エピローグ
あの日、帰宅すると警察が来ていた。
前日に家に来た二人組だった。
幼馴染とそろって事情聴取されたが、特段後に響かなかったのは、変質者男が既にお縄についていたからだ。
おそらくはあの青年――向こう側の人とでも呼ぼう――によって警察に引き渡されたのだろう。
家族からも幼馴染からも心配されたが、恐ろしい目に遭ったことを伝えつつも、大丈夫だと言い張った。
翌日学校に行くと、不登校だった男子生徒が久しぶりに来ていた。
僕が学校から跳び出したその後、クラスメイト達と担任の間、なおかつ彼との話し合いが行われたらしく、今後、彼が執拗にいじめられるようなことは無さそうだ。
不在にしていた間のスピード解決に少し驚いた。
それよりも、あの日教室を跳び出した僕への興味関心が強まったらしく、あれから僕のあだ名が「狂人」となり、秘かに恐れられているのは謎だった。
僕の目には彼らの方こそ狂人として映っていたのだが、話に食い違いが生じている。
彼らも担任も、顔色が悪い僕に対して心配するような声掛けをしていたのだと言うし、教室を跳び出した僕のことを心配し、慌てて追いかけたと言う。
向こう側の人の話を元に考察するならば、怪異に影響された僕が、現実を歪めて解釈してしまっていたのだろう。
「それにしても、ホント何事も無くて良かったんだから」
そして事件から数日後の今日、幼馴染の彼女と下校道を一緒に歩いている。
ねちっこく「心配したんだからね」と言われ続ける日々である。
「だからごめんって」
「次あんな風に跳び出していったら許さないから」
「分かってるよ」
それを言うなら、あんな夜中に僕の家まで一人で来るこの子も同じようなものだろうが、元凶は僕なので言い返せる立場にはない。
「ああ、それでさ。実は渡したいものがあるんだよね」
僕はカバンからそれを取り出し、彼女に手渡した。
「……ストラップじゃん!」
それはあの日、変質者男によって奪われたストラップの代わりとなるものだった。
現物は男が奪い、どこかに捨て去ったようで、見つかることは無かった。
「こういうの好きだろ」
「まあ、ね」
大事なものを無くして、どこか寂しそうな表情を浮かべていた彼女。
今回買ったものは、無くしたものと趣向はほとんど同じ、どこかのご当地キャラクターのストラップである。
「次は盗られないようにするから」
「いいよ、盗られても。何回だって買ってやるわ」
「……ありがと」
彼女は両の手の平で、新しいストラップを優しく包み込んだ。
初夏の夕陽に照らされて、下校道は濃いオレンジ色に光る。
分岐の分かれ道にはもう、関係者以外立入禁止の看板は無くなっていた。
【関係者以外立入禁止】 こばなし @anima369
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