第122話 同胞
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部屋を出るライネットとニャイを見送ったハーマインと諜報士官は頭を抱えた。
実は城での王との会議後に二人は密かに王に呼ばれて仰せつかっていた。
「あ奴は戦友だから
『あ奴』とは、もちろん斥候だ。『そ奴』はバッシュ。
ハーマインと諜報士官は王に平伏した。
王から直々に命令されたのだ。「
今やバッシュの国都での活動は国王案件だ。
しばらくアルティア神聖国の国都に腰を据えてもらう必要がある。
王国への帰還などとんでもない。もちろん面会もだ。
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少し時間を遡り、ノルマルたち。
ライネットとニャイと会議用の棟の前で別れた後、控え場所に案内される途中で、ノルマルは案内の兵士に話しかけた。
「せっかくだから、ただ待ってるより見学させてもらえないかな?」
「差し障りのない場所だけだぞ」
兵士は、あっさりと了承した。
駐屯地内の差し障りのない場所を歩きながら話を続ける。
「あんた、見た顔だよな?」
ノルマルは兵士の顔に覚えがあった、
「きっと鼠狩り研修に出てたからだろう」
ノルマルたち『同期集団』は、昨年、軍からの依頼を受けて駐屯地周辺の塹壕内に大量に棲みついたネズミ型魔物の効率的な駆除方法を指導するため駐屯地に講師として派遣された経験があった。どうやら兵士は、その時の受講者の一人であったらしい。
「その後、鼠はどうだ?」
「減らせたのは少しだけだな。最近は
小口とは
「ああ。小口のほうが悪環境に適応している。競合した場所は大体小口に入れ替わるな」
「だが、今度こそ根絶できるだろう。期待してるぜ」
「何だ、期待って?」
「副団長が探索者ギルドに食用の魔物狩りを依頼すると言っていた。色を付けて買い上げるつもりらしい。
「食えるけどうまくはねぇぞ。腹の足しにはなる、ぐらいだ。あんたら、魔物肉の食事で戦争させられんの? ヤだなあ。引退したら軍人になるかと思ったけど、やっぱなしだな。あんたも鼠肉が最後の晩餐じゃヤだろ?」
「そりゃ、嫌だが食うのは俺たちじゃない。占領軍として焼け出されたアルティア国民への炊き出しに使うらしい」
「占領って、戦争は終わったのか?」
ノルマルは驚きで大きな声を上げた。ミトンとジェイジェイも同様に驚いた顔つきだ。
逆に兵士は声を潜めた。
「流石にまだだ。内緒だぜ。今は国都を包囲して降伏を勧告しているところらしい。相手が音を上げるまでの持久戦になるからキリがなく食料が必要なんだそうだ」
「それでか。随分沢山の食料を運ぶんだと思って見てた。あれ全部現地に運ぶんだろ?」
ノルマルは駐屯地内外で荷馬車に積み込まれている食料や物資の山を指し示した。
「腹が減っては
「それで魔物肉までかき集めるわけか。でもまあ、この先、戦闘がなさそうなら良かったじゃないか。生きて帰れるな」
「もともと今回の王国軍の役割は
ノルマルは、おやっ、と疑問の表情を浮かべた。
「その言い方だと、どこか王国じゃない別の軍が攻撃部隊か? どこの国だ?」
兵士は、しまった、という顔をした。
「もしかして『
「何でっ」と、兵士は口を滑らせた。
ノルマルは、にやりとした。
「俺って視力がいいんだけどさ。あそこの人、腕に『
ノルマルは駐屯地の外で大型の馬車の荷台に荷物が積み込まれていく様子を近くで見ている人々の一団を指さした。
ノルマルたちから百メートルは軽く離れている。腕に腕章をつけていたとしても点のような大きさだ。
だが、ノルマルの言葉は事実だった。
指差されたのは右腕に『
「まじかよ。なんであんな遠くが見えるんだ!」
兵士は、ぎょっとした顔で驚きの声を上げた。
「『
何で王国の味方に?」
兵士はあからさまに口を噤んで、ぶすっとした顔をした。
見られたからといって何かがわかるような距離ではないつもりだった。大失態だ。
「別にあんたから聞いたなんて誰にも言わねぇよ。ただ興味があるだけだ。俺たちだって魔物肉を狩ってくる同胞なんだぜ」
兵士は諦めたように口を開いた。
「詳しくは知らんが傭兵だからな。高い金を払ったほうの味方に付くんだろ」
「じゃあ国都を包囲してるのって?」
「『
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