第6話 電波お姉さんと、ここをキャンプ地とする!

 それからサクラたちはレンジャーのいる門番まで戻って来た。


 太陽は既に沈み、もう夜だ。


「おう、ジョン戻って来たか」


「ジョン? ジョンってどちら様ですかァ?」


 ビリケンは不思議そうな顔をする。


「えっ、その嬢ちゃんの名前はジョン・ドゥだろ?」


「いいえ、彼女の名前はサクラです。権兵衛サクラ」


「えっ?」


「えっ、あってるですよねェ? あなたサクラさんですかァ!?」


 ビリケンが慌てて、訊いてきた。


「はい、サクラです」


「じゃあジョン・ドゥは偽名なのか⁉」


 レンジャーは呆れたように言う。


「いいえ、私の名前はジョン・ドゥです」


「どないこっちゃですかァ、サクラさん・・・・・・」


 ビリケンは怒気の声音で問いただしてきた。


 その手は血管が浮き出るほど、力強く拳を握られている。


「いや、ジョン・ドゥは私のペンネームで――――偽名じゃないというか何というか・・・・・・」


「まったく、いつまで中二病みたいなことしてるんですかァ。二十六歳で人権恥ずかしくないですかァ? それにジョン・ドゥは男性です。女は確かジェーン・ドゥだったようなァ」


「えっ、そっそれは――――そうネカマよ! ホラ、有名な女性漫画家も男性名で活動してるだろ! あれと一緒よ!」


「それを言うならですかねェ。素直に情弱を認めなさいです」


 詭弁も通用することなく、論破されたサクラは悔しいそうに顔を赤く膨らませた。


「じゃあ、サクラが本名ってことで良いのか?」


 レンジャーが困惑したように言う。


「ああ、それであってるです。サクラは頭が電波ビンビンなので、気にしないでくださいです」


「お、おう、そうか・・・・・・それはお大事に」


「ちょっと、待て! 納得しないでくれレンジャーさん、私はオカシイ子ではない! やめろ、そんな諦観した目で見ないでくれ! いや、見捨てないでくれ!」


「安心しろ、バーミンには良い医者と大きな病院があるから大丈夫だよ」


 肩をポンと手を添えてくるレンジャーにサクラは涙目である。


「サクラさん・・・・・・」


「ビリケン・・・・・・」


「闘病記を書くのも良いんじゃないですかァ! トゥイッターでも人気あるタグです!」


 サムズアップするビリケンの顔面にサクラの鉄拳制裁が直撃した。


「ビッ・・・・・・ビリケンさんッッッ⁉」


「前がみえねェ・・・・・・」


 倒れこむビリケンに慌てて抱きかかえるレンジャー。


 見るも無残に顔面がめり込んでいる。


「そうだ、レンジャー。アンデッドから手に入れた銅貨三枚と指輪だけど、これで何とかなるか?」


「そうだな、銅貨三枚では全然足りないが――――んっ、この指輪・・・・・・」


 レンジャーは指を手に取り、マジマジと注意深く確認する。


 もしかして高価なモノなのだろうかとサクラの脳内で『オープン・ザ・プライス!』と某鑑定番組が再生される。


「この指輪を譲ってくれるなら、サクラたちを入管所まで送るアテを作ってやろう」


「おおう! 本当か!」


 よっしゃ、当たりのようだ。どれほどの価値があるのかは分からないが、交渉成立だ。


「ああ、でも今晩は遅いから、明日の早朝になるが良いか?」


「それで私も大丈夫だ。でも、それまでどこで寝たら、野宿とか出来ないし・・・・・・」


「仕方ないな」


 レンジャーはそういうと、行商人専用の受付室の扉を開けた。


「今日は特別だ。ここで寝泊まりして良いぞ」


「良いんですか!」


「他の奴には秘密だぞ」


 そうしてサクラたちはレンジャーのお言葉に甘えて、無事に一夜を過ごすことが出来た。




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名無しの権兵衛は異世界で名を残したい! アバダケダブラ小僧 @1160484

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