第83話 救世主
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アルティア神聖国人であるならばアルティア教の信者でないことはありえない。
要するに、ぼくは
「ぼくと馬を引いている二人は隣の王国出身の探索者です」
本当は探索者なのは、ぼくだけだけれど。
ぼくの言葉にリーダー格は目を丸くしたが、ぼくが想像していたほどには驚いた顔をしなかった。
「珍しいな。大聖堂目当ての観光客が来ることはあっても外国からの探索者なんかしばらく見ていない。もっとも観光客もしばらく見ていないが。外国人だから獣人に抵抗がないんだな」
やっぱりだ。リーダー格はアルティア神聖国と、ぼくが住んでいる王国が現在戦争中だなんて思ってもいない。戦争中に敵国の人間が目の前に現れたらもっと驚くに違いない。
そこそこ顔役っぽいリーダー格が知らないのだから、この場にいる他の流民たちだって恐らく知らないだろう。
ぼくたちがアルティア神聖国人でもないのに国都に近づくとまずいと思っていたのは、まったくの杞憂だった。そんな段階はとうに過ぎていた。アルティア神聖国には近づく敵国の人間を追い払う力なんか残っていないのだ。
流民たちにとって一番身近な戦いはアルティア神聖国と『
リーダー格が自分で言っていたとおり、なぜか突然『
自分たちを守るはずのアルティア兵が簡単に負けてしまったことについて流民たちはどう思っているのだろう?
その後、『
「で、どうだ?」
「え?」
「食い物だよ。どれくらいなら出せる?」
アルティア神聖国内で生きている人たちにとっては軍の勝敗より今日を生きる食べ物のほうが文字通りの意味で死活問題だ。
ぼくは振り向いて斥候の顔を見た。
斥候は二人とも、もちろんぼくとリーダー格の会話を聞いていた。
二人とも、こくりと頷く。
ぼくたちの話は男家族も聞いていた。頷く斥候の動きも見ていた。
我々にも分けていただくようお願いします、と男は口にした。
廃村の男は、もともとぼくたちがアルティア神聖国人ではないと察していたようだけれど、そこには触れずに、ぼくたちをここまで案内してきてくれた。ぼくたちも
国都に来れば炊き出しにありつけると期待していたのに、もう半年も炊き出しが行われていないと聞いて男家族は意気消沈していた。
その上、ここで手持ちの食料もなくぼくたちと別れたら村にいた時以上に食べ物に窮してしまうだろう。国都には村ほど虫はいないのに虫捕りのライバルが多すぎる。
「少しならば」
ぼくはリーダー格と男に答えた。
その後、リーダー格は間違いなく、ぼくたちを男家族の村の住人のもとへと連れて行ってくれた。リーダー格は国都周辺への流民の移住状況を把握しているようだ。
ぼくたちはリーダー格と今後も連絡を取れるようにと相手が住んでいる場所を教わった。
男家族の廃村の人たちは彼らが村を離れた際より半数近い人数に減っているそうだ。
ぼくが見た限りでは男家族以上に痩せこけていた。国都で、ほとんど食べられていないのではないだろうか?
かといって、今さら村に戻ったところで種籾や種芋がないので農業もできない。種籾や種芋があったら、その前に腹の足しにしてしまう。植物の成長も収穫も待っていられない。
足となる馬もいないし戻るための体力もなさそうだ。
男家族を国都へ連れてきたのは間違いだったかも知れない。
とはいえ、あのまま村に残っていたところで冬は越せなかっただろう。
国都では以前はあった炊き出しが完全になくなっていたため何もかも手詰まりの状況だ。
流民たちには未来への展望が何もなかった。
国都の内側はどうなのだろうか?
中の人たちはちゃんと食事をとれているのか? 少なくともここ一か月近くは門が開いてはいないはずだ。
アルティア神聖国の国王は自分の足元に飢えて食べられない国民が大勢いる現状をどう考えているのだろう? このままだとアルティア神聖国自体が詰んでいる。
男家族の村の人たちを訪ねたぼくたちは、まるで救世主扱いだった。
馬を見て、どんどんと人が集まってくる。
なし崩し的に潰されて馬鍋にされてしまいそうだ。
国王の側の考えもわからないが、そもそも自分たちを食べさせてくれない国に対して流民である彼らはどう思っているのだろうか?
少なくとも教会が彼らに教えているように獣人のせいでアルティア神聖国内の食料がなくなったわけではないだろうことを、ぼくは知っている。
やはり教会が信じられない。
ぼくが思う国の最低限の仕事は物理的に国民を食べられるようにすることだ。
祈ることじゃない。
ならば、マリアの落としどころはどこなのだろうか?
『
ぼくたちは馬を引いて逃げるように国都の西門前へ向かった。
馬を安全に繋いでおける場所として思い付くのは『
さっき知り合いになった『
もちろん、マリアとも。
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