな勢いがある。
「寒いし、暗いから火をつけようか。この暗さじゃあ下手には動けないだろし、いつ何が起きてもおかしくない」
ルミエールは目に暗視ゴーグルを持っているため、本来は暗くてもよく見えている。二人のこともあり、焚き火をすることにした。しかし、肝心の材料と点火するものがない。
すると、なにかに気づいたらしく身を構え始め邪竜の方も警戒モードに入り、鬼はルミエールの背後に隠れる。猫耳をパッシブ・レーダーの代わりに色んな方向に動かしている。
「いいか、邪竜とうちでその子を守る。なにか嫌な予感がするから神経を尖らせるんだ」
その言葉を聞いた邪竜は一気に神経を尖らせ、臨戦態勢になって辺りを見回す。そして、ついに見つけたようで彼女が叫ぶ。
「伏せろ!」
鬼の方はひと足早く動いていて、ルミエールが一番遅く左上腕に何かが直撃。その後左腕がなくなり、失ったところから大量の血が溢れている。みんなすぐに遮蔽物に隠れるよう行動し、撃たれた所を見て察した。
「狙撃手がいる。おそらくどこかの
鬼の方は震えながら泣いている。この経験は初めてのようで、まだ失っていない右腕で慰めている。邪竜はルミエールのことが心配になり、応急処置をしたくてもできるようなものはなくさらに落ち着きがなくなる。
ルミエールはとりあえずみんなを落ち着かせようと平常心を装っているものの、彼女も受けたダメージで呼吸が乱れている。落ち着かせるためにはこれしかないと思ったらしく二人に言う。
「みんな、まずは深呼吸をしてくれ。本題はそれからになる」
落ち着きようにも落ち着けない彼女を深呼吸をするようにと言い、本人も深呼吸をしている。それもそのはず、全員が焦り始めるとまとまりがなくなるためである。
落ち着いたところを見て本題を口にする。
「落ち着いて聞いてくれ。邪竜の使う大剣で左腕全部斬り落としてくれ」
「はぁ!? んなことできるわけがねぇだろ! さっきので頭がおかしくなっちまったのか!?」
その発言を聞いた彼女は驚きを隠せず、受けたダメージでおかしくなったと思い始める始末。説得の言葉をつけ加え、何とかして説得しようと試みる。
「この状態じゃあ再生は不可能だ。傷口が綺麗じゃないと元には戻らない。だから斬ってくれ」
ルミエールは吹き飛んで残った左腕を前に出しえ、そのまま待機をしている。邪竜は手を前に出すと一八〇センチメートルもありそうな大剣が彼女の手元に現れ、それを握り締めて構える。とても申し訳なさそうな表情を浮かべながら振り下ろすと同時に鬼が動き出す。
「待って! 斬っちゃダメ!」
命知らずでルミエールの前に立ちはだかり、いきなりの出来事で危ないと判断した邪竜はとっさの判断で振った大剣を反射的に横へずらす。呆れた様子で鬼を見ると同時に、どうして止めたのか首を傾げるルミエール。
「んだよ! 斬ろとか斬るなとかどっちかにしろ!」
「ここは私に任せて。こういう時に隠し持っていたから」
振り返った彼女の目を見て、本気だと感じルミエールは何も言わない。邪竜は神経を尖らせて、警戒心を丸出し。彼女はその傷口に両手でかざすようにし、呪文のような言葉を発し始める。
「代々受け継ぐ魔法よ……私に治癒と除去の力を……リペアネイト!」
彼女の言葉に反応して左人差し指にはめている指輪がエメラルドに光り始める。驚くことにイモリの腕が生えてきて、その光を見たルミエールは安らかに寝そうな勢い。邪竜の方も何が起きているのかわからない様子だが、その光を見て心の落ち着きを取り戻している。
どうやら、その〝光〟は対象者だけではなく、その光を見た者まで影響が及ぶようだ。そして、彼女の様子がおかしくなってきている。
「再生するまでもうちょっとかかるよ……私だって……できることはあるから……」
しばらくすると彼女の息は上がっていて、ルミエールから見た鬼の顔は辛そうで無理をしているようにも見える。止めようと試みるがする前に見たその顔を思い浮かべ、その気が蒸発した。
しかし、邪竜には既にわかっていたようで、彼女に触れようとした瞬間に結界が貼られていた。接触しようも思っても結界が邪魔をして、何度も破ろうとするが結果は変わらない。
「そんなことしたらお前が持たなくなるぞ! 今すぐやめろ!」
「邪竜、その子は選ばれし者だ。結界を張れるとなるとあいつに似ている」
彼女の言ったことに納得がいかず舌打ちをするが、邪魔をすることをやめた。邪竜は反対派だったが、闇から希望の光に変わり始めて期待をするようになっている。
ルミエールの身体の中では、さらに不思議なことが起きている。細胞が活発化していて、分裂する速度も早くなっている。そのことに気づいた彼女は自身の持っている再生能力を使うと一気に左腕が再生して元通りになる。一瞬のできごとに邪竜は追いついていないが、すぐに全てを理解した。
「君、やっぱりうちの方に……って言ってられないな。あと音のした方向わかったぜ」
「ルミエール、さすがだな。人間と猫の耳を持ってこその能力だ。んで、場所はどこだ? 襲いたくてうずうずしてるし、超大まかな場所しかわからなかったぜ……」
「……?」
ルミエールは人の聴覚と猫の聴覚両方備わっているようで、少しの物音は猫の耳でキャッチして音の方向は人間の耳を使っているようだ。邪竜は早く襲いたくてうずうずしている様子で、鬼の方は何を言ってるのかわかっていない。
「北を一二時の方向とした場合、一二時から音が聞こえた。距離はだいたい1.5kmと言ったところか」
「じゃあ姿を出しに行くか。『こいつ』を守るためにもな」
「だな。いつどこで射撃されるかわからない」
ルミエールの聴力により、襲撃された場所を特定した。そして、物陰に隠れていたのをわざと姿を晒し、方向を詳しく突き止めようとしていた。
彼女は何もない空間から弓を出し、その弓を手に取る。邪竜は大剣を構え神経を尖らせ、二人で背を合わせる。治療をした鬼は物陰に隠れていたのが、のこのこと出てきて戦闘に加わろうとしている。
「君! 物陰に隠れな──」
物陰から鬼も出てきて、大剣を持った邪竜が鬼の方へ行く。大剣を使って防ぐとその瞬間、金属と金属がぶつかる音と同時に言う。
「ルミエール! これ、囲まれてるぞ! 少なくとも三、四人いる!」
「この状況はまずいな。動きたくても他の方向は特定できてなくて、隠れる余地もない」
「こいつを守るのがやっとだ! 俺は見えるからいいけど、お前はどうする!」
「特定できてなくて見つけ出そうとするなら、別の方向から撃たれてそれどころじゃなくなる」
四つの耳を駆使して、もう一方向を特定しようとした瞬間にまた別の方向から銃弾が飛んでくる。当たることはなく、跳弾してどこかへ消えた。
邪竜は鬼を守ることに精一杯で何か策はないかと言わんばかりに考えているが、答えは見つからない様子。混乱している中、ルミエールは全てを理解した。この組織は通信を取りながら発砲していると。そう答えが出てきた瞬間にまた別の方向から飛んでくる。その銃弾は鬼の心臓を狙っていた。
「大丈夫か……? 怪我はないか……?」
「お……お姉ちゃん!?」
「ルミエール! おまっ……無茶しやがって……」
「言ったろ……守るって……」
邪竜が見えなかった背後で鬼を庇い、ルミエールの胸に当たる。周囲を抉りながら肺と心臓を貫き、背中から抜けていった。
しばらくすると、弾創から少し出血をして灰色の服が黒く変色する。誰がどう見てもこれは危険と判断し、邪竜はさらに五感をさらに研ぎ澄ます。
「ごめん……これはさすがに……負荷…………が……」
「お姉ちゃん!! お姉ちゃんしっかりして!!」
ルミエールの身体の損傷は激しく、膝から崩れ落ちて前へと倒れる。意識が今にもなくなりそうになり、鬼はパニックに陥って確認するのがやっとのようだ。
そんな中、邪竜だけは冷静に判断し、鬼に指示を出しながら盾になることを決意。
「この感じだと、骨の粉砕、肺と心臓損傷、さらには他の内臓損傷、神経損傷になってかなりの重傷! 再生能力が高いこいつでも通常より完全再生までかなり長い! 厳しいと思うが、急いで手当してくれ! ルミエールは寝てろ! 俺がなんとしてでも守ってやる!」
