第16話 作戦とふたつのプラン
翌日。いよいよ、昨日みんなで話し合った作戦を決行する時だ。
今はちょうど、一時間目の授業が始まった頃。私たちは教室を抜けて、三階の空き教室に集まっていた。
五人全員でこの教室に集まるのは、初めてみんなと会ったあの日以来だね。
「急に呼び出してすまないね。先生方に無理を言って、一時間目はここで話をさせてもらえる事になった」
「何始めるんすかセンセー」
「集まるのは一週間後って言ってなかったかしら?」
黒板の前に立った
私と
本当に何も知らない
「一時間目はすごく眠いんだけど……」
「ちょっと緊急の用事でね。とても大事な話なんだ」
「……もしかして、三階の窓ガラスが割れてたことに関係があるんですか?」
「お、桐神君するどいね。正解」
昨日コナゴナに割れた窓は、まちがって触らないようダンボールで隠されている。1組の教室からここまで一緒に来た時も、桐神君は少しだけビックリしていた。
「廊下の窓が全部割れてるなんて、普通じゃありえないって思ったでしょ? 実は昨日、まさに普通じゃないことが起こってね」
私たちへ一人ずつ視線を向けながら、先生はゆっくりと話す。この間にも、先生は桐神君か黒見君におかしな動きが無いか観察しているんだろう。
「時に君たち、『超心会』という言葉を聞いた事はあるかい?」
何気ない調子で、先生はさらりと本題に入る。
これが、私たちの作戦。
この中の誰かがスパイだってことを全て話して、反応をうかがう作戦だ。
もはや作戦って言っていいのか分からない強行手段だけど、私のテレパシーにおいて、情報をつかむには相手に『考えさせる』ことが大事だからね。無理やりにでも『超心会』っていう言葉を、頭の中に呼び起こさなきゃいけない。
私はさっそく、テレパシーを使った。
勝手に心を覗くこと、どうかゆるしてね……!
(超心会……そう言えば、先生のバッジをサイコメトリーした時にそんな言葉があったような……なんかの映画の話って、
黒見君の心の声は、ふしぎそうにそう言っていた。
あの日の黒見君は、超心会って言葉は本当に知らない感じだったけど、もしかしたらあれも演技だったかもしれない。
けどひとまず、まだ怪しい所はない。
(白水さんが前に話してくれたことだよね……まさかここで出て来るなんて)
桐神君も、今の所は反応なし。
でも先生が言うには、『考えないようにする』だけでテレパシー対策はできてしまうらしい。実際、先生も自分の超能力のことを考えないようにすることで、私のテレパシーをかいくぐっている訳だしね。
今この瞬間も、桐神君か黒見君のどっちかが、私に聞かれている可能性を考えて心の声を偽っているはず。
もちろん、テレパシーでも拾えないくらいに特定のことだけを考えないようにするなんて、簡単にできることじゃないとも言ってた。
このまま先生が話を続けているうちに、ボロを出す可能性は高いはず。
(……二人とも、今のところはあやしくないです)
とりあえず、テレパシーで先生に報告する。
私の声を受け取った先生は、小さくうなずいて、話を続ける。
「超心会っていうのは、とっても危険な超能力組織のことだ。昨日もそいつらの一人に襲われて、窓がとんでもないことになっちゃった」
「それ、かなり危ないヤツじゃないですか……?」
眠そうな顔におどろきの色が混ざる黒見君。心の中でも同じようなことを考えていた。
「でも、どうして先生が狙われたんですか? やっぱり、超能力者だから……?」
私も知らないフリをして話に加わった。
まだこれといった手がかりが何もないから、話を進めるしかない。
「いいや、それだけじゃない。僕が、超心会に関する重大なヒミツを知っていることがバレたんだ。だから、口封じのために始末しに来たんだろう」
「それは……命を狙われるほどのヒミツなんですか?」
深刻な顔の桐神君の問いに、先生はうなずいた。
(先生のことが怪しいと思ってたけど、悪い人じゃないのか……?)
桐神君の心の声も、変わらずスパイらしきことは言ってない。
今の所は、桐神君も黒見君もうたがわしい所はない。このままだと時間だけがすぎてしまう。
(先生、プランBで行きましょう)
私はもう一度テレパシーを送った。
受け取った先生は、視線で何かをうったえているみたいだった。もしかしてと思い、先生にテレパシーをつなげる。
(プランB、本当にやるのかい?)
(……はい。ここは強引にでも、大きな一手を打つべきだと思います)
(分かった。無理だけはしないでね)
心の中でそう言うと、先生は顔を引きしめて、口を開いた。
「超心会は、きっとすぐにまた攻撃をしかけて来るはずだ。それに対抗するために、僕たちにはやらなければならないことがある」
ここからは賭けだ。できるだけ平和的に、それでいてすばやく解決しないと。
「それは、この中にいるスパイを見つけることだ」
その言葉に、みんながざわついた。
もちろん、本当に驚いているのは桐神君と黒見君だけで、私たちは演技。でも、二人のどっちかは、もっとおどろいてるはず。
なんたって、本来隠すべきスパイのことを、こうもあっさりと教えてしまったんだから。当の本人は少なからず慌てているはず。
「……それはつまり、先生の命を狙うような奴らの仲間が、俺たちの中にいるってことですか?」
「そういうことだよ黒見君。信じたくないかもしれないけど、事実だ」
「……」
「ただ、一人ひとり質問してもらちが明かないだろう。だからここは、手っ取り早くいこうか。いいかな、白水君?」
私は立ち上がった。このタイミングで私が呼ばれると思わなかったのか、桐神君も黒見君もふしぎそうに私を見ていた。
「ここからは、私がやります」
さっきまでのプランAは、テレパシーで心の声を聞いてスパイを見つける作戦。
そして、今から行うプランBは、テレパシーのもうひとつの使い方――記憶の海にもぐって、真実を見つける作戦。
「私のチカラで、昨日の記憶を調べさせてもらうよ」
私たちの考えでは、襲って来た超心会の人とスパイは、昨日の放課後に連絡を取っていた可能性が高い。先生を仕留めきれなかったことの報告とかがあるはずだからね。
つまり、昨日の放課後の記憶だけでも見ることが出来たら、スパイを特定できるってこと。
「記憶を調べるって……白水は大丈夫なのか?」
「ああ、彼女は怪しくないよ。テレパシー使いがスパイだとまずいからね、一番先に身元は調べてあるから、白水君がスパイである心配は無い」
「いや、そういう意味じゃなくて」
いつも眠そうにぼんやりとしている目つきを、今はするどくして、黒見君は身を乗り出した。
「白水はこの前、記憶を読もうとして倒れたんですよ? なのに、ここにいる四人の記憶を一気に調べるだなんて……」
「ありがとう黒見君。でも、私は大丈夫だよ」
本当は一人の記憶も読めるかどうかって所だけど、実際に見るのは恵ちゃんと恣堂君を外して二人だけだし、何よりここが私のがんばりどころ。絶対に成功させなきゃいけないんだ。
そんな決意も込めて、私は黒見君に笑いかけた。
「私はまだ、この五人でやりたいことがたくさんあるの。だから今は、目の前の問題を片付けなくちゃ。そのためなら、私はがんばれるよ」
「……そうか」
「心配してくれるのは、本当にうれしいんだけどね」
少しの間うつむいていた黒見君は、椅子を引いてガタリと立ち上がった。
「白水がそこまで覚悟してるっていうなら、それを無駄にはできないな。まずは俺の記憶から調べてくれ」
「えっ……!?」
まさか自分から言い出して来るとは思わなくて、おどろいた。
「昨日の放課後は、一度家に帰ってから墓参りに行ってた。噓がないか、その目で確認してくれ」
「その、言い出した私が言うのもなんだけど……いいの?」
「昨日のことなんて、隠すようなものでもない。それに、白水になら別に見られてもいいと思ってるし」
そんなにハッキリ言われると、うれしいような照れくさいような……。
でも、いきなり答えを知れるのなら、願ってもない話だ。黒見君か桐神君、片方の記憶を見れば、もう片方がスパイかどうかも分かるからね。
「わかった。それじゃあ、始めるよ」
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