第14話 放課後のシュウゲキ
ずっと先生の話が、頭の中でぐるぐると回り続ける。
もんもんとしたまま授業を受けていると、あっという間に放課後がやって来た。
今日も先生の能力を探る作戦は思いつかないし、そもそも私は、そんなことをしている場合なのかも分からない。
とりあえず、みんなの所に行こう。まだみんなには話せなくても、ずっと一人でいるよりは落ち着くから。
まずは
「桐神君、今日も帰っちゃうの?」
「あー、ごめん。家の用事が片付かなくてね。今日も集まれそうにないんだ」
「そっか……じゃあ、みんなにも伝えとくね」
「ありがとう。また明日」
軽く手をふって、足早にくつ箱へと向かう桐神君。
私と同じ帰宅部だけど、桐神君の場合はお家の事情もあるんだね。
廊下に出ると、2組の前に
「あれ、桐神はいないの?」
「用事があるみたいで、先に帰ったよ」
「なんだよアイツもか。せっかく部活休みだから来てやったのに、今日は二人もいねえのか」
「二人……
そう言えば、黒見君は恣堂君と同じクラスのはず。放課後だったら一緒にいるかと思ったけど、たしかに見当たらないね。
「ああ。今日はアイツ墓参りなんだとよ。妹さんの」
少し言いにくそうに、恣堂君が言った。
黒見君、妹さんいたんだ。でもお墓参りってことは、もう……。
「あんましつこく聞くことでもないと思ったから、引きとめなかったんだよ。だから今日はアイツ抜きだ」
「へえ、あんたにも人並みのデリカシーはあったのね」
「あぁん? お前を今すぐ墓の下にテレポートしてやろうか。埋める手間がはぶけるぜ?」
「こっちこそ、あんたを骨まで焼き尽くしてもいいのよ? 葬式で燃やさなくてすむわね」
「もう……すぐケンカしないでよぉ」
目と目の間にバチバチと火花が出てそうな二人を無理やり引きはなす。二人を止めてくれそうな桐神君や黒見君はいないから、今日は私が気を付けてないと……。
課題のしめ切りは月曜の放課後。今日は木曜だから、土日を抜いたら金曜と月曜の昼しかない。
あと4日で、どうにかして先生の超能力を当てないといけない。
けど正直、超心会についての話が頭からはなれない。
先生かみんなか。私はどっちをうたがえばいいんだろう……。
ぐるぐると頭の中がこんがらがっていた、その時だった。
――ガッシャアアアアアン!!
とおくの方から、窓ガラスが割れる大きな音がひびいた。それも、音のかさなりや大きさから考えるに、一枚じゃなくたくさんのガラスが一度に割れたような音だ。
「何だ今の音!?」
「上の方から聞こえたわよ!」
恣堂君と恵ちゃんが階段をかけ上るのを見て、私もあわてて後を追う。
音が聞こえたはずの三階まで上った私たちは、その光景を見て足を止めた。
三階廊下の窓ガラスが全部コナゴナに割れていて、床に散らばっていた。
そして、それ以上に目を引いたのは、ガラスだらけの廊下に立つ『二人』。
一人は、フードがついた真っ黒のコートを着た人。
もう一人は、私たちから見て黒コートの人の向こう側にいる、白衣を着た大人――咲架先生だった。
黒コートの人は私たちに気付いていないのか、私たちに背を向けたまま、右手を先生へと突き出した。
その直後、まるで見えない力をぶつけられたみたいに、先生の体がうしろに吹き飛んだ。今のは、超能力……!?
「先生っ!!」
私は思わず声をあげてしまった。
それに反応して、黒コートの人はバッとこっちをふり向いた。
ガスマスクをしていて顔は見えなかったけど、怪しい人物ってことは一目で分かる。
「大人しくしなさい! この不審者!」
恵ちゃんが、私をかばうように前に出た。パイロキネシスで手のひらから炎を生み出して、その炎を黒コートの人へ向ける。恵ちゃんは怖そうな人が相手でも、まったくひるまずにらみつけていた。
でも、相手は大人の先生を軽々とふっ飛ばした超能力者だ。刺激したらまずいんじゃ……。
「うわっ……!」
とつぜん、黒コートの人のすぐ近くで、ピンクがかった白い煙がふき出した。
煙の出どころは、廊下の隅に置いてあった消火器。超能力で穴をあけたのかも。
口を押さえながらそんな事を考えている間にも、煙の中で誰かが動いた気配がした。
煙がうすくなってどうにか前が見えるようになった頃には、黒コートの人はいなくなっていた。
「逃げた……?」
「逃げてくれたんだよ。
私の声に答えたのは、廊下の端っこまで吹き飛ばされた咲架先生だった。痛そうに首元をさすりながらも、ズレた眼鏡をかけ直しながら笑みを浮かべていた。大きな怪我はしてないみたい。
「私のおかげ……ですか?」
「あいつはきっと、君のテレパシーを恐れたんだよ。テレパシーによって、頭の中の大事なヒミツを知られたくなかったんだろう」
「テレパシーを?」
それってつまり、あの人は私の超能力を知ってるってことだよね……どうして?
「さっきのヤツ、何者なの? 超能力者よね?」
「ああ。それはまちがいない。背格好からして20代の男性。君たち以外の超能力者だ」
「もしかして……」
私たちの他にいる超能力者で、私のチカラを知っていて、なおかつ、咲架先生を襲う理由がある人。
思い当たる所が、ひとつだけある。
「……超心会」
「なんだそれ?」
当然、恣堂君と恵ちゃんは首をかしげる。けど先生は、深刻そうな顔でうなずいた。
「そう考えるのが自然だね。スパイを通して手に入れた情報をもとに、刺客を送り込んで来たわけだ」
じゃあ、超心会が危険だっていう、先生の言葉は正しかったんだ。
私は信じ切れずにいたけど、やっぱり先生は悪い人じゃなかった……。
「でも、どうして先生を襲ったんでしょうか……」
「初めから僕が狙いだったんだ。スパイをここに送り込んだのも、僕について探るためだったんだろう。そして、僕がスパイの正体に近付いたことを知って、焦った超心会はさっきの男をけしかけて来たんだ」
「スパイの、正体……それって……!」
今日の昼休み、先生は言ってた。私たち五人の中で、スパイかもしれない人は二人までしぼりこめたって。
「あの会話が聞かれてたってことですか……!?」
「だろうね。まさか盗み聞きされていただなんて、警戒が甘かったよ」
「ちょ、ちょっと待て!」
と、ここで恣堂君が待ったをかけた。
「スパイだの刺客だの、さっきから何の話をしてんだ? あのヤロウは結局何者なんだよ」
「彼は『超心会』という危険な超能力組織の人間だ。彼らのヒミツを知る僕を捕まえるために、襲って来たんだ」
「な、なんすかその映画みたいな話……」
「でも、実際こうして暴れてたワケだし、本当なんでしょうね」
ガラスまみれの廊下を見渡しながら、恵ちゃんが言う。
「けど先生。そんな危ない超能力者に狙われるようなヒミツなんて、どうして知ってるのよ。警察とかに言わなくていいの?」
「その必要はない。というか、警察はもう彼らのことを知ってるよ」
「だったら、すぐにでも捕まえればいいじゃない」
「何もない所から炎を生み出したり、はなれた場所に一瞬で移動したり、相手の心をまるっと読み取ったり……超心会には、君たちのような超能力者がたくさんいるんだ。そんな人たち相手に、ただの人間が勝てると思うかい?」
「うっ……たしかに……」
超能力がどれだけ人とかけはなれた存在なのかは、私たち自身がよく知っている。それを人に向けたら、どうなるのかも。
「だからこそ、超心会みたいな超能力組織を取りしまる組織が必要だ。警察にも対応できないような超能力事案を調査し、解決する組織。僕はその一員なんだよ」
「ええっ、先生が!?」
超心会と敵対してるとは思ってたけど、先生が警察に近しい人たちの一員だったなんて思わなかった。やっぱり、悪の超能力者がいるなら、正義の超能力者もいるんだ。
「センセーがさっきのヤツみたいな、悪い超能力者を捕まえてるってことか?」
「そうだよ。おどろいたかな?」
「見えねぇー……」
「こら恣堂君。そんなこと言われたら僕だって傷付くよ?」
むっとして眉をひそめる先生を見て、恣堂君は半笑いだった。
まあ、恣堂君の気持ちは分からなくもないよ。先生いつもニコニコしてるし、体も細いし、危険な人を捕まえてるようなイメージは湧かないもんね。
「じゃ、じゃあこころも……」
「え?」
そして恵ちゃんは、何か大事なことに気付いたみたいに、私を見ておどろいていた。
「さっきからなにか知ってそうなこころも、もしかして同じ組織の……」
「わ、私は普通の中学生だよ!?」
そんな組織があるなんて今知ったばっかりだし、先生がその一員ってことも知らなかったんだし。
そもそも今日までずっと、先生が悪い人なんじゃないかってうたがってたくらいだもん……あれ、今考えたらすごく申し訳ない気がして来た。
「超心会のことは、たまたま知っただけだし、先生ほどは詳しくないよ」
「そうよね、びっくりしたぁ」
「犯罪者と戦うとか、白水にはムリそうだしな」
「うう……否定はできない……」
要するに超心会って、さっきのみたいな危険な人の集まりでしょ? そんな人たちと正面から戦うなんて、考えるだけで怖いよ。
「君たちそう言うけどね、人は見た目じゃ判断できないものだよ?」
私たちのやりとりを見て、咲架先生は笑いながら言った。
そして、メガネの奥に見える瞳が、意味ありげに細められる。
「なにせ、超心会のスパイは君たち五人の中にいたんだから」
その言葉に、恣堂君と恵ちゃんは、ハッと息をのんだ。
前から知っていた私は二人ほどおどろいてはいないけど、誰かが悪者だって知った時の衝撃は昼に味わったばかりから、その気持ちは分かる。
「あたしたちの中に犯罪者が……もしかしなくても、あんたね恣堂!!」
「なんで二秒でオレをうたがうんだよ!? ンなわけねえだろ!」
「ふっ、冗談よ。あんたにスパイとか器用なこと出来ないでしょうし」
「何言ってもムカつくなあオイ」
「君たち仲良しだねえー」
「よくないわよ」
「よくねえよ」
二人はまたぶつかりそうになり、先生は二人の肩を掴んでなだめる。
「君たち三人のうたがいは晴れてるよ。じゃないとこんな話しないって」
先生は『二人までしぼれてる』って言ってたもんね。五人中二人があやしいってことは、三人はスパイじゃないってこと。私と恵ちゃんと恣堂君は、もうあやしまれてないんだ。
でもそれだと、残りは……。
「……じゃあ、ここにいない二人があやしいってことだな?」
「そうなるね」
私は思わず、くちびるを噛んだ。
よりにもよって、一番うたがいたくない人をうたがわなくちゃいけないなんて。
「桐神君と黒見君。そのどちらかが、犯罪者の仲間だ」
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