「認めてくれた……必要としてくれた……私にできないことなんてどこにもない! ハイリペアネイト!」
彼女の身体は絶望的な損傷。普通の人なら短時間のうちに絶命するが、自己再生能力で治療していくため絶命はしない。
邪竜の前にまた飛んでくるが、大剣を自在に操って銃弾そのものを真っ二つに斬る。背後に飛んできた銃弾を腹で防ぎ、場所を海側が見えるように移動して左から飛んできた銃弾を地面に突き刺して弾き返す。
「ちっ、どいつもこいつもめんどくせぇヤツらだ!」
「あと…………少しで……強力な…………が……」
「あ? どういうこ──」
激しい遠距離攻防戦で射撃場所を特定しようとするが、飛んでくる方向しかわからず動けないでいると、治療をしている鬼が何かを言い始める。
「こいつら一体どこまで持ってんだ! 今のは完全に五〇口径のスナイパーライフルだぞ! 大剣つかいとはいえ、押されてるとはな……いい度胸してるぜ!」
「お姉…………ちゃん……聞こえる……? 私の…………全ての……力を…………出しちゃ…………」
「お、おい! 大丈夫か!」
「邪竜……あまりでかい声を出さないでくれ……」
全て言い終わる前に山の方からさっきの銃弾より大きく輝くものが見え、邪竜は切ると鬼に当たると考え地面から約四五度の角度をつけて空へと飛ばす。反動が凄まじく、力自慢の彼女でさえほんの少しだけ押されてしまった。
押されたことに腹が立ったのか、急にスイッチが入ったと同時に鬼が倒れ始める。それを見た彼女は焦り始め、意識はあるか問いかけたが、あまりにも声が大きくルミエールが目覚める。
「治してくれてありがとな。この借りは返さしてもらう。だから今はゆっくり寝ていてくれ」
「こんな時にみんな倒れてよぉ……ここは戦場だぞ! さすがに笑えねぇ! ルミエール、お前はもう動けるな?」
「動けるさ。体内にばらまかれた骨の破片がひとつもないからな。とりあえず、芋ってる狙撃手を片付けようぜ」
「ああ、そうだな」
そう言いながらそばに落ちていた弓を拾い、構え始めて周りを見渡すが、さっきまでの攻撃はピタリと止んでしまった。二人とも不可解に思いながらも警戒を緩めることなく、鬼を中心にお互いに背中を向ける。
何も起こらないこと数分経過した途端に周りを見ていた邪竜が叫び始める。
「五時の方向、九時の方向、十二時の方向からほぼ同時に来たぞ!」
「アウアリス!
それは同時に鬼を狙っているが、早期発見によりルミエールは弓から槍へと持ち替え、プロペラを回すかのように超音速で回転させる。ものすごい轟音と共に九時と十二時の方向から来た銃弾を弾くどころか、一刀両断ならぬ
邪竜は防ぐことなく大剣を斜めに振り下ろして真っ二つに斬り、速度を失わない破片は刃の角度に沿って別の方に飛んでいく。
「いつから〝その技〟を覚えた? 一度も見たことがねぇぞ」
「今さっき出てきただけ。なんかそれっぽいだろ?」
「たしかにな。あと一人応援が来てくれれば楽なんだが……」
「さすがに来ないだろ」
見たことがなく、不思議に思った彼女はルミエールに聞くが、驚くことに今さっきできた技のようだ。二人では対処しきれないため、あともう一人いれば動きやすいと考える二人。黒い紙に様々な色に散りばめられた光り輝く宝石の空に亀裂がはいり青白い強い光を放つ。
「今度はなんだ! って……あれはまさか!」
「そのまさかだ……空間の歪みから発生した世界と世界を繋ぐ一方通行の道」
二人は見たことがあるようで、一気に緊張が高まる。こんな状況で〝あの現象〟が起こるなんて思ってもいなかったらしく、その亀裂をずっと見ている。
次の更新予定
毎週 金曜日 15:00 予定は変更される可能性があります
元最強クラスの猫娘が過去に目覚める ルティーヤ @DarMat
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。元最強クラスの猫娘が過去に目覚めるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます