第55話 時間稼ぎ
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「危険だ。
斥候が言い切った。
「ほら、死ぬ気だ」
ぼくは指摘した。
「危険を感じたら、すぐ引き返せ、って言われてませんでしたっけ?」
「それは君に限った話だ。すぐ帰りたまえ」
確かにこのまま駐屯地へ帰りたいところだったけれどもアルティア兵の侵略の第一目標はどこだろう?
ぼくはアルティア兵に見せられた地図と会話を思い出した。
あの時、ぼくはアルティア兵の副隊長から一番近い町まで森を進むルートや、その町から別の要所に続く道の広さ、所要日数等を訊かれていた。
この場から駐屯地を目指すとは思えない。
目指すのは、やはり町だろう。
ぼくが拠点としていた町だ。
ニャイがいる。
もし援軍が到着する前に侵略が開始されると町へ着くのは侵略軍が先になる。
援軍は侵略軍を後ろから追う形だ。
後から町について侵略軍を倒せたところで、それじゃ遅い。
アルティア兵にとって獣人であるニャイは積極的な排除対象だ。
「作戦は?」
斥候に、ぼくは訊いた。
「どうやって時間を稼ぐつもりですか?」
「どうもこうも階段を上らせないよう邪魔をするしかないだろう」
要するに、作戦なし、と。
だからといって、ぼくに駐屯地へ帰る選択肢はなかった。
かといって、町へ向かったところで侵略軍には馬がいるので途中で追いつかれるに決まっていた。ニャイに警告は伝えられない。
ぼくは周囲を見回した。
馬の血とオークの血で、ひどい惨状だ。
倒れているオークの死体をあらためて数えた。
十三人だ。
なかなか、まとまった数である。
探索者をしていて通常一度に遭遇するオークの数は四人から六人といったところだ。もっと少ない場合も普通にある。
けれども、十人を超える大人数になることは、まずなかった。
大人数のオークと遭遇するのは複数の探索者パーティーがチームを組んで行う住み着いたオークの討伐とか、そういった依頼の場合だけだ。通常は軍が当たる。
要するにオークがまとまっている理由が何かある場合だけ大人数だった。
探索者が組むパーティーの人数も四人から六人。
オークだって四人から六人程度が集団行動の単位として適正な人数なのだろう。
十三人となると三パーティーだ。意味のない流しのオークではない。
何かオークが集まっている理由がなければ、いない人数だった。
もちろん、ここの場合、理由は崖の下のオーク集落だろう。
集まっている理由というべきか集まってくる理由というべきか。
ぼくが夜間オークの抜け道で囮という名の惰眠をむさぼっていた時、マリアたちはオーク集落を目指してやってくる様々なオークたちを狩っていた。
ぼくらが森側からオーク集落へ向かうオークの流れを止めていたため、しばらくは様子を見て近づかないようにしていたオークたちが、ぼくらがいなくなり抜け道の通行を誰も阻止しなくなったことから再びオーク集落を目指すようになったのでは?
そう考えることはできないだろうか?
まだ、この場所にオーク集落があるつもりで夜間どこかからオークたちが抜け道を通ってやってくる。
だとすると崖の上から集落へ降りるつもりで近づいてきたオークとアルティア兵は戦闘になっているのではなかろうか?
それもあって侵略前に崖上の防備を少しは整える必要があったのでは?
侵略から帰ったらオークに集落が奪還されていたでは目も当てられない。
もし、そうならばこれから夜が来る。
オークがやってきても不思議はなかった。
オークとアルティア兵の戦いが始まったらオークに化けてオークに加勢して、あわよくば隙を見て階段や防備に火をつける。そういう作戦は、どうだろう?
うまくいけば一日二日は稼げないか?
幸い、ぼくの装備はオークそのものだ。夜間なら尚更見分けがつかない。
「ぼくに考えがあるのですが」
ぼくは二人に作戦を伝えた。
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