第38話 夫婦

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 ぼくは、ぼくが自分の持ち場と決めた階段に向けて突っ走った。


「マリア!」


 と、走りながら、唖然として動きを止めてしまっているマリアに声をかけた。


 キングの死に驚きを受けたのはマリアもオークロードも、まったく同じだ。


 ロードも動きが止まっていた。


 けれどもマリアは、ぼくがオーク装備に身を固めていることを知っている。


 誰が何をしたか、わかったはずだ。


 マリアはロードよりも一瞬だけ早く我に返った。


 マリアはロードの首を突いた。


 マリアの剣がロードの首を跳ね飛ばした。


 もちろん、ジョシカとヘルダも動いている。


 二人がかりで自分たちに向かうオークロードを切り倒した。


 残された女オークロードもしくはオーククイーンが悲鳴とも怒号とも何とも言えない絶叫を上げ両断されたオークキングの体に地面に膝をついて縋りついた。


 キングとクイーン。普通に考えれば夫婦であるだろう。


 人間も魔人も夫婦の愛情の深さに代わりはなかった。食べ物が違うだけだ。


 クイーンの叫びでオークジェネラルたちが一斉にぼくたちにかかってきた。


 その他の肩書付オークたちも襲ってくる。


 殺到するオーク何某なにがしたちをマリアが瞬く間に切り伏せていく。


 ぼくは階段に辿り着くと階段に背を向けオークたちが誰も階段を上れないように立ちふさがった。


 階段から低い石壁へ跳ぶオークさえいなくなればヘルダが石壁を貫いて通路を塞ぐ邪魔な丸太や槍を除去するはずだ。通路を確保できる。


 そうすれば外から『半血ハーフ・ブラッド』本隊が押し入ってくるだろう。


 キングを倒しロードとジェネラルの多くも倒した。


 その他の肩書付やただのオークは悪名高い『半血ハーフ・ブラッド』にとっては敵ではないはずだ。


 もう一息だ。


 ぼくは殺到するオークジェネラルの剣を、のらりと避けた。


 追撃してくるジェネラルの剣も、くらりと躱す。


 その体勢から、ぼくは斬った。


 今までだったら非力なぼくの剣が当たっても固い肌や肉を持つ魔物だと弾かれてしまった。


 ましてやオークは防具を身に着けている。


 ほぼ確実にダメージを与えられないところだったが、ぼくの剣は防具ごと相手を絶ち切っていた。


 屈強なオークキングの肉体すら易々と両断できてしまうほど恐ろしい切れ味の剣だ。


『これ、絶対良い剣だ。無料ただで、もらっていい剣じゃない』


 ぼくは後でジョシカに然るべきお礼を払わなければ、と考えた。


 もちろん、無事に生き残れたら。


 前方から無数のオークたちが殺到してくるけれども、ぼくは前だけを見ているわけにはいかなかった。


 階段の上から低い石壁へではなく、ぼくめがけて跳んでくるオークたちがいた。


 弓や魔法で撃ってくる者もいる。


 ぼくは、それらを何とか躱した。


 例えば最愛の伴侶が死んだ時に、この先、自分だけ生きていたってしょうがない、と感じてしまうような強い愛情で結ばれた関係というのは確かにあるだろう。


 クイーンにとってのキングに対する愛情がそこまでのものかはわからないが、大切な仲間を害された時に自分がどうなったとしても必ず仇を取るとか復讐してやるという思考に至ることなら、ぼくにも理解できた。


 ぼくはクイーンからすれば旦那の仇だ。復讐相手以外の何者でもない。


 ぼくによる、まさかの不意打ちで死んだキングの遺体に縋っていたクイーンは、やがてその顔を上げると、はっきりと血走った赤い目で、ぼくを見た。


 ぼくと目が合うや爆発的な速さでそのまま、ぼくめがけて真っすぐに突っ込んできた。


 剣も抜かずに、ただ両手を伸ばして、ぼくを掴もうと突っ込んでくる様は、もうどこか精神のタガが外れてしまっていると思わせるに十分だった。


 ぼくは咄嗟に突っ込んでくるクイーンの体の左側に逃げるようにしながら横薙ぎに剣を振った。


 突き出してくるクイーンの両腕の下を通ってやいばが相手の腹を裂いた。


 瞬間、クイーンは自分の左足を支点にして、くるりと向きを変えた。


 クイーンはクイーンの左側に逃げようとする、ぼくに向かってきた。


 小山のようなクイーンの体が、ぼくに突っ込んだ。

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