第66話 増援

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 王国の増援部隊が到着した。


 取り急ぎ、騎兵部隊三百人が馬に跨り先行してやってきた。


 騎兵の後ろには何台か荷物を積載した馬車が連なっていた。


 後から歩兵部隊と他の馬車も来ているらしいが、そちらの到着はまだ先になるようだ。


 そういえば王国の斥候二人は、ぼくの案内でこの場所を訪れる際に時々馬を降りて手近な木に目印を残していた。目印は役に立ったようだ。


 ぼくたち三人は王国の増援部隊を迎えに出た。


 木柵で囲まれた陣地内にすべての人間と馬は入りきれない。


 入るだけならば入れるかもしれないが身動きが取れなくなるだろう。


 兵たちは、かろうじて残っていた木柵と周辺の木に馬を繋いでいく。


 木柵も逆茂木さかもぎも、かなりの量を崖上で遺体を燃やすために使ってしまっていた。生木よりは若干乾燥している分、まだ燃えやすいのだ。


 増援部隊を率いているのは、ぼくが駐屯地で話を聞いてもらったハーマイン副団長だった。出発する際に、ぼくを見送ってくれた、あの若い士官も同行していた。


「状況は?」


 ハーマイン副団長が、ぼくと行動を共にしていた王国の斥候二人に問いかけた。


「アルティア兵が崖上に防御陣地を設営していたためオークと協力してこれを撃退、橋頭保となる階段を破壊し崖下まで撤退させることに成功しました。以後は睨み合いが続いております」


 副団長は怪訝そうな表情を浮かべた。


「オークと協力とは?」


「馬の死体を使ってこの地にオークを誘導してアルティア兵へぶつけたものです。我々はオークに化けて戦場に紛れオークに助力しました。隙を見て階段の破壊を」


「それで二人ともそんな恰好をしているのか。無茶をしたな」


 王国の斥候二人は顔こそ出していたが身体にはオークの外套を纏ったままだった。


「先駆者がいましたので」


 斥候は、ぼくを見た。


 釣られて副団長もぼくを見た。


 ぼくは副団長と目が合った。


 ははははは、と副団長は、ぼくを見て笑い声を上げた。


「オークには俺たちも遭遇した。ここを目指すオークたちの流れがあるようだ。蹴散らしてやったがね」


 副団長の言葉に、だから追加のオークたちがあれ以後現れなかったのかと、ぼくは納得した。


 火の番をしながら崖上でぼくたちが背後からオークに襲われる状況を常に心配していた。もしオークが撃退できないほど多くやって来た場合は馬に飛び乗ってこちらを目指しているはずの増援部隊まで逃げようという腹積もりを斥候の二人とぼくはしていた。


「盾と弓、二人一組で配置につけ」


 副団長は、ただちに連れてきた兵士たちに指示を出した。


 ぼくと二人の斥候の役目はここまでだ。あとは副団長に任せよう。


 副団長と一緒にいた士官が、ぼくといた二人の斥候を呼びつけた。


 三人で馬車のほうへ去って行く。詳しい報告とか打合せとか何か事務的なやり取りがあるのだろう。


 副団長の指示に従い弓を持った兵士たちが崩落した崖の縁に沿ってずらりと並んだ。


 王国兵は階段にいるアルティア兵たちに対して狙いをつけた。


 弓を持った兵士たちのさらに前面に盾を持った兵士が立ち崖下からの矢の斉射に対する防御を担った。弓兵は盾と盾の間からアルティア兵を狙い射るのだ。


 対する崖下のアルティア兵たちも崖上に並ぶ王国の兵士たちに対して弓を向けた。


 王国の副団長はアルティア兵を威嚇するため、あえて兵たちに姿を晒させている。


 崖上に王国の兵士が展開した以上、もはや簡単には王国を侵略できないという事実をアルティア兵たちに強く認識させるためだ。


 それでも戦おうというのならば、お互いに泥沼にハマることになる。


 アルティア兵から一万本の矢が一斉に飛んで来れば王国の盾持ちがいくら盾で防いだところで防ぎきれずに味方に命中する矢も多く出るだろう。


 こちらの矢がアルティア兵を三百人ずつ減らしていくのと相手の矢が味方を削っていくのとどちらが早いか泥沼の競争だ。冷静な指揮官であれば選択しないはずだ。


 実際、階段にいたアルティア兵たちは崖上に大勢現れた王国兵を目にすると、すごすごと階段を降り始めた。


 王国兵としては倒すべき相手の順番は、まだ崖下にいる相手よりも既に階段にいる相手が先になる。もし崖上の王国兵が一斉に階段のアルティア兵を射れば彼らは一瞬でハリネズミだ。


 階段状のアルティア兵がすべて崖下に降りきった様子を確認してハーマイン副団長は王国の兵たちに構えを解かせた。


 崖下のアルティア兵たちも構えを解いた。


 ただし、睨み合いは継続だ。


 馬車方面から士官と斥候二人が戻って来た。


 彼らは、ぼくがよく知っている人物たちを伴っていた。


 ノルマルたち『同期集団』だ。

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