第3話 フシギな超能力教室
――超能力。
その言葉を聞いて、私の心がどくんと大きく跳ねた。
「超能力教室……? それはどういう意味ですか」
そうたずねたのは、さっきまで寝ていた男の子だった。
「まるで先生が俺たちに、超能力について教えるみたいな言い方ですけど」
「まさにその通りさ、
「それって、つまり……」
「ああ。ここにいる五人、全員が超能力者だ」
ぜ、全員!?
考えることはみんな同じみたいで、ケンカしそうになっていた二人や、黒見君と呼ばれていた眠そうな男の子、それから
「せ、先生。みんなが超能力者って、ホントなんですか……?」
「本当だよ。ここにいるみんなも、超能力が使えるんだ」
びっくりしすぎて、うまく声が出なかった。
たしかに今まの人生で、テレパシーのことを周りに知られたことはある。もちろん家族のみんなも知ってる。でも、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも、ヒミツは守るって言ってくれたし、簡単には分からないはず。
だからこそ、「超能力が使えるかもしれない」っていう疑いじゃなく、「超能力が使える」って知られてることを断言されたのが、ものすごくびっくりだった。
「き、桐神君……桐神君も、チカラを持ってるの……?」
それに、私以外にも超能力者がいるってことにも。
桐神君はあごに手を当てて、何かを考えるようにむずかしい顔をしていた。
「……ああ、持ってるよ」
けど、すぐに顔を上げて、私に笑いかけた。
「まさか
私以外にもいたんだ、超能力者……。
でもそうだよね。私だけが特別だなんて、おかしいと思ってたんだ。私みたいにヒミツにしてるだけで、世界中にたくさんいてもおかしくないもん。
「マジかよ……このチカラを持ってるヤツが、オレ以外にもいたのか」
「それも同じ学校、同じ学年に五人も……あたしは未だに信じられないけど」
「まあ、自分以外にもいるとは思ってたよ。こんなに一気に会うとは、思わなかったけど」
他の三人も、大なり小なり衝撃を受けてるみたい。
「他にもいると知ってた」っていう黒見君の言葉は気になったけど、それについて聞くより先に、咲架先生が口を開いた。
「みんなビックリしてると思うけど、ひとまずは理解してくれ。さっきも言った通り、僕は超能力について教えるための特別授業を開こうと思って、君たちを呼んだのさ。今日はひとまず、『超能力教室』についての説明をしようと思う。だけどその前に……」
先生は私たちをぐるりと見渡した。
「まずは、みんなで自己紹介をしようか。これから一緒に授業を受ける仲だ。お互いの事をよく知って、仲良くなろうじゃないか」
「仲良く、ねぇ……」
不満そうにつぶやくのは、ケンカを始めそうになっていた男の子。彼は椅子にもたれながら、あからさまに嫌そうな顔をしていた。
「そもそもオレ、放課後は部活に行くんで、特別授業とかしてるヒマ無いっすよ」
「放課後を毎日奪うつもりは無いよ? 授業があるのは僕が呼び出した時だけ。それ以外の日は、部活にいくも良し、みんなと自主練するのも良しだ」
「いや、それでもですよ。何でオレらがそんなメンドクサイ事を……」
「ちなみに拒否権はないよ」
さらに文句を言おうとした所で、先生が言葉をかぶせた。四角いふちのメガネが、キラリとあやしく光る。
「僕が出す『超能力教室』の試験に落ちたら、ここにいるみんな、退学してもらう」
たいがく……タイガク……?
えっ!? 退学って、学校をやめさせられるって事!?
「い、意味わかんないだろそれは!」
「そうよ! そんなのむちゃくちゃよ! 勝手に集められて、学校をやめろですって!?」
さっきまでバチバチとぶつかり合っていた二人が、今度は息ピッタリに叫ぶ。
「まあまあ、落ち着いて。今すぐやめろだなんて言ってないし、試験は年度末。つまり、ほぼ一年後だ。対策する時間はたっぷりある」
二人をなだめた咲架先生は、ここでニコリと笑みを浮かべた。
「それにだね。なにもイジワルするために教室を開くわけじゃないんだよ。試験に合格すれば、頑張ったぶんだけごほうびをあげるよ」
「ごほうびって、何ですか……?」
気になる言い方をする先生に、私は聞いてみた。
表彰してくれる、もしくは成績に色を付けてくれる、とかかな?
