第4話 それぞれのチカラ
「それじゃあ、マジメな話はここまでにして」
黒板の前に立つ
「さっきやりそびれた自己紹介を改めて始めようか。今から君たちは、超能力教室の仲間だ。親睦を深めるためにも、お互いの事をよく知らないとね」
そう言いながら、先生はチョークを手に取り、黒板に大きく自分の名前を書いた。
「まずは先生である僕から。名前は咲架
チョークをペン回しのようにくるくる回しながら、ほがらかに笑う咲架先生。
教室に入って来た時からずっと笑っているからかな。最初に感じた「得体の知れなさ」は少しずつ薄れていって、今はむしろ他の先生よりも話しやすい雰囲気を感じる。
「さて、次は誰かな? せっかくだからそれぞれの超能力についても披露して欲しいな」
「うっし、そういう事ならまずはオレだな!」
大きな声で威勢よく立ち上がったのは、高校推薦の話を出されてからやる気まんまんな様子の
「オレは恣堂
力強くニヤリと笑う恣堂君。
さっぱりと短く切られた髪に、背が高くて体付きもしっかりしている。まさに、スポーツ男子といった感じ。
「そんでオレの超能力だが……まあ、少なくともこの中じゃ最強だろうな。オレの他にもいたとはおどろきだが、まあオレより上はいねえだろ」
「そこまで言うなら、もったいぶってないでさっさと見せなさいよ」
「ふっ……そこまで言うなら見せてやる。最強の超能力――『テレポート』をな!」
とつぜん、恣堂君の姿が消えた。まるでビデオをスキップしたみたいに、一瞬でいなくなってしまった。
「どうだ、驚いただろ」
「え……!?」
後ろから、恣堂君の声がする。
あわてて振り向くと、さっきまで席に座ってたはずの恣堂君が、私たちの後ろに、自身に満ちたドヤ顔で立っていた。
「一瞬ではなれた所に行ける、いわゆる瞬間移動ってヤツさ。このテレポートこそが、オレの自慢の超能力だ」
「す、すごい……」
「だろだろ? 見る目あるな、お前」
感想が声に出ていた私に、恣堂君は満足げに笑みを深くした。
テレポート……私のテレパシーとぜんぜんちがう。もしかして、超能力ってテレパシー以外にもたくさんあるの……?
「なーんだ。どれだけすごいチカラかと思ったら、地味なものね」
おどろく私をよそに、火宮さんはおおげさに肩をすくめて冷笑する。
「んだと? そう言うお前こそどうなんだよ。これでショボいチカラだったらただじゃおかねえぞ」
「心配しなくても、あたしの超能力はもっとハデでキレイなんだから」
火宮さんは立ち上がって、肩にかかっていたさらさらの長い髪を、フサァっと払った。
さっきから恣堂君となにかといがみ合っている、気の強い女の子。凛々しい表情からも、力強さが伝わって来る。
「あたしは火宮
ボッ!
火宮さんが人差し指を立てると、指先に火が灯った。またテレパシーとはちがう超能力だ。
「何だよ、ライターみたいなモンじゃねえか」
「は?」
ガッカリしたようにバカにする恣堂君の言葉に、火宮さんがカチンと来たみたい。
突き刺すような視線のまま、口は挑発的に笑っているから、余計にこわい顔になっていた。
「これでもまだ、ふざけたことが言えるかしら?」
ゴオゥッ!!!!
火宮さんの手のひらから飛び出したのは、ライターどころかガスバーナーの火すらも超える大きさの炎。天井にまで届きそうな、大きな炎のうずだった。
「うおっ!」
びっくりして、一歩後ずさる恣堂君。でも、すぐに強がるように腕を組んだ。
「へ、へぇ、やるじゃん? でもまあ、ハデならいいってもんじゃねえだろ? 実用性で言えば、遅刻しそうになった時に便利な、オレのテレポートの方が上だ」
「やだやだ、強がっちゃって。男子は料理なんてしないでしょうから、このパイロキネシスのすばらしさが分からないのね。かわいそうに」
また、二人の言い合いが始まった。仲が悪いのかと思ったけど、むしろ「ケンカするほど仲が良い」ってやつなのかも……?
それにしても火宮さん、料理するんだ。第一印象はちょっと怖かったけど、顔も整ってるし長い髪もキレイだし、キッチンに立つ姿がふしぎとすぐに想像できる。
「エプロンも似合いそう……あっ」
思わず口を挟んじゃった。けれど幸い、火宮さんは怒ってない。それどころか少しうれしそうだった。
「あんた、もしかしてあたしに興味ある? あたしのすごさを認めるっていうなら、あんたに料理ふるまってあげてもいいわよ?」
「ちょっと待てよ、ソイツはオレの味方なんだからな。オレのテレポートの方がカッケーだろ?」
「何言ってんの? あたしの方がスゴイに決まってるわ。そうよね?」
「え、えっと、その……」
左に恣堂君、右に火宮さん。二人に板ばさみにされ、私はどう答えたらいいかわからず、言葉に詰まってしまった。
ただでさえ、人と話すのは苦手なのに、どっちを選んでもどっちかが傷つく選択なんて、できないよ……。
「そのへんにしとかないか。その子、困ってるだろ」
助け船を出してくれたのは、机に突っ伏していた
「二人とも、俺の超能力と比べたら便利だしかっこいいし、今回は引き分けってことでいいんじゃないか?」
「……ま、オレのチカラが最強なのは、今さら決めるまでもない話だからな。今日はやめにしてやるよ」
「そうね。あたしが格上なのは分かり切ってるもの。格下相手にムキになるほど私も子供じゃないわ」
二人とも、自分こそが上だと思ってるのは変わらないみたいだけど、便利とかかっこいいとか言われて、気分が良さそうだった。
とにかく解放された私は、ほっとため息をついた。
「で、次は俺かな……?」
そのままの流れで、黒見君が起き上がる。本当にかなり眠いのか、椅子から立ち上がるだけでもおっくうそうにしてる。
今まではぐでーっと机にもたれていたから分かりにくかったけど、よく見たら黒見君、体も細くて顔も小さい。ふわっとした天然パーマも含めて、まるで女の子みたいな見た目の男の子だった。
「名前は黒見
「ざ、ざんりゅーしねん?」
「モノに残った記憶って意味。簡単に言えば、手に持った物に関する『過去』を見るチカラ、って感じかな」
物に残った記憶を見るチカラ……。
なんだか、『人の心を見る』っていう私のテレパシーと、似てる気がする。
「まあ、今の二人みたいに目に見えるような超能力じゃないから、説明だけになっちゃうんだけど……せっかくだし、何かやって見せようか」
そう言うと黒見君は、さっきまでもたれていた机に右手を置いて、静かに目を閉じた。きっと、超能力を使ってるんだ。
「……二時間くらい前。咲架先生が一人で机と椅子を並べてるのが見える。三つほど机を並べた辺りで、つまづいて転びそうになってるな。その時に右足のつま先を痛めたっぽい」
「そ、そんな事まで分かっちゃうんだ」
私は黒見君と咲架先生を交互に見る。私だけじゃなくみんなに注目されて、先生はうんうんとうなずいた。
「全部、黒見君の言う通りさ。今もつま先がジンジン痛む」
「ちなみに、転びそうになった拍子に左のひじを思いっきり机にぶつけて、痛そうにうずくまりながら『痛いの痛いの飛んでけー』ってやってる」
「細かすぎるね君のサイコメトリー! 先生ちょっとはずかしいよ!」
「大の大人が空き教室でひとり、子供にやるみたいなおまじないをしてる」
「黒見君!? 言い方にトゲあるよね!?」
大真面目な顔でからかう黒見君に、先生は少しはずかしそうに顔を赤くしていた。
その様子がおかしくて、ついクスリと笑いがこぼれた。
「コホン。もういいよ黒見君。きっとみんなにも、君のサイコメトリーは十分伝わった。次にいこう次に」
咲架先生は大きくせき払いをして、無理やり話を進める。その視線は、まだ自己紹介をしてない私と
「僕は最後でいいよ。お先どうぞ」
「あ、ありがとう」
いちばん最後はいちばん最初と同じくらい緊張してしまう。桐神君は、そんな私の考えに気付いたみたいに、先をゆずってくれた。
「えっと、
緊張しすぎてなぜか敬語になってしまった。それに、チカラの事を自分から話すなんて初めてで、思った以上に心臓がバクバクしてる。
「テレパシーって、心の声を聞いたり、送ったりするやつ?」
「う、うん。みんなが知ってるテレパシーと、同じだと思う」
桐神君の問いに、こくりとうなずく。みんなの超能力を聞いた後だと、私のテレパシーはいちばん想像しやすいかもしれない。
「へー、そんなチカラもあんのか。まあ、やっぱオレよりスゲー超能力はいねえよな」
「あんた、そればっかりね……」
「それよか、知らないあいだに頭の中を見られないように気を付けないとな。テレパシーってそういうチカラなんだろ?」
「……っ!」
冗談のつもりで言ったんだろう恣堂君の言葉に、私は息が詰まった。
一年くらい前。テレパシーが周りにバレてしまった時の事を、思い出してしまったから。
考えてることが全部知られる。人のヒミツを勝手に盗み見る、気持ち悪いチカラ。
周りにいたみんなが私を気味悪がって、いっせいに非難を浴びせられた。私を見るみんなの目がこわい。容赦なく心を刺してくるような、言葉のひとつひとつがこわい。
世の中の全てが敵に見えたあの頃の出来事が、記憶の奥底から顔を出して来たみたいだった。
肩も足もふるえて、とてもくらくらする。息がしづらくなっているのが、自分でも分かる。
「そんな言い方はないだろ、恣堂」
真っ暗になりかけていた私の意識を現実まで引き戻したのは、桐神君の力強い声だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます