「第一回選択希望聖女、王都貧民街のクラリス!」
uribou
第1話
「第一回選択希望聖女、龍仙教団、王都貧民街のクラリス!」
今年の聖女ドラフトも一二教団の第一回選択希望聖女が出揃った。
予想されたこととはいえ、全員がクラリスを指名した。
聖女ドラフト?
ああ、聖職者以外にはあまり馴染みがないかもしれないな。
以前は各宗教団体が広告塔として、あるいはアイドルとして聖女を据えるのは自由競争だったんだ。
当然聖女の資質としては、治癒魔法を使え強い魔力を持つことが前提なわけだが。
ところが苛烈な争奪戦とか国からの補助金の不正受給とか邪教の存在とかが問題視されてね。
現在では国に公認された一二の宗教団体が、それぞれ年間一人を上限に聖女候補に対する交渉権を得るのだ。
今年はクラリスに人気が集中してるってことさ。
クラリスは今年突然現れた聖女候補というわけではない。
以前から強い魔力を持ち、治癒を行えるということは知られていた。
現在は探知の魔道具が発達しているから、意図的に隠されでもしない限り聖女候補の存在はわかるしな。
しかし貧民街育ちのよく言えば現実的な性格と教育の難しさから、ここ二、三年クラリスのドラフト指名は見送られてきたのだ。
じゃあ何故今年は? って思うだろう?
貧民街って場所は瘴気を集めるものなんだが、どうした偶然か凶悪なゴーストが発生してしまったという事件があった。
ゴーストには物理攻撃が効かない。
魔法は効くが、聖属性以外の魔法は効果が薄いという厄介な特性がある。
王都を揺るがす大事になりかねなかったが、何とクラリスは破魔の術を用いて一人で災害級ゴーストを始末してしまったのだ。
治癒だけじゃなくて破魔の術を使える。
そして倒すのに数十人もの魔道士が必要なはずの災害級ゴーストを一人で倒せるほどの強大な魔力。
クラリスの価値は跳ね上がった。
そして今日の聖女ドラフトだが……。
「抽選の結果、独占交渉権を得たのは博愛教会です!」
マジか。
一二分の一を引き当てたオレすごい。
運がいいやら悪いやら。
龍仙教団の教主であるベンが話しかけてくる。
彼もオレと同じく年若なので、こうした場で話すことは多い。
「よう、デービッド。大当たりじゃないか」
「よしてくれよ。今年はクラリスに行かざるを得なかっただけさ」
ここ数年、我が博愛教会は聖女ドラフトに参加はしていたものの、あえて交渉権を得ることはしなかった。
……最近は聖女候補もずうずうしくなってるからな。
交渉権を得てもうちみたいな貧乏教団には見向きもしてくれないんだ。
博愛教会で働いてくれないとなると、一年後の聖女ドラフトまで交渉権で縛ってしまうことになる。
その聖女候補のためにもならなきゃ、確保すべき聖女の数が減る国にとってもよろしくない。
結局白い目で見られるのが嫌だから見送りさ。
ただ今年は事情が違う。
クラリスは莫大な魔力を持つと想定されている上、貧民街育ちだ。
貧乏教団でも加入してくれる可能性がある。
ここで指名しなきゃどこでする。
頑張れ男の子ってなもんだ。
「クラリスはすごい力を持ってるんだろう?」
「おそらくな。ただ教育が難しいだろうっていう条件は変わらない」
人員が豊富な大手の教団の方がクラリスのためかもなあ。
「いやあ、デービッドにも強みがあるからな」
「強み?」
「元冒険者じゃないか」
確かにオレはそれなりの冒険者ではあった。
先代の司教が亡くなった後、オレならば一番他の教団から舐められないんじゃないかという理由で跡を継ぐことになっただけだ。
国から認められた教団の司教ならいい生活ができるかと思ったが、そんなうまい話はなかった。
所詮信徒の少ない貧乏教団だからな。
すぐ後悔した。
「元冒険者は強みになるのかね?」
「サバイバルとか生きる術のプロフェッショナルだろう?」
「……そういう言い方もできるか」
「貧民街育ちを手懐けやすいんじゃないか?」
なるほど?
聖女らしい振る舞いを教え込むことの困難さばかりを考えていたが、手懐けることが先か。
もっともなことだな。
「ありがとう、ベン。やるべきことが見えてきた」
「博愛教会に期待していることは本当なんだ。ここでクラリスの育て方を間違えると、聖女ドラフト自体のあり方を問われそうだろう?」
頷かざるを得ない。
「そうするとどうせ大手教団偏重になるのさ。小さい教団が認められてこそ信教の自由が確保されると、自分は信じてるんでね」
「お偉い考え方だな」
「ハハッ、困ったことがあったら相談してくれよ。これでも博愛教会よりは融通が利くからね」
「おう」
まずはクラリスを博愛教会に引き込むことだが。
「第二回選択希望聖女を受け付けます。既に独占交渉権を得た博愛教会以外の皆様、お集まりください」
◇
――――――――――新聖女候補クラリス視点。
「君がクラリスだな? オレが今年の聖女ドラフトで君の独占交渉権を得た、博愛教会のデービッドだ。よろしくな」
貧民街のねぐらで、火をかけた鍋をかき混ぜていたあたしに声をかけてきた男は、あまり聖職者っぽくない男だった。
僧服を着ていないこともそうだが、貼り付けたような笑顔が胡散臭い。
「帰って」
「まあそう言うなよ。これはお近づきのしるしだ」
大袋一杯のイモ!
この男わかってる!
「ありがとう!」
「おっと、オレの話を聞いてもらえるかな?」
「……聞くだけは聞く」
「十分だ」
満足げな表情だな。
聞くだけだぞ?
あたしは弟分妹分を養っていかなければならないから、宗教なんかに関わってる暇はない。
「今までに他の教団から、ドラフトで指名したらよろしくっていう、挨拶は多かったろう?」
「うん。でも全然興味ない」
聖女だなんだと言われてもな。
あたしの魔力は大きいらしい。
国全体に恵みをとか言われたけど、全然ピンと来ない。
あたしにとっては国なんかより、弟分妹分に食わせることが重要なのだ。
「興味ない、か。そうだろうな」
「あんたが今まで来た他の聖職者よりマシだってことはわかるよ」
「ほう、そうかい?」
「気の利いたお土産を持って来てくれたのは、あんたが初めてだ」
「そうだったか。単なる作戦だけどな」
作戦?
あたしを博愛教会とかいう宗教団体に入信させるための?
やっぱり嫌なやつだ。
「あたしは博愛教会なんかに入らない!」
「普段は何食ってるんだ?」
「えっ?」
交渉を打ち切るつもりだったのに、全然違う方に話題が飛んだ。
……イモをもらった義理くらいは話してやってもいいか。
「近所の食堂を回って、クズ野菜や骨をもらうんだ。たまに食べ残しや余りものをもらえることもある」
「不安定な食生活だな」
「……仕方ない。それしか食っていく術がないから」
聖女になれば食っていく術がある、とでも言いたいのか。
何て嫌なやつだ!
「クラリス、君が背負っているものは何だ?」
「えっ?」
「そのせいで聖女になりたくないんだろう?」
図星だ。
それが作戦か?
確かに反吐みたいな理想を吐くだけの聖職者とは違う。
「……一二人の弟分妹分がいる。あたしがいるから大人達から守ってやれるんだ。あたし自身の生活は、あんたの教団に入った方が安定することはわかってる。でも弟分妹分を見捨てて教会の務めはできない」
「一二人か。うちも貧乏教団なんで、いきなり一二人の孤児の面倒はみられないな」
「だろう?」
やっぱりそうか。
もしかしてと思ったが、ガッカリした。
「あたしがいるから大人達から守ってやれる、とは、クラリスの魔法があるからってことだな?」
「うん」
貧民街の住人にとって、あたしの魔法は脅威でもあり安心でもあるのだ。
あたしの仲間に手を出すやつには容赦しない。
一方でケガをした時や毒に当たったときなどは助けてやる。
やはりあたしは貧民街を出て行くことはできない。
「大体事情はわかった。うちの聖女をやってくれ」
「だからムリだ」
「貧民街を出て行く必要はない。そして食糧事情を改善してやろう、という条件ならどうだ?」
「えっ?」
貧民街を出て行く必要がないなら、今まで通り弟分妹分を守ってやれる。
食料事情が良くなるなら願ったりかなったりだ。
また何かの作戦か?
こいつの言うことは信用できない。
「詳しく話せ」
「おうおう、怖い目だね。そんなに警戒しなくても」
「警戒心のないやつが貧民街で生き残れるわけがないだろう!」
「もっともだ。オレは今は博愛教会の司教だが、元冒険者なんだ」
「冒険者?」
なるほど、道理で聖職者っぽくないと思った。
「冒険者にも色々いるんだが、オレは魔物狩りが専門だった」
「ふうん」
「知ってるか? 王都近郊の魔物の中には美味いやつもいるんだ」
「そうなの?」
「そうさ。新鮮な美味い肉を食い放題だ」
思わず喉が鳴る。
美味い肉を食い放題だって?
「それはいいことを聞いた。あたしも冒険者になって、肉を狩る!」
「魅力的だろう? 食べられる草や薬草、木の実、キノコなんかも豊富なんだぜ」
「あたしは絶対に冒険者になる!」
「ムリだ」
「どうして!」
「君は孤児じゃないか。市民権も身分証明書も持ってないだろう? 一度王都から出たらそれまでだ。門兵は身分が明らかでない者を王都に入れない」
「あ……」
そんな規則があるのか。
どこまでも貧しい者に厳しい。
「まあ抜け道もあるってことさ」
「どんな?」
「うちの聖女になればいい。博愛教会が身分を保証すれば、大手を振って冒険者活動ができるぞ?」
「……」
そういうことだったのか。
「どうだ?」
「……あんたがそうやってニヤニヤ笑ってるのでなければ、乗ってみたい話なのに」
「これは地顔なんだ」
「胡散臭い地顔だな」
あれ?
傷付いたような顔をしてるぞ?
「ほっといてくれ」
「何らかの手段で身分証明ができれば冒険者になれるんだな?」
「まあ自称ならな。君が強力な魔法を使えることは知ってるが、それだけで倒せるほど魔物は甘くない」
「そうなの?」
「そりゃそうだ。大体食える魔物がどこにいるのかすら知らないだろう?」
「……」
確かに魔物がどこにいるのか知らなければ倒しようがない。
「オレが教えてやるから問題ない。どうだ? 他の教団じゃ冒険者活動を教えてくれったってムリだぞ? 博愛教会だけの特典だ」
「一つ質問がある」
「何かな?」
「血なまぐさい元冒険者が聖職者ってどうなの?」
「……オレも同じ理由で断わったんだが、他の教団との力関係もあるだろう? オレ以外がトップじゃ侮られてよろしくないってことでな」
そうか、かなりの実力の冒険者だったんだな。
多分こいつの言ってることは本当だ。
存在がいかがわしいだけだ。
「わかった。博愛教会にお世話になろう」
「そうか。よろしく頼む」
「あれっ? 思ったよりも喜んでくれないんだな?」
微妙な顔をするデービッドという名の男。
「大変なのはこれからだ。貧民街の面倒を見つつ、何とか君を聖女らしくしなくてはいけない」
「聖女らしく……はムリだと思うけど」
「わかってる。オレもムダなことはしたくない」
……ムリだムダなことだと思われるのはちょっと癪だな。
「明日また来る。今日はイモでも食べて寝てくれ」
◇
――――――――――博愛教会司教デービッド視点。
「今日も邪魔するぞ」
「いらっしゃい」
翌朝にもう一度クラリスのねぐらを訪れたら、今度はうじゃうじゃちっちゃいのがいるな。
「これが弟分妹分か?」
「そうだ。そちらの方は」
「うちの修道女ミリーだ」
「ミリーでーす。よろしくお願いしまーす」
「うん、よろしくね」
問題ないな。
ミリーは性格が軽いから。
「クラリス、行くぞ」
「どこへ?」
「肉の確保だ」
「あっ、魔物狩り?」
「そうだ。留守はミリーに任せる」
「えっ? 大丈夫かな?」
「ミリーも元冒険者なんだ。結構腕は立つ」
「そうですよー。こっちは任せていただいて結構です。お昼も持って来ましたよー。でも夕御飯はないですから、しっかり獲物を狩ってきていただかないと困りますよー」
「だ、そうだ」
「わかった!」
いきなり魔物狩りなのに逡巡しないのな。
頼もしい。
◇
「このキノコは美味いんだ」
「……」
王都の門を出、魔物の現れる森にやって来た。
野草とキノコばかり採ってるからか、クラリスのテンションが低い。
しょうがないじゃないか。
都合よく食える魔物が出るわけじゃないんだから。
「キノコは怖い」
「お? そうだな。キノコは毒のやつが多いから、知らんキノコは絶対食べるなよ」
「……以前に食べた時、頭がぐわああーんってなって……。あたし毒消しの魔法も使えるんだけど、間に合わなくなりそうだった。怖かった」
「ヤバいキノコはヤバいからなあ」
「それからキノコは食べないようにしてるんだ。ごめんね」
「おう、それくらい慎重でいいぞ」
可愛いところもあるじゃないか。
……おっと、おいでなすったな。
「魔物だ、あそこ。イノシシの魔物マッドボアな」
「あっ、本当だ!」
魔物は邪気に侵されているので、普通の動物よりも攻撃性がうんと高いのだ。
草食魔獣であってもほぼ向かってくる。
「ようやく夕食にありつけたぜ」
「どうするんだ?」
「流れを説明しよう。まず後ろで見ててくれ」
「わかった」
当然敵意を剥きだしにしているオレの方に突進してくる。
「はっ!」
正面から脳天をかち割る。
このままでもくたばるが……。
「クラリス、攻撃魔法は使えるのか?」
「初歩的なものなら火・氷・雷・風・土どれでも使えるよ」
「ほお?」
大したものだな。
「では風魔法で首を切断してとどめを刺してくれ」
「わかった」
躊躇がないなあ。
首を切ると血抜きがしやすいしな。
モタモタしないのは、特に瞬時の判断が要求されることがある冒険者にとっていいことではある。
「とどめを刺したことにより、クラリスへの戦闘経験値の分配が多くなる」
「戦闘経験値?」
「戦ったことによるボーナスポイントだな。大雑把に言うと、経験値を溜めるほど強くなれる」
「ふうん、そうか」
「聖女は持ち魔力が大きいほど活躍できるから、従軍訓練を課される教団も多いんだ。魔物退治してりゃ経験値は稼げるので、うちはわざわざ訓練なんてしないけどな」
「つまり、肉を狩っていれば訓練はいらないんだな?」
「ああ」
そういう理解で十分だ。
「君は様々な魔法を使えるんだろうが、火魔法と雷魔法の使いどころは考えろよ?」
「火事になると危ないから?」
「それもあるが、丸焦げになったら食うとこがなくなる」
「あっ、そうだった!」
うむ、熱心だな。
でも普通の聖女みたいな奉仕活動や啓蒙活動なんかしたがらないだろ。
じゃあ冒険者活動を主にしてレベルを上げ、国難クラスのゴーストが現れようがへっちゃらって感じに育てた方がいい。
本人の資質もやる気も戦闘寄りなんだから。
「さてと、解体するから周りを警戒しといてくれるか」
「そういうことなら結界を張るよ」
「お? おう」
そうだ、クラリスは聖女だった。
教わってもいないだろうに結界まで張れるのか。
どんなセンスだ。
とっとと解体し、肉と魔石と牙を得る。
「わあ、たっぷりの肉だなあ」
「骨からもいいスープが取れるぞ。魔石と牙は売れるんだ」
「ふうん、すごいな」
目がキラキラしてるな。
あんまり聖女らしくはないが、まあいいか。
「あたしも解体してみたい」
「では次来た時に教えてやろう」
「うん!」
ハハッ、懐いた。
「今日の成果は十分だ。残りは燃やして帰るぞ」
◇
――――――――――四年後。博愛教会司教デービッド視点。
どうしてこうなった?
