第67話 絶叫
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戻って来た士官と斥候二人の後に続いて『同期集団』が歩いて来た。
ノルマル、ジェイジェイ、ミトンの三人だ。本来は、ぼくも含めて『同期集団』。
多分、ノルマルたちは今まで馬車の中で待たされていたのだろう。
作戦遂行中に部外者に不用意に動き回られては困るために違いない。戦場だもの。
ノルマルたちは、いつもの探索に出かける時の装備一式を身に着けていた。
その後ろに彼らを護衛する様に何人かの兵士がついてきていた。
探索者とはいえ戦場に連れてきた素人に何かあったら兵団の責任問題だ。そういう意味では、ぼくも素人なんだけれど。
ぼくはノルマルと目が合った。
よお、と、声には出さずにノルマルの口が動いた。
しばらく会っていなかった友人に久し振りに会った時のような何気ない自然さだ。
パーティーが依頼で町を不在にしている間に探索者ギルドに勝手に脱隊届を提出した人間に対する態度ではない。違和感なさ過ぎて、ぼくはちょっと泣きそうになった。
ぼくは、ジェイジェイ、ミトンとも目を合わせた。
二人ともノルマル同様に自然体だった。
さすがに駆け寄るとか駆け寄られるとか、そういう旧交の温め方を今はできない。
ノルマルたちもそれがわかっているから声も出さないし駆け寄っても来なかった。
ノルマルとジェイジェイが一歩ずつ、それぞれ左右に別れた。
二人よりも背が低かったから見落としていたけれども『同期集団』と背後にいる兵士の間にもう一人小柄な人物が歩いていて開いた隙間から前に出てきた。
旅行用のフード付き外套を羽織っている。
フードを被っているので顔は見えない。
けれども、外套で覆いきれていない下半身は探索者ギルドの制服だった。女性用だ。
「うそ」
ぼくの口から思わず声が漏れた。
その人が頭の後ろ側にフードを落とした。
赤茶、白、黒の三毛模様の
ニャイは、ぼくの顔を見てにっこりとした。
でも、どう見てもニャイの目は潤んでいた。
ノルマルとジェイジェイとミトンがニヤニヤとした顔で、ぼくを見ていた。
こいつら、ぼくを驚かせようとしてニャイをわざと隠していたな!
ノルマルたちがこの場に現れた理由は何となくわかる。
ぼくが帰ってきたという連絡が駐屯地から探索者ギルドに行ったのだろう。
元同じパーティーメンバーのよしみで迎えに来てくれたのに違いない。
じゃあ、ニャイは?
ギルドの受付嬢にとって担当している探索者を
ギルドに
だとしたら仕事じゃなくて
ルンさん、これって脈ありってことでいいんですよね?
ぼくは、以前ルンからニャイに対して『脈しかない』と言われていたことを思い出した。ヘタレ呼ばわりされた覚えもある。
「そんなん、脈しかないじゃねぇか。何やってんだ、ヘタレか!」
「そんなこと言われても」
ルンと交わした会話が鮮やかに脳裏に甦った。
わかってるさ。今度会ったら食事に誘うって決めてたんだ。
でも、さすがに今この瞬間じゃないだろう。
ぼくは近づいてくるニャイの顔からまったく目を離せなくなった。
げふん、と士官がわざとらしく咳をした。
いつの間にか、みんながぼくの前に辿り着いて、ぼくを見ていた。
ニャイがいて、『同期集団』がいて、士官がいて、二人の斥候がいて、兵士たちがいる。
ぼくは自分の頬が赤く熱を持ったのを感じた。
士官が口を開いた。
「『同期集団』の皆さんに確認するが彼は君たちと同じパーティーのバッシュくんで間違いないかな?」
突然、ノルマルたちに、ぼくがぼくなのか確認をした。どういう質問だ?
「間違いない」
代表して『同期集団』のリーダーであるノルマルが答えた。
「探索者ギルドとしても同じ認識かな? 彼はあなたが担当をしていたFランク探索者のバッシュくん?」
「そのとおりです」
ニャイが答えて、ぼくの顔を見上げて笑った。
「お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
ぼくはニャイとにっこり笑い合った。ニャイは嬉しそうだ。やっぱり可愛い。
「そうか」
士官は残念そうな顔で沈んだ声を出した。
「君が王国の探索者に成りすましたまったくの別人、というのなら話は分かりやすかったのだが」
士官は、ぼくを見た。
「
うわ、ぼく思いきりバレてた。
『
「君をクロだと判断したわけではない。君を疑わずにすむ合理的な説明がほしいだけなんだ。念のため以前見せてもらった
「てめぇ何を!」
ノルマルがすかさず士官に食ってかかろうとしたが背後から兵士に取り押さえられた。
「嫌ですよ。自分でも説明が難しいだけでやましいことなんかありませんから」
ぼくは、にべもなく断った。
ニャイとジェイジェイ、ミトンの背後で兵士たちがあからさまに剣を抜こうとする音をかちゃりと立てた。
ノルマルは、まだ取り押さえられている。
兵士たちの役割は戦場の素人の護衛じゃなかった。
これがこの場に『同期集団』とニャイを連れてきた本来の目的なのだろう。ぼくの顔の確認のためなんかじゃない。ぼくへの脅しだ。
ぼくは鞘に納めたままの剣を外して士官に差しだした。
士官は恭しくとも言えそうな振る舞いで、ぼくの剣を受け取った。
斥候の二人がぼくの両脇にぴたりと身を寄せると左右からそれぞれがっちりぼくの腕を抱えこんだ。
「すまんな」と斥候。
「いいえ。そういうお仕事でしょうから」
「少なくともしばらく君を帰してはあげられないだろう。最後に久しぶりの再会を果たした今、仲間同士で交わして置く言葉はないか?」
士官が言った。
ノルマル、ジェイジェイ、ミトンが、それぞれぼくに目で、ニャイに何か言え、と訴えていた。
「あります」
ぼくはニャイの顔を見つめた。
ぼくは、ずっと気にかかっていたことを口にした。
「結局、スレイスたちは無事戻ったの?」
ぼくはヘタレだ。
『出陣前に未練を残さず』だけれども、これ『出陣』じゃないしな。軍による不当拘束だ。
ここでニャイに何かを伝えちゃったら、それがニャイにとって変な未練として一生残っちゃうかも知れない。
「みんな無事です」
ニャイはとても小さな声と泣きそうな表情で頷いた。
「良かった」
これは本当に心の底からのぼくの言葉だ。
ぼくは士官に目配せをした。もう話は終わり。
士官が『同期集団』とニャイへ告げた。
「この後、兵士たちが責任を持って君たちを探索者ギルドまで送り届ける。バッシュくんはこちらへ」
ぼくは斥候の二人に挟まれたまま士官の後に続いた。前方にいつの間にかテントが張られていた。
後ろの方でニャイが泣きながらとても大きな声を上げた。
「いやぁぁぁぁぁっ!」
絶叫が切なかった。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
『クビになった万年Fランク探索者。愛剣が『-3』呪剣でした。折れた途端無双です。』を、ここまで読んでいただきありがとうございました。
これで第三章は終りです。
このような小説が好きだ。
バッシュ、頑張れ。
ニャイ、頑張れ。
作者のばか。
ニャイを泣かすな。
続きを、早く書け。
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よろしくお願いします。
仁渓拝
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