「例えばそうだね……みんなで沖縄旅行とか」
「沖縄!? 行きたい!」
真っ先に食いついたのは、さっきまで不満そうにしていた女の子。さっきまでするどかった目も、キラキラ輝いていた。
「
「なによ、先生良い人ね! 見直したわ!」
火宮さんっていうらしい女の子は、謎に上から目線のまま、上機嫌に笑っていた。
「……でも沖縄って、修学旅行で行けるんじゃないの?」
「この学校の修学旅行は、北海道と沖縄を交互に行ってるんだよ。僕たちが行く年は、北海道らしい」
ぼそっとつぶやいた私に、桐神君が説明してくれた。
なるほど。先生の言葉が本当なら、行けないはずの沖縄に行けるのはうれしいよね。火宮さんがよろこぶのも分かる気がする。
「へっ、オレは沖縄なんて別に……」
「まあ、
「マジ!? 来星行けんの!?」
「ああ。君の学力じゃ諦めるしかない名門校だけど、試験に合格すれば僕が推薦しよう」
来星高校って確か、ここら辺で一番サッカーが強い高校だったよね。お兄ちゃんが話してるのをよく聞く。
「安心してくれ。こう見えて僕は、この中学で顔がきくんだ。君のことを『サッカー部のエース』だと校長先生に頼み込む事だって出来るぞ」
「よっしゃあ、そういう事なら話は別だ! ヤル気出てきたぜ!」
恣堂君と呼ばれた男の子は、さっきまでとは正反対に、やる気に満ちた顔をしていた。
さりげなく学力の事をバカにされたの、気付いてないね……。
「まあそういう事だから、試験に向けて頑張ってくれたまえ。僕が教えた事をきちんと勉強すれば落ちないはずだから、大丈夫だ。さあ、他に質問や不満はあるかな?」
「不満なんてないわ!」
「なんでもどんと来いだぜ!」
不満をこぼしていた火宮さんと恣堂君が、見事に手のひらを返した所で、先生はもう一度私たちへ視線を向けた。
「あ、あの、先生」
聞こうか迷っていた事がひとつある。どうしようか悩んだけれど、勇気を出して手を上げた。
メガネの奥にある先生の目が私をとらえ、思わず拳をきゅっと握る。
「質問しても、いいですか」
「どうぞ、白水君」
「その……どうして、超能力の授業をするんですか?」
先生の口から『超能力教室』の話が出た時から、少し気になっていた。
何のチカラも持たない人が超能力を手に入れるためにやる授業なら、まだ分かる。そんな事ができるのかは知らないけど。
でも、先生が言うには、ここに集まった私たちはみんな、もうチカラを持っている。
「私、別にこのチカラをもっと強くしたいとか、思ってないんですけど……」
「何よあんた、不満あるわけ? 沖縄行きたくないの?」
「そうだぞ、好きな高校に行かせてくれるんだぞ」
「い、いやそんな、不満とかじゃない、けど……」
火宮さんと恣堂君、二人とも目力が強いから、二人して見られるとちょっと怖い……本人に強くにらんでいるつもりは無いんだろうけど。
「大丈夫だよ、白水君の疑問も当然のことだ」
先生はずっと笑みを浮かべたまま、優しくうなずいて見せた。
「僕が君たちに超能力の授業を開くのは、チカラを『強くする』ためじゃない。その力を『正しく』使ってほしいからさ」
「正しく……?」
「たぶんだけど、君たちのチカラはまだ完全じゃない。中学生と言えば、まだまだ成長期。君たちの成長に合わせて、君たちの超能力もさらに強くなることだろう」
席に座る私たちに語りかける咲架先生の声が、少し低くなった。
「何もせずに放っておけば、いずれチカラが暴走してしまうかもしれない。言うことを効かない超能力なんて、台風や地震のような災害と一緒さ。君たちの持つ超能力というチカラは、便利なモノでもあり、危険なモノでもあるんだ」
さっきまでとは打って変わって真剣な様子に、私たちはだまって聞き入っていた。
「チカラを正しく使うためには、きちんと学ばないといけない。でも、超能力のことなんて普通に教えてくれるものじゃないだろう? だから僕が教えるんだ。これまでいろいろな超能力者と会って来た、この僕がね」
超能力を強くするんじゃなくて、正しく使えるようになるための勉強。それなら、少し興味あるかも。
私がこまめにテレパシーを使わないと気分が悪くなっちゃうのも、私のテレパシーが成長途中だからかもしれないし。
「それに、これは大きな声では言えないヒミツなんだけどね、世の中には超能力を悪用する人も多いんだ」
先生は口の前で人差し指を立てて、少し声を押さえた。
「君たちがそんな犯罪に関わってしまわないようにきちんと教えるためというもの、超能力教室の目的のひとつなんだよ」
超能力を悪用か……たしかに、私のテレパシーなら、いろんな会社や偉い人の心を読んで、どんな大事な情報も盗めてしまう。
もちろん、私はそんな事したくない。でも、それをする人もいるってことなのかな。
「いやな話だね……」
「僕たちも、気を付けないとね」
先生の話を聞いている間、桐神君はずっと何かを考えこんでいるみたいだった。
超能力を悪用する人がいる、って話を聞いていた時なんかは、少しこわい顔で先生のことを見てた気がするけど……私の気のせいだよね。
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