聖女クラリスに冒険者としてのイロハを教えたら、毎日みたいに狩りに行くことになった。
当然肉が余るようになるので貧民街の連中に振る舞っていたら、肉を運ぶのを手伝うと申し出る者が出始めた。
その方が多くの肉を持ち帰れるから。
運搬要員を連れて行ってたら、いつの間にかレベルが上がって戦えるようになってくわけだ。
食を求めて雪だるま式に博愛教会信徒の冒険者が増えてゆく。
大所帯となったので、フィールドだけじゃなくより強い魔物が生息するダンジョンにも進出し、得た高価な魔石や素材を売却するようになる。
それらの一部は外国に輸出され、王国の経済にも好影響をもたらしていると言われた。
戦う聖女クラリスの名が知れ渡ってきた頃、魔物のスタンピードが発生した。
聖女クラリスと博愛教会信徒の冒険者達は大活躍し、王都と周辺の集落の防衛に成功。
陛下から褒美と勲章を賜り、博愛教会の勇名が鳴り響いた。
……宗教団体の勇名って何?
聖女クラリスの名声は止まることを知らなかったが、冒険者活動に支障をきたすようなことはなかった。
何故なら毎日戦闘訓練を行う職務に忠実な聖女と思われていたので、誰も邪魔しようなんて考えなかったのだ。
騙されちゃいけない。
それは戦闘訓練じゃなくて肉狩りだというオレの心の声は、無論誰にも届かなかった。
「司教さまあ」
「ミリーか。御苦労さん」
オレやクラリス達が冒険者活動にかまけていた間、信徒達をまとめてくれていたのはミリーだ。
信徒の一人と結婚して、今ではお腹が大きいのに。
全く頭が上がらない。
「あはは、でも博愛教会の勢力急拡大は司教さまのおかげですってば」
「勢力拡大するつもりなんか全然なかったんだが」
うちの勢力拡大で他所の教団と揉めても嫌だ。
だから他所の教団の聖女や聖騎士を、合同戦闘訓練の名目で魔物退治に連れて行くなどの横の繋がりも重視している。
おかげで増々戦闘集団と認識されてしまった。
我ながら何してるんだと思う。
「でもビンボーから抜け出せてよかったですよお」
「それだけは本当にな」
「クラリスちゃんをどうするつもりです?」
「……」
聖女クラリスにはメッチャ懐かれている。
最初はオレに対して胡乱なものを見る目だったのにな。
オレのおかげで人生が変わったからだそうだ。
いや、人生変わったのはオレも同じなんだが。
「司教さまのお嫁さんになりたいみたいじゃないですか」
「……年齢が違うわ」
一五は離れてるはず。
さすがになあ。
「しーしょおっ!」
後ろからクラリスが飛びついてきた。
「一七歳になったんだろ? もういい娘なんだから、そういうのやめろ」
「照れちゃって」
「照れとらんわ。胸もないクセに」
「……師匠はおっぱいある方がいい?」
あれっ? 傷付いたか?
「いや、そんなことないぞ。クラリスはスリムなのがいいところだからな」
「そう? よかった!」
ニッコリするな。
可愛いわ。
「今あたしが師匠のお嫁さんになりたいって話してたでしょう?」
「そうなのよー」
「おいこら」
「もう降参しちゃいなさいよー」
何だろう。
この二人に組まれると勝てる気がしない。
「クラリスちゃんは司教さまのこと好きなんでしょ?」
「うん。いつもニコニコしてるところが好き」
「胡散臭い地顔って言ってなかったか?」
「言った。でも今は大好き!」
うはあ。
ここまでストレートに向けられる愛情って眩し過ぎるわ。
「ねえ、あたしじゃダメ?」
「ダメじゃねえよ。むしろオレでいいのかよ。おっさんだぞ?」
「師匠がいいんだよ」
「……じゃあまあオレもいいけれども」
「やたっ!」
クラリスの頭をよしよししてやる。
これはめでたいことなんだろうなあ。
「うっ、あいたたたた……」
「ミリーさん、どうしたの?」
「陣痛かな。産まれるかも」
「クラリス、控え室を浄化してミリーを連れてけ。信徒の中から女手集めろ。オレは産婆呼んでくる!」
「わかった!」
慌てて礼拝堂を飛び出しながら思う。
めでたいことは続くもんだな。
「第一回選択希望聖女、王都貧民街のクラリス!」 uribou @asobigokoro
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