第75話 第一村人
78
廃村内に人がいる気配はない。
ぼくたちは適当な建物を覗いては屋内を物色した。
家具などの大きな荷物や生活していく上であまり必要性がない小物類が残されている。
金銭はなさそうだ。
食べ物も残されていた形跡はない。
ベッドに白骨が横たわっているとか、そのような病的な様子もない。
病気か何かで村中の人たちが死に絶えたのではなく住人は必要最小限の物を持ってどこか別の場所へ引っ越したのではないかと思われた。
どの家も似たような状態だ。斥候二人の見解も村を捨てて村ぐるみで別の場所へ引っ越したのだろうというものだった。
ぼくたちは馬を引いたまま村内を通過して村の反対側へ出た。
村全体が板柵で囲まれていたようだが既に朽ち果てていたため簡単に超えられた。
地図では村の反対側にも畑が広がっているはずだったが、やはり耕作放棄地となっており丈の高い草と雑木の類で覆われていた。
ひとまず地図に描かれている次に近い村を目指すことにする。
村一つ引っ越さなければならなかった理由が何かわからないが原因が広域的な何かであるならば近隣町村にも何らかの影響があって不思議ではない。それこそ別の町や村も引っ越して廃村になっている可能性も考えられた。
本来、町や村には近づかないつもりであったが偵察ぐらいはしておいたほうがいいだろうという斥候二人の判断だ。畑で耕作が行われているか否かならばすぐにわかる。
どこまでの畑で耕作が放棄されていて、どこから耕作が開始されるかを見届けるだけでも影響が及んでいる範囲がわかるはずだ。
耕作が行われているならば、そこには人が住んでいるということだ。
もし人がいたならば、ぼくたちは近づかなければいいだけだ、
少なくとも今ぼくたちがいる場所では、どこが元畑でどこが元道であったかすら草が伸びてしまっていて見分けがほぼつかない。
これまでのところ草が踏み倒された跡は確認できなかったため近い期間では誰も村に近づいたり出入りしたりはしていないのだろう。獣道すら確認できなかった。植物こそ生えていたが、さながら緑の荒野といった
結論から言うと次の村も廃村だった。
その次も廃村。
どの村も周辺の畑は丈の高い草に覆われた耕作放棄地と化していた。
村内も草に覆われている。
誰かに何事が起きたのか訊いてみたかったけれども相手が誰もいない。
村を捨てた人たちは、そもそもどこへ行ったのだろうか?
斥候二人の言葉では近年、王国側にアルティア神聖国からまとまった数の難民が流れてきたという事実はないので国都方面へ移動したと考えるのが妥当だろう。要するにぼくたちの向かう先の方向だ。
こうなるとぼくとしては人から見つからないように隠れて進むのではなく逆に人を見つけて何が起きているのか事情を聞きたくなってきた。斥候二人も同じ考えに至ったようだ。
四つ目の村。
そろそろ日が暮れる。時間的にも今日の旅はここで終わりだ。
ぼくたちは村内の比較的傷んでなさそうな建物を選んで中に入った。寝ている間に崩れ落ちてこられてはたまらない。
もともとの予定ではアルティア神聖国内の移動中は常に野宿をするつもりだったけれども人がいない使える建物があるのであれば利用するにやぶさかではない。できれば屋根の下で眠りたいのは言うまでもなかった。
荷物をすべて馬から降ろして建物の中に入れ馬は玄関の外に生えていた木に繋いだ。
夕食を食べ終わる頃には夜が暮れていた。
夜明けとともに移動を開始するつもりでさっさと就寝。
深夜。
建物の外に気配を感じて、ぼくは目を覚ました。
室内は真っ暗闇だが人の
ぼくの隣で寝ていたはずの斥候の一人がいなくなっていた。
もう一人は目を覚まして身を起こし外の気配を探っているようだった。
ぼくは自分の脇に置いておいた剣に手を伸ばして身を起こした。
「静かに」と斥候は囁いた。
ぼくも外の気配を探ろうと意識を集中する。
気配は馬がいる玄関の外だった。
もちろん、ぼくたちは馬の気配を問題視しているわけじゃない。
外の木に繋がれているはずの馬に騒がしい様子はなかった。
ぶるる、と馬が苛立ったような声を軽くあげた。
斥候が立ち上がり玄関の扉を開けて外へ出た。
ぼくも後に続いた。
月明かりで外は思ったよりも明るかった。
辺りは薄青く照らされていた。
馬二頭は無事。
室内から姿を消していた斥候が剣を抜き馬に近づこうとしていた男の首筋に背後から刃を当てていた。寝ていた建物をこっそり裏口から外に出ていたのだ。
刃を突き付けられた男の手には木から解いた馬の手綱が握られている。
男が馬を盗もうとしていたのは明らかだった。
ぼくたちは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます