第125話 補給基地
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探索者ギルドに戻り装備と荷物を整えたニャイとノルマル、ミトン、ジェイジェイは翌朝早く駐屯地にそこそこ近い場所から王国兵の目を盗んで王国を出た。
『同期集団』は、もちろん自分たちの装備を身につけていたが、ニャイもギルドの制服ではなく皮革の鎧に身を包んでいた。その上に旅行用のフード付き外套だ。
王国とアルティア神聖国の境界には、わかりやすい『
王国とアルティア神聖国の間に広がる草木の生えていない不毛地帯がおおよその国境だ。
実りのない土地であるため王国もアルティア神聖国も自身の領土だと主張をしていない。
両国の間に帯のように伸びた不毛な土地は人間よりも、むしろオークの領土だ。
東西に伸びる不毛地帯を東に進めば、やがて『
反対に西に進むと砂漠のような不毛地帯は、ごつごつとした岩山に変化して人間に追いやられたオークが生息する本拠地となる。
探索者ギルドでは、この岩山から不毛地帯に出たオークが東に向かい『
王国を出たニャイたちは不毛地帯に入ると西へ向かった。すぐに駐屯地からアルティア神聖国の国都に向かって南北に伸びる荷馬車隊に踏まれてできた轍にぶつかった。
ニャイたちは轍に沿って北へ進み不毛地帯を抜けアルティア神聖国の領内に入った。
アルティア神聖国内に入ると轍以外の場所は人の背丈ほどもある藪になる。
丈の高い草が生い茂り、ところどころに樹木が生えている。藪が生えている場所は元々は畑だ。管理されず耕作放棄された畑に草木が伸びて藪になっていた。
ニャイたちは前後に荷馬車や王国兵の姿が見えないか確認しながら、徒歩でこそこそと轍が道になっている場所を何日もかけて歩いた。
もし、轍を歩くのではなく藪を体で押し退けて進まないといけないのだとしたら重労働だ。ほとんど進捗は見込めなかっただろう。
万が一、自分たち以外の人の姿を発見した場合は素早く左右に生えている草の中に隠れてやり過ごす。寝泊りも藪の中だ。
幸いノルマルが驚くほど目が良かった。
前後を見渡し左右を見渡し誰かに発見されるより早く相手を発見した。お陰で余裕を持って隠れることができている。
一日に何度か荷馬車を連ねた輜重隊が駐屯地から国都へ向かって進んでいく。護衛のための王国兵の部隊が同行していた。荷馬車の数は日に日に増えている。
逆に一日に何度か荷が空になった馬車が戻って来た。
どちらを見つけてもニャイたちは素早く藪の中に身を隠す。
アルティア神聖国内では荷物を運ぶ部隊とは別に
駐屯地から国都へ向かう荷馬車隊は藪を蹴散らして一直線に国都へ向かうのではなく進行方向付近にある小さな村と村を結ぶように進んでいた。どの村も廃村だ。
村には複数の井戸があり馬にも人にも水は必須だ。
王国の部隊は各村を補給基地に改修していた。
元々畑であった場所に馬車で乗り入れると比較的土が柔らかいため車輪が土にめり込んで動けなくなってしまう。
大型の馬車となると特に顕著だ。
馬車で移動するためには元々道があった地面が固い場所を進むほうが効率的だった。
運搬部隊より先発して進んでいる王国の兵たちが、以前道であった場所の痕跡を見つけ草を刈ったり凸凹を均したりして道づくりに尽力していた。
道なので元々村と村を結ぶように整備されているし国都にも繋がっている。
誰にも使われずに廃道と化していた道を復旧させて廃村を繋いでいく。
食料ほかを運んで実際に国都へ着く運搬部隊より各地で道の補修をしている部隊や廃村を補給基地に改修している部隊をあわせたほうが総人数は多かった。
当然、彼らに食べさせるための食料も必要だ。駐屯地にうず高く積まれていた食料の多くは国都に運ばれる以前に王国兵の活動で消費されてしまう。
現時点では道が不備なため国都まで大型の馬車では到達できなかった。
かろうじて軽い小型の馬車のみが何とか辿り着ける状況だ。運搬効率が悪い。
駐屯地を大型の馬車で出発しても次第に道が通行できなくなっていくため、途中で中型の馬車、さらに小型の馬車へ荷物を積み替えて運ぶことになる。運びきれない物資は一時的に途中の補給基地で降ろされてストックされる。
王国側からは王国兵が、国都側からは『
国都側の状況はニャイたちには知る由もなかったが、王国側の輸送状況として王国軍が廃村を補給基地に改修して物資の集積を行いつつ廃村と廃村を結ぶ道を補修しているのだと、ニャイたちにもわかってきた
補給基地では荷馬車を引く馬の交代用に沢山の馬が柵囲いの中に放されている姿が通常だ。馬の替えは多ければ多いほど輸送が捗る。
歩いている道の遥か前方にそんな補給基地と化した村を見つけて、ニャイたちの先頭を歩いていたノルマルが足を止めた。他の者たちもノルマルの動きに従った。
これまでニャイたちは補給基地とされた村にはもちろん入らず、村に近づくと藪の中に入って村を遠巻きに迂回して村を十分に通りすぎた先で、再び、道に出るように行動していた。
とはいえ、村には入らないものの遠目の利くノルマルが村の様子だけは確認している。
どの村も兵士たちによる煮炊きの煙は上がっていたが、他の家からは一切煙が上がってはいなかった。
家々も屋根に穴が開いていたり壁が崩れたりしている建物があるばかりか、各家の庭や村の中の道、果ては屋根の上まで丈の高い草で覆い尽くされていた。理由は分からないが廃村であるのは明らかだ。元々の住人はとっくに誰もいないのだろう。
「また廃村だぞ」
前方遠くの村を見つめながらノルマルが声を上げた。
ライネットが言っていたような住民に物を売ってもらえないという心配どころではなかった。行く先々で廃村ばかりだ。そもそも住んでいるアルティア神聖国人を見かけない。
「ん?」
ただし、今回の廃村の場合はこれまでと違うようだ。
ノルマルが何かを発見した。
「どうしたの?」とニャイが問う。
王国を出発してからニャイは一言も愚痴も不満も言わなかった。
野営に慣れているノルマルたちであってもつらい毎日の野宿をニャイは当たり前のようにこなしていた。ギルドで少し探索に同行したり実地研修を受けた程度の身では耐えられるつらさではないはずだ。
そう、ノルマルが指摘すると、ニャイは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「うちが貧乏だったからね。汚かったり食べられなかったり屋根がない暮らしは染みついてるの」
でも、バッシュさんには言わないでよ、と付け加える。意外と苦労人だったようだ。
ノルマルは前方に小さく見えるだけの廃村を、目を
ニャイにもミトンにもジェイジェイにも詳細は何も見えない。三人の目には遠くに村があると分かる程度だ。
ノルマルが見ている廃村はこれまでに補給基地と化していた他の村と同じように廃村内の手近な木材を流用して、馬を放すための木柵で囲んだ放牧場が仮拵えで作られていた。
ただし、これまでとは決定的に違う部分がある。
ノルマルが違いを口にした。
「変だ。馬が一頭も見当たらない」
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