第37話 ただし、その限りではない。
37
ぼくは、ぼくの前を通り過ぎていくオークキングたちの後に続いて素知らぬ顔で歩きだした。
ぼくに倣って他のジェネラルたちが続く。
ぼくは最前列の次の位置に着いた。
最前列は、もちろんキングたち四人組だ。
オークキングたちと対峙し四人組に剣を向けたマリアの顔が明らかに、ひどくゆがんでいるのが見て取れた。
脅えではない。
作戦失敗を悟った、という顔だった。
さっきまでは、まだ立て直せる可能性を抱いていたのだろう。
ジョシカとヘルダも同様に四人組に剣を向けていたが、やはり顔が引き攣っている。
戦闘は一時的に止んでいた。
オークたちは全員、オークキングに注目していた。
本来こんな千人規模のオークの集団にオークキングなど存在しない。
最低でも万人単位の集団を率いる存在だ。
十万人単位だって不思議ではない。
なにせ『
ということはキングは、この集落を万人規模にするつもりなのだろう。
現状の十倍以上になる。
ジェネラルですら本来百人単位のオークを指揮する存在だ。
そんなジェネラルがぞろぞろいる時点でキングには、もっと集落の規模を大きくしようという心づもりがあるのは明らかだ。
集落ではなく国興しのつもりなのかも知れない。
隣国が多大な犠牲を払ってでもこのオーク集落を今、殲滅しなくてはいけないと考えた理由がよくわかる。
であるならば、本来、国同士が不仲だとしても、ぼくたちの王国と連携をとるべきなのに。
オークキングの討伐適正パーティーランクはA。
討伐適正探索者ランクはSだった。
Sランクの探索者など、
単独ではオークキングは討伐できない。
マリアたち精鋭チームの実力はAランクパーティーには匹敵するだろう。
チーム戦ならばオークキングを倒せる可能性はある。
残り三体のオークロードさえ存在しなければ。
マリアが作戦失敗を悟るのも無理はなかった。
オークロードに守られながらオークキングがオーク語でマリアに何か言った。
聞いていたオークたちから下卑た笑い声が上がった。
何か卑猥な響きがする笑い声だった。
マリアがオーク語で受け答えた。
つまらなそうにオークキングがロードに何か言った。
オークロードの一人が剣を抜き、ゆっくりとヘルダとジョシカのほうへ歩きだした。
もう一人のオークロードも、やはり剣を抜き、マリアの前に出た。
キングと女オークロードは動かない。
完全に勝ったつもりでいるようだった。
もはや高みの見物だ。
オークキングが一声吠えた。
「ぐおお」と、ぼくには、そう聞こえた。
実際には「かかれ」とか、そんな意味の言葉を発したのかもしれない。
オークロード二人が、それぞれの相手へと突っ込んでいく。
同時に、ぼくは剣を抜いた。
ぼくの目の前には無防備なオークキングの背中がある。
体の大きさが違うだけで肉体の構造はオークジェネラルと同じはずだ。
だったら心臓の位置はわかる。
先日、貫いたばかりだった。
前から突くか後ろから突くかの違いだけだ。
剣が軽い。
以前、使っていた、ぴかぴかのロングソードに比べれば羽毛の軽さだ。
切っ先がキングの背中に当たる。
そのまま体重をかけて、ずぶりと押し込んだ剣の先端は胸から前方へ飛び出した。
ぼくはオークキングの脇を駆け抜けた。
駆け抜けながら、ぼくは剣を捻りあげた。
ぼくの剣がキングの胴を薙いでいく。
心臓の位置でキングは胸より上と下の二つに分割された。
やっぱり背後からの不意打ちの力は絶大だ。
ぼくが今までやってきた、のらりくらりは、ノルマルたちにもきっと役立っていたはずだ。
オークキングの討伐適正探索者ランクはS。
ただし、背後から不意打ちを仕掛けた場合は、その限りではない。
二つになったキングの肉体が地面に転がった。
キングは、もう何も言わないし動きもしない。
即死